赫き殻(カラ)と、呼び声
倒れ伏したヘロドは、断末魔すら上げなかった。
ドク……ドク……
黒緑色の血液が地を汚し、その中心に・・“なにか”が残っていた。
「……あれは……?」
トワが慎重に近づく。
血の中にぽつりと浮かぶそれは、小さな“赤い殻”だった。
指先ほどのサイズ、まるで甲殻類の欠片のように見えるそれは、異様に輝いていた。
「なんか……光ってる……熱を持ってる……?」
セランが一歩前に出て、顔をしかめる。
「……違う、あれ……“鼓動”してる」
トワはそっと手を伸ばす。
触れた瞬間・・・
ビキィィィンッ!
視界が真っ赤に染まった。
いや、染まったのではない。“何か”が脳に直接流れ込んできた。
【……カエセ……】
【……カエレ……】
【……カンゼン……ナ……カタ……】
「……うっ……!」
トワは反射的にそれを手から落とした。
けれど、もう遅かった。
赫き殻は、彼の“記憶”の奥底に、何かを刻み込んだ。
『……それは、過去の断片。
封じられた記録が、君の中で再構されようとしている』
マネキンがぽつりと呟く。
『それを持ち続けることは、君に“道”を示すことになるだろう』
「これ……何なんだよ、マジで……」
『それは“赫殻”かつて神話の時代、禁忌の種族が内包した“記憶の器官”』
「器官?……記憶?」
セランが静かに言う。
「それ、“生きてる”よ。眠ってるけど、起きようとしてる」
トワは、赤い殻を拾い上げた。
そして、胸ポケットに仕舞い込んだ。
「じゃあ……起きた時に、聞いてみよう。
“お前は、誰だ?”ってな」