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実績:北部同盟軍元帥討伐

(来る!)


 アレクセイは咄嗟に身を伏せると、頭すれすれに刃が横薙ぎに通る。続けて剣撃が放たれ避けていくと、相手の剣はアレクセイの背後の岩にめり込んだ。だが止まることは無く岩を砕き、そのまま振り切った。

 普通に喰らえば鎧を着てようが一刀両断にされるだろう。低い体勢からアレクセイは相手の喉目掛けて突き技を放ったが、ガントレットで防がれてしまう。

 アレクセイは体力も持久力も攻撃力も人とは思えないほど優れている。だが体の打たれ強さは他より劣り、粉砕骨折をヒビが入る程度の怪我に収められる程度だ。

 だがこの男は体そのものが鋼のようだ。そして鎧を着ていると思わせないほど動きが軽い。


「おらよ!」


 再び振るわれる剣を避けるが、隙ができた腹部に男の蹴りがめり込んだ。


「っ!」


 喰らう寸前に吹き飛ばされる方向へ飛び退いたため、ダメージは半減させることができた。それでも全身が痙攣を起こし、痛みによる冷や汗は顔を濡らした。


「おお、今のを受けて死んでないのか。流石は同じ血を引く者だ」


 その言葉は男が相手を蹴りだけで殺せることを意味している。

 男の猛攻をどうにか退けるが、これでは防戦一方だ。反対に男は相手がすぐ潰れないのが嬉しいらしい。次から次へと剣技を放ちアレクセイを追い詰めていく。

 アレクセイも負けじと隙間を縫って狙い、剣を振るった。


「ははっ、その目にアシュレイの名はフォルティオンの王族だろう。この国にここまでの手練がいるとはな」

「そちらこそヴァルストンの騎士がこれほど強いと思わなかった」


 騎士団に所属している割には型に決まりが無く、自由な軌道で剣を叩き込んでくる。清廉さは無いが、命の奪い合いを続けてきた獰猛さが男の強さを確かなものにしているのだろう。


「俺は元々はただの流れ者だった。だが王族の血が流れていると判明し、今ここで俺は英雄の再来と謳われている」


 巨大な大剣を振り続けていても、少しも息があがる様子がない。アレクセイは腰に仕込んだ投げナイフを放つも、腕で払われるだけだった。


「俺の華となり散れ、小さな騎士様よ!」


 瞬間、大勢の悲鳴と共に大きな火柱があがる。ワンがやったのだ。衝撃が地面を走って大きく揺れ、倒れないよう踏ん張る必要があった。

 周囲を見れば多数あった投石器はすでに破壊され、割れた地面に何人もの敵兵が飲み込まれていく。熱風に運ばれて土と血が混じった臭いが届き、無慈悲さに目を奪われた。


「こりゃまるで神話の悲劇じゃないか。やはりあの竜は本物だったか」


 リカルドの声も風に掻き消される。

 ワンは口から煙をあげ、豪炎を吹き出し空を赤く染め続けた。圧倒的な恐怖を刻みつけるためだ。

 アレクセイを傷つけることは許さないと牽制しているようにも見える。リカルドも同じことを思ったようで「忠犬かよ」と地面に唾を吐いた。


「このまま戦い続けてもそちらが不利になるだけだ」


 リカルドはアレクセイをきつく睨みつけた。


「英雄の血を引き、竜を駆る騎士様か。贅沢なことだ」


 だがリカルドとの戦いにワンを介入させるつもりはない。これは自分の戦いで、己の手で相手を討ち取ってこそ意味がある。

 リカルドは深く息を吐き、空を飛び続けるワンを横目で見た。


「お前は知っているか。我らの人並外れた能力は、人の手で生み出された突然変異だと」

「初耳だな」

「千年前、人は命を作り出せるほどの力を持っていたそうだ。だが力に溺れ、驕った罰として限られた土地に閉じ込められた」


 同じ血を持つ相手に出会えたのがよっぽど喜ばしいのか、相手は意気揚々と語り続ける。アレクセイは舌打ちをして話を遮った。


「何が言いたい」

「いつでも世界を荒廃させるのは人のエゴということだ」


 なぜ人が住む国がここまで小さく荒れ果てているか知らなかった。この男は人間のせいなのだと言いたいのだろう。そして元凶はアレクセイたちの祖先だと。


「あの竜のルーツは一体なんだろうな」

「わからない。それでも前に進むしかない」


 問いに答えるとアレクセイは足を踏み直し剣を構えた。次の攻撃で決める。


「その覚悟は認めよう」


 リカルドも同じように自分の得意な型で構える。アレクセイは相手の呼吸や空気の流れ、気の張り詰め具合を読み取り、一呼吸で相手の懐に飛び込んだ。


「バカ真面目だな」


 直線上に突っ込むアレクセイにリカルドは真上から剣を振り下ろした。

 刃がアレクセイの頭を叩き割る……前にアレクセイはさらに加速し、刃で相手の胴を捉えた。

 剣を握る腕から全身にかけて血液が沸騰するように力が漲る。己の中で騒めく血に答えて剣を振り抜き、鎧ごと肉も骨もまとめて断った。


「ぐっ!」


 流石に真っ二つとまではいかなかったが、胴は半分ほど千切れており確実に致命傷だ。

 暗殺者時代に身につけた素早さには、相手もついていけなかったようだ。大量の血を流したリカルドは口から鮮血を噴き出した。


「はっ……見事だ」


 満足気に賞賛すると、仰向けに倒れ息絶えた。まさか負けると思っていなかったのか、周囲の敵兵は呆然としている。


「お前たちの軍は深刻な被害を受けている。これ以上戦いを続けるのは不可能だ。命を尊いと思うならば引け」


 アレクセイの言葉と共に空で赤い光が弾け散った。ワンが上に向かって炎の塊を吐き出したのだ。引かねば次はお前たちに向かって放つぞという脅しを込めて。

 目の水分が干上がりそうなほどの熱を身に受け、人々はその光景に釘付けになる。


「竜の怒りを呼び起こしたのだ」


 1人がそう呟き震え始める。元帥を討ち取られ、人智を超えた存在が襲いかかってくる。理解しきれない恐怖は次々と伝播していった。


「このっ……調子に乗りやがって!」


 アレクセイの背後にいた歩兵が混乱したまま斧を振り上げ襲いかかるが、アレクセイは振り向きもせず剣で相手の喉を切り裂いた。リカルドと比べればいくら数がいようと大した脅威ではない。

 頬に返り血をつけ睨むアレクセイに、敵兵たちは後退りをして、間もなく撤退を始めた。

 劣勢を強いられ続け絶望していたフォルティオン兵達は、唖然としたままアレクセイを見ていた。

 人の命で赤黒く染められた地面。竜の怒りで煌々と燃える空。


「争いなんて、不毛なだけだ」


 ため息混じりの言葉を吐き捨てると、恐ろしくも美しい竜がアレクセイの元に飛んでくる姿が目に入った。


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