剣聖公爵様と貧弱聖女のわくわく体力トレーニング
なろうラジオ大賞投稿作品のため、1000字の超短編です。
体力が欲しい。
確かにそういった。
式典で立ちくらみを起こして倒れた後、ベッドサイドで眉間に深い皺を刻んでいる剣聖を見上げて呟いた。
『あ〜今すぐ腹筋割れないかな〜』ってノリだ。
すると剣聖な公爵様がいった。
「俺が君の専属トレーナーになろう」
は?
元は『魔王を倒す旅の仲間』であり、今は公爵様である友人から発せられる言葉とは思えなかった。
冗談かな。きっと冗談だろう。納得して寝た。昨日は明け方まで残業だったのだ。
「おはよう。いい朝だな」
冗談ではなかった。彼は翌朝からやってきて、私と毛布を泣き別れさせた。いつもならあと30分は寝ていたのに!
今日はその30分で朝食を食べさせられた。
私の目つきの険しさといったらオークも顔負けだったろうが、一口スープを飲んで完敗した。やば、美味しい。あっさりしているのにコクがある。これぞ五つ星グルメ。うま。さらに食後の散歩にも連れて行かれた。疲れた。
美味しいご飯に免じて許してあげますわと寛大な聖女ムーヴをしていたら、夕食時にもやってきた。また散歩に連れて行かれた。眠くなった。
2度あることは3度ある。恐ろしいことに彼は夜更けにも現れた。神殿も静まり返った真夜中だ。幽霊!?と叫んだ私に、彼は渋い顔でいった。
「働きすぎだ。帰って休め」
怖い。一日だけなら暇だったのかと水に流せても、ただいま10日間続行中。散歩に加えて簡単な運動をしている。剣聖サマにいわれるがままに爪先立ちしたり太ももを上げたり。これぞ専属トレーナーだ。でもこの男が多忙な公爵様だと思うと一気にヤバみが増す。神殿の皆には「顔色が良くなりましたねえ」なんてニコニコされるけど、みんな正気か?
私は木の棒で剣聖と戦う羽目になったオークの気分を味わっている。
そんな中で王子が視察に来た。元旅の仲間だ。私は同胞オークを増やすべく必死に訴えた。公爵が聖女の専属トレーナーって何なのさ。
「でも君、まだあいつが好きだろう?」
私は怒り狂ったオークになった。失恋してることを知っているくせに、万死。
「あいつに口説き方を聞かれたんだよね」
吐きそうである。以前、婚約者のいない彼に「将来を考えている相手とか、いるの?」と探りを入れて「ああ」と真剣な瞳で頷かれたことは忘れられない。婚約してないだけで幼い頃からの許嫁とかいるんだろう。
王子は笑いを堪えた顔でいった。
「だからアドバイスしたんだよ」
相手の欲しい物でもプレゼントしたら?ってね。
貧弱サイドの人間は普通の筋トレをすると早々に膝か腰を痛めるから筋トレ未満から始めよう!