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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
幽鬼ファントムカイラインの脅威
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アスタリウスの正体

 夕暮れ時の空き地でドラグラスは一人たそがれていた。今回の事件で一人勝ちしていたのはバイパラスだろう。

「ネガニウムが大量ですわ」

 と、ほくほく顔でクーグッツへと報告をしに行っていた。「もちろん、ドラグラス様へのおすそ分けも用意しておりますわ」と言付けをしていく辺り抜け目はない。


 それに対し、ドラグラス自身の戦績は散々なものだった。魔法少女を討伐するどころか、部下を一人失ってしまったのだ。加えて、あの戦いでの立ち振る舞いを指摘されては、言い逃れはできない。下手をすれば除名もあり得るだろう。

 しかし、意外にも悔いはなかった。負けたはずなのに、これまで感じたことのない高揚感に浮かされているのだ。


 いつまでもたむろしていても仕方ない。とりあえず、帰還しよう。そう決心した時だった。

「ここに居たんだ。なんか、そんな気がしたのよね」

 気だるげな声とともに、誰かが地表に降り立つ音がする。誰何する必要性もないだろう。ドラグラスは不敵な態度を維持したまま、ゆっくりと振り返る。案の定、そこにいたのはアスタリウスだった。


「ここ、前に蛇女と戦ったところじゃん。あんたのお気に入り?」

「別に因縁はない。それよりも、俺に話があるのではないか?」

「すっとぼけるんだ。あんたから言い出したことじゃん。ファントムカイラインを倒したら相手してくれるって」

 そういえば、そんな約束をしていたな。回顧した後、ドラグラスは一笑に付す。

「魔力もろくに残っていないのに、俺とやり合おうと言うのか」

 あまりにも安すぎる挑発。これに乗ってくるようであれば、逆に心配になるレベルだ。


 だが、アスタリウスは佇んだまま戦闘の意思はない。予想外の態度に、ドラグラスは眉根を寄せる。それを察したか、アスタリウスは嘆息する。

「あのさ。あたしをバーサーカーか何かと勘違いしてない? さっき倒した怪物じゃないんだから、この状態で戦っても勝ち目はないことぐらい分かってるっての」

「ほう、それぐらいの分別はあるか。だが、残念だったな。俺が手心を加えると思ったか」

 ドラグラスは攻撃姿勢をとる。しかし、アスタリウスに動じる様子はない。


「あんたが、そういうキャラじゃないってのは分かってるっての」

「うむ、そうか」

「やっぱ、そうじゃん」

 にへらと口角をあげられる。嵌められた気分がして釈然としなかった。


「っていうか、あの怪物はあんたの差し金? よりにもよって、死神モチーフとか趣味が悪すぎるし」

 自身の胸を手で抱き寄せ、身震いをする素振りをする。ドラグラスは勢いよく首を横に振った。

「俺は関与していない。あいつの独断専攻だ」

「いや、まあ、それはどうでもいいんだけど」

 「いいのかい」と心の中でツッコんでおいた。すると、アスタリウスはお茶らけた態度を改め、腰に手を添えた。


「あんたさ、どういうつもり? アマテラスとツクヨミを呼び寄せたのもだけど、明らかに仲間に向けて攻撃してたよね」

「そこまで看破されていたか」

「情けをかけているつもりなら、余計なお世話だし。妙な事考えてるなら、刺し違えても止めるよ。一応、あたしも魔法少女の端くれだし」

「魔法少女の自覚が出てきたか」

「ごまかさないで。さあ、さっさと答えなさい」

 返答をうやむやにできないかとカマをかけたが、下手な返答は逆鱗に触れるだけのようだ。ならば、腹を割るしかなさそうである。


「お前はこの俺が、この手で倒したかった。ただ、それだけだ」


 アスタリウスは呆気にとられる。目を瞬いたところで返答は変わらない。素直な胸の内を吐露するなら、これ以外に言葉は無いのだ。

「そんな理由で仲間を売ったの? 正気?」

「失礼な言い様だな。嘘は言っていないぞ」

「いや、分からなくはない。でも、それで組織を裏切るとか。あんた、バカ?」

「貴様も似たようなものだろう。散々セオリー崩しをしていたくせに」

「別に、セオリーとか気にしたつもりはないんだけど。あんたらを倒す最適解がああなっただけだし」

 あっさりと開き直った後、ビシリと指を突き出す。


「あたいのことはいいんだって。問題はあんたよ、あんた。本当にどういうつもり?」

「それは、どうして俺がお前に拘泥するか。そういう質問でいいんだな」

 予期していた疑問であった。そして、それに対する返答も用意してあった。


 かつて、バイパラスに尋ねたことがあった。どうして、ドラグラスに拘泥するのか。彼女のその時の返答は概念としては知っていた。だが、具体的にどういうものかは説明がつかない。と、いうより、ドラグラス自身には縁遠いものだと思っていた。


 しかし、もしかしたら、現状抱いている「コレ」こそ、その正体なのかもしれない。ドラグラスは顎をさする。そして、アスタリウスを真正面から見据えた。

「アスタリウス。お前のことが好きなのやもしれん」

「……は?」

 随分と呆けた声を出す。聞こえなかったのかと、ドラグラスは更に声を張る。

「だから、貴様のことが好きなのやもしれん」

「二度も言うなし!」

 大声で遮られた。


「あんた、正気なわけ? 人間ですらないくせに、そんなのありえないでしょう」

「だが、貴様のことを考えると、どうにも胸がざわめいて仕方ない。この感情を人間の言葉で表すなら、そうとしか言いようがないだろう」

「短絡的すぎだっての」

 アスタリウスは髪をいじくりながらぼやく。まさかという思いを打ち消さんと、大声で喚く。


「そんなこと言って。どうせ、あたしを倒したいとか、そんなんじゃないの? 第一、あたしがどこの誰だか分かってないでしょ」

「それも一理あるな。前に言っていたな。名を知りたいなら、先に名乗るべきだ、と。ならば、その流儀に従っておこうか」

 ドラグラスは指を鳴らす。すると、彼の周りに魔力が渦巻く。カーテン越しに早着替えをしたかのように、ドラグラスの姿は一変していた。


 眼鏡をかけた優等生風の優男。その姿を前に、アスタリウスは思わず声をあげる。

「龍二。あんた、只者ではないとは思ったけど、まさか、そうだったの」

「この姿の名を知っているということは、やはり、俺の身内が正体のようだな」

 墓穴を掘ったアスタリウスは口を手で押さえる。とはいえ、言い負かされてばかりではいられなかった。


「あんた、本当にとことんバカでしょ。自ら正体を明かして来るなんて。あんたの組織の方針がどうかは分からないけど、放ってはおかないでしょうに」

「そうだろうな。だが、既にファントムカイラインの邪魔立てをしているのだ。咎が増えたところで些末なことだ」「

「あんた、随分大胆になったんじゃね? 組織の命令は絶対順守とか、そういうキャラだったじゃん」

「それを破ることも時には必要。どこぞの誰かが実証してくれたのでな」

 そう言った視線の先に映るのは一人の少女だった。その少女は、未だ赤面を隠せずにいるようだが。


 アスタリウスは深くため息をつく。細目を向けられ、ドラグラスはたたらを踏む。

「で、あたしは遠回しに告白されたわけよね」

「そうなるな」

「まさか、人生で初めての告白が怪物ってのは予想外だったわ。しかも、返事しなきゃダメなのよね」

 ポリポリと頬を掻くアスタリウス。そして、肩を落とす。

「悪いけど、ノー、だわ」

「何故だ」

「当たり前でしょ。なんで、倒すべき相手と付き合わなくちゃならないのよ」

 声を張り上げられ、龍二は口ごもる。あまりに尤もな物言いだったからだ。


 やはり、あまりに荒唐無稽な告白だったか。と、思われたのだが、アスタリウスは龍二の鼻先に指を突きつけた。

「でも、どうしてもと言うのなら、考えてやらなくもない。まあ、そんじょそこらの男と付き合うよりかは退屈しないかもしれないし」

「本当か」

「考えてやらなくもないってだけよ」

 念を押すが、聞こえていたのかどうか微妙なところだ。なにせ、龍二当人は翼を顕現させていないのに、天にも昇る心地だったからだ。


 これで話は終わり。そう思われたのだが、龍二は咳払いすると、改めてアスタリウスに向き直った。

「差し当たってだが。俺が正体を見せたのに、お前はそのままというのは不公平ではないか」

「あんた、そういうとこよ」

 気圧されるぐらいに怒鳴られる。頬を膨らませていたが、その息を勢いよく吐く。


「まあ、あんたにだったら、正体教えてもいっか。あんたの普段の姿を知ったわけだし、その気になれば、こっちから襲撃できるし」

「随分と物騒なことを考えるな」

「どうせ、あんたの任務もそんなもんでしょ。勘違いしないでよ。あたしだけ正体を知っていると言う不公平が許せないだけだから」

 そう言うと、アスタリウスは指を鳴らす。彼女の全身を魔力の奔流が包み、やがてはじけ飛ぶ。


 そして、一人の少女が姿を現した。その少女を目の当たりにしたところで意外性を感じなかった。龍二自身も、もしかしたら、彼女なのではと思っていた相手だったからだ。

「あたしと付き合いたいって言うなら、せいぜい頑張ってほれさせてみなさい」

「ああ、望むところだ。御子柴天音」

 放課後に幾度となく逢瀬を交わした不良ギャル。彼女が不敵な笑みとともに、屹立していたのだった。

俺たちの戦いはここからだ!

と、いうことで、ここで一旦完結となります。

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