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語られなかった足音

夜が近づいていた。


かつて都市だったであろうその一帯は、瓦礫と沈黙と、それから焦げた記憶の匂いに包まれていた。

空にはまだ赤黒い雲が広がっていて、陽が落ちても“夜”にならない。空はいつまでも不安定なままだ。


トアとセランは、ひび割れた鉄の道のような残骸の上を歩いていた。

下に広がるのは、ごみと泥に覆われた沈んだ街。かつて人が暮らしていた痕跡・・・いや、“暮らしていたと思わせる”何かが、静かに積もっていた。


相変わらず二人の後をついて来るマネキン。

とても歩きにくそうだ。


トワ

「お前はいったいいつまでついてくるんだ・・」


マネキン

「カタカタ・・・」


「……ねぇ、トワ」


急にセランがふと立ち止まり、つぶやくように声を落とす。


「あなたは、どうして“そんな風”に笑えるの?」


「え?」


「この世界って、すごく酷い場所じゃない?

 私たちは、何も知らないままここにいて、いろんなものが壊れて、捨てられて、それでも前を向いてる。

 ……なのに、あなたは時々、優しい顔をする。どうして?」


トワは、しばらく黙っていた。

足元の鉄板がぎし、と小さく鳴った。


「……笑ってるつもりはなかったな。

 でも、もしかしたら“誰かと一緒”ってことが、俺にとってすごく久しぶりだったからかも」


「誰かと一緒、って?」


「ずっと、ひとりだった気がするからさ。

 誰かと同じ場所を歩いて、誰かと同じものを見てるってだけで、少しだけ安心できるんだ」


セランは何も言わなかった。

けれど、その目に浮かんだのは、どこか懐かしさのような、遠い感情だった。


ふたりは、巨大な岩の亀裂を越え、小さな建物の影に身を潜めた。

ちゃっかりマネキンもいる。

風が止み、灰が落ち、しばらくの静寂。


そんな中、遠くで何かが“動く音”がした。


「……何かいる」


トワが先に気づいた。

セランも、すぐに頷く。



“それ”は、建物の裏にいた。

人か・・獣か・・あるいは。


「気をつけて、セラン」


「うん。でも……なんだろう、この感じ」


セランは小さく震えながらも、何かを知っているようだった。


それは、まるで“待っていた”ような気配。

この地で何かが、“来るべき者たち”をずっと待っていたかのような。


トワは、再構刻の印に意識を向ける。

セランは、足元の影に手を伸ばした。


影が、わずかにざわめく。


そして・・暗がりの中から、“最初の存在”が姿を現そうとしていた。



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