ある酔い潰れの話
とある冒険者組合所に隣接する居酒屋でいつも酔い潰れているおじさんがいた。
彼はこの居酒屋の有名人であった。
もちろん悪い意味での――。
どうも彼がこの居酒屋に居着いてしまってから長い時が経ってしまったようである。
そのためか、この居酒屋を利用する冒険者達にとって彼は風景の一部となっていた。
彼はいつも酔い潰れているだけで悪さをすることもない。
「彼に酒を奢ると無事に帰ってくることができる」
そんな噂も広がり、彼が酒を切らすことがない一因にもなっていた。
彼はどうも凄腕の冒険者だったらしい――。
そんな噂もあった。
だが常に酔い潰れている姿からそんな過去を思い浮かべることは難しく、彼を冒険者だと思う人は居なかったのである。
冒険者という仕事は過酷だ。
それでも冒険者という職業を目指す人間が後を絶たないのは、未知への探究心と過去の名を残している冒険者への憧れが理由であった。
体一つで名を残し財を為すことができる職業は冒険者という道しか存在しないのである。
命を落とす冒険者も多い。
彼に酒を奢る者が後を絶たないのもそれが理由であった。
三年もすれば居酒屋に集まる顔ぶれは大きく変わってしまう。
彼はその光景を眺め続けているのである。
彼の目には何が見えているのだろうか。
今日も彼は酒を飲み酔い潰れている。
そして今日もまた冒険者達が旅立っていく――。
(了)




