ついてくるもの
ごみの山を登る──
ただそれだけの行為が、これほどまでに“異様”だとは思わなかった。
足元が安定しない。
金属片、繊維、液晶片、乾ききった粘液のようなもの……。
踏みしめるたび、何かの“残骸”が鈍く音を立てて崩れる。
トワは一歩ずつ確かめながら進んでいた。
「……これ、登ってるというより、“崩れてないほうが奇跡”ってレベルだな……」
手をついた先で、硬質な“書板”を見つけた。
擦れた印刷文字。どこの言語かわからない──否、読める言語がこの世界にはそもそも存在しない。
「……これも、誰かの世界から来た“言葉”か……」
その一瞬、背後から“カタリ”と音がした。
振り向く。
そこに──マネキンがいた。
距離は五歩ほど。
何も言わず、何もせず、ただ“立っていた”。
動いた様子はなかった。
なのに、先ほどより確実に“近く”にいる。
彼は無言のまま目をそらし、また登る。
やがて──再び“カタリ”。
もう一度振り返ると、マネキンはさらに二歩分だけ“接近”していた。
「……おい、ついてきてんのか?」
返事は、もちろんない。
ただ、まっすぐに、こちらを見ている。
それが──不気味なのに、どこか“安心感”すらあった。
登るにつれて、風が変わる。
臭気が薄れ、代わりに“焦げたようなにおい”が混ざってくる。
トワはふと、足元の破片に目をとめた。
それは……装飾の施された“盾のようなもの”。
割れた銀の縁に、かすかに紋章が残る。
剣と槍と火を模した──どこか“軍”のような意匠。
(……誰かが戦ってた?)
風の向こうに、同じような“廃兵器”の残骸が連なっていた。
焦げた鎧。折れた槍。
かつて“戦場”だった可能性が、ここに眠っている。
(この山……上に行けば行くほど、過去の痕跡が“暴れて”くる)
ザリッ──
トワの足が沈む。
視線を落とすと、そこには──
“布に包まれた、何かの遺体”のような形状。
既に干からび、形も判別できないが……手だけは、人に似ていた。
「……」
彼は目を伏せ、そのまま黙って踏み越える。
再び、後ろから“カタリ”。
振り返る。
マネキンは──今度は、横を向いていた。
真っ直ぐではなく、ほんの少しだけ“足元の死体”を見ていた。
まるで、“記憶”を拾い上げようとしているかのように。
「……お前、本当に、何なんだよ」
静かな問いかけ。
マネキンは、動かない。
けれど、また“音もなく”、後ろについてきた。
そのとき。
遠く、風の向こうから“気配”が届く。
──誰かが、いる。
それも、**“人ではない何か”**が。