表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

名もなき声

マネキンは再び沈黙した。

だが、その背中から、トワは目を離すことができなかった。

“沈黙”という名の意思が、そこには宿っていた。


彼は深く息を吸い込み、まだ見ぬ山の上層部へと目をやった。


「……登るか。少しでも、“何か”を知りたい」


ごみの山を登る感触は異様だった。

靴底の下で、無数の過去が音を立てる。

携帯電話、ぬいぐるみ、金属、書物……。

世界が、否応なしに“切り捨てたものたち”。


登るごとに風が変わる。


──そして。


霧の向こうに、“誰か”がいた。


全身を漆黒の布で覆ったような、人型の影。

だが実体感がない。

その“顔”にあたる部分は、まるで水面のように波打ち、定まらなかった。


だが、確かにこちらを“見て”いる。


その者は、動かない。

ただ、トワの行動を「見届けていた」ように、ただそこに在る。


「……お前、誰だ……?」


返事はない。


だが──頭の奥で、“意味”だけが流れ込んできた。


【観測──完了】

【記録:0001】

【再構刻因子:回収困難】

【構築者:定義外】

【干渉:保留】


(……声じゃない……)

(頭の中に、何か……情報が……直接……?)


トワは目を押さえる。眩暈のような思念の奔流。

自分の記憶を誰かに覗かれているような感覚。

だが、強制ではない。どこか、試されているような。


──“言葉ではない”やりとり。


それは言語を超えた、**次元そのものの“触れ合い”**だった。


黒い影は、わずかに手を上げるような動作を見せる。

まるで「やがてまた会う」とでも言うように。


そして──霧の奥へと、音もなく溶けていった。


残された空気は、異様なほど冷たかった。

だが、彼の胸の奥には、確かな“気配”が残っていた。


それは、今後の旅において──

“彼ら”が繰り返し姿を現し、

そのたびに物語の流れを“調整”してくる存在であることを、

彼はまだ知らない。


「……誰かが……俺を、見てた……?」


そう呟いたとき。


空の彼方。浮かぶゴミの島の下で──

微かに“光る目”が、ひとつだけ、瞬いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ