再構刻ノ刻
もう立てない。
トワの膝が崩れる音が、瓦礫に鈍く響いた。
「くそっ……なんで、俺が……!」
全身が痺れている。
背中から打ちつけた鉄板の感触すら、もう感覚にない。
目の前には、さっき倒したはずの“怪物”
異様に膨張した体躯、どろどろに溶けた皮膚の“何か”が、まだ蠢いている。
「しつこい……んだよ、化け物がっ……!」
トワは拳を握ろうとしたが、指先すら動かなかった。
短剣は砕けていた。
カラン……
背後で、小さな金属音がした。
振り向けば、“あれ”がいた。
無表情のマネキン。
いつからそこに?
いや、そもそも、あいつはずっと、ずっと後ろから付いてきていた。
「……お前、なんなんだよ」
無言。
だが確かに、“こっちを見ている”。
ぞわ、と背筋をなぞるような感覚が走った。
その瞬間・・・トワの脳内に、声が響いた。
「再構刻ノ刻、至ル。
問ウ。“我ニ、再構刻ヲ許スカ?”」
「……は?」
目の前のマネキンは何も言っていない。
けれど、“脳に直接”響いたような──そんな錯覚じゃない。これは、現実だ。
「俺に、問いかけてる……?」
トワは目を見開いた。
マネキンはただ、じっと佇んでいる。動かない。喋らない。だけど
「答エヨ。“汝ハ、我ニ触レ、再構刻スル意志アリヤ”」
「っ……そんなの、わかんねぇよ……!」
混乱が、怒りに変わる。
「意味わかんねぇんだよ……!なんで俺なんだよ!
俺はただ、気づいたらこんな世界にいて、ただ生きたくて……!」
拳を地面に叩きつける。
「それだけなのに……!!」
静寂。
マネキンの“視線”だけが、変わらずトワを見据えていた。
そして、また、脳に言葉が届いた。
「触レロ。“再構刻”ノ刻ハ、今此処ニアリ。
ソレハ、“運命ノ連鎖”ヲ導ク鍵トナル」
「……再構刻……」
トワの指が、かすかに動く。
ふらつく腕を伸ばし、マネキンの胸部に、そっと、触れた。
その瞬間、
世界が、変わった。
視界が焼ける。
頭の奥から、雷が走るような衝撃。
鼓動が速くなる。いや、爆発するようなリズムが脈打つ。
「なに、これ……!?身体の中が……ッ、燃える……!」
その手から光が奔る。
マネキンの体表に、“文字”のような、回路のような黒い紋様が浮かびあがった。
その一部が、トワの腕へと流れ込む。
痛み、苦しみ、でも・・確かな、“力”。
「我ノ名ハ、“ナレ=ルフェクト”
“仮面なき傀儡” 封印されし《黙示ノ王》」
「……ルフェクト……?」
「汝ノ覚醒ヲ、124年、待チ続ケタ。
……此処ヨリ先、汝ハ“再構刻者”トナル」
最後の言葉が、鋼のような響きで刻まれた。
「最初ノ“王”ト成レ。トワ=ミル=ネイム」
トワは、気づけば立ち上がっていた。
疲労も痛みも、どこかに消えていた。
ただ、握る拳に、かつてない力が宿っていた。
目の前の“異形”が再び襲いかかる。
「……なら、試してみるか。俺の“再構刻”ってやつをよ──!!」