沈黙の胎動
影の正体はいくら考えても結果なんて出なかった。
「あの異形は今後の俺を常に監視してるってことなのか」
「別にいいんじゃない?やるべきことやるだけだもん!」
「やるべきこと・・・今は水分と食料を確保することがやるべきことだな。」
「私の格納庫にある程度の食料と水はあるから安心して?」
「それは助かる・・しばらく当てにさせてもらうよ。仮は必ず返すからな。それと、このマネキンの正体は何だろうな?俺に懐いてるようだけど・・」
「知らなーい。あ、廃都の大昔の王様だったりして?なんてね。アハハ」
「何を馬鹿なことを、そんなわけ・・・とろこでこの世界はこういう物体が動いたり話したり生活してたりするのか?
「しないよ。いろんな種族がいて、そんな見た目の生物はいるけど、そういう物体が動き出すことはないよ」
出会ったときのまま、顔には一切の変化がない。
しゃべらない。動きに迷いもない。
目も合わない。だが、間違いなく“ついてきている”。
トワは、思わず背中に冷たい汗を感じた。
「……あれ、自分の意志で歩いてるのかな?」
「再構刻で動いた、はずなんだ。でも……あいつ、まるで“初めからここにいたみたい”に自然で……」
言いながら、自分でも言葉の意味がわからなくなっていく。
ふと、思い出す。
再構刻で“再起動”したとき、確かに感じた。
ほんの一瞬・・・そこに、「何か」と目が合った感覚を。
(あの時の、あれは……)
考えようとした瞬間、マネキンの頭部がカクンと傾いた。
音もなく、トワの背後で、ただこちらを向いた。
目は動いていない。
仮面のような無表情のまま、首だけが動いたのだ。
ゾクリとする。
その動きには生々しさも、機械的な規則性もない。
ただ、“それ”は動いた。
セランがごくりと唾を飲み込む。
何かが違う。
なにか・・・“とてつもなく古くて、深いもの”が眠っている。
それだけは、確信に近かった。
沈黙の中で、また風が吹いた。
その瞬間・・・マネキンが、一歩だけトワの隣に追いついた。
音もなく。振動もなく。
まるで風の一部のように。
「……まだついてくる気か?」
問いかけてみる。
返事はない。
けれど、それが答えだった。
トワとセランは顔を見合わせ、わずかにうなずき合う。
そして、三つ目の影を加えたまま、再び歩き出した。
冷えきった瓦礫の上に、足跡が三つ
確かに、並んで刻まれていた。