決着
巨大な魔弾がファントムカイラインを呑み込む。もはや、回避は困難。むしろ、下手に逃げようとしたならば、まともに攻撃を受ける羽目になる。
そんな考えが及んだかは知らず、防御を選んだのは本能的なのかもしれない。ファントムカイラインは腕を交差し、真っ向から魔弾を受け止める。いくら鎧を纏っているとはいえ、真正面から高威力の魔法を浴びせられてはひとたまりもない。
そんじょそこらの怪物ならば、一瞬のうちに消滅してしまうほどの威力だ。受け止めて、なお堪えているというのが異常だった。
「そんな。イザナミ・ブライト・イルミネーションが効かない」
アマテラスが驚愕の声をあげる。正直、これが通じなかったのなら、もはや打つ手はない。ツクヨミも顔を伏せる。
「いいや、効いてないわけじゃない」
上空からアスタリウスの声が響く。いつの間にか、彼女の周囲にもまた、魔力が渦巻いていた。
「さすがに、魔法を完全に無効化させるなら、打つ手はなかった。でも、相手は異常に防御力が高いだけ。ならば、いくらでも突破口はあるわ」
「なるほど。アストロンは無理でも、スクルトならやりようはある」
「何言ってるか分からないよ、ツクヨミ」
とはいえ、そんな冗談を飛ばせるぐらいには勝機があるということだろう。そのことは、寸刻後に証明された。
アスタリウスは両手を掲げる。薄雲をかき分け、一筋の光の柱が差し込んでくる。その標準はまっすぐにファントムカイラインを狙っている。
「マッラーフ・クゥドゥーシュ・サークディ(神聖なる天使の裁き)」
発動したのはアスタリウスの最強魔法だ。魔弾と拮抗している最中、光のレーザー光線までもが加わる。
二つの魔法の余波はすさまじく、コンクリートの道路は抉れ、建造物にヒビが入っていく。下手をしなくとも、震度7クラスの地震に襲われたぐらいの被害は出ているだろう。
「ああ。だから、魔法少女が協力するのは反対だったんだウサ」
なぜに、魔法少女の共闘を忌避しているか。その理由はいくつかあるが、そのうちの一つがコレだった。
とはいえ、そんなものをまともに受けて、無事でいられる生命体がいるとは考えにくい。絶叫を上げ続けていたファントムカイラインだったが、その声がやがて途切れる。彼の防御力の要は屈強な鎧に依るものだ。それが、音を立てて崩壊していっているのだ。
鎧を失っては、もはや抗う術はない。
「ハアアアアアア!」
「グオオオオオオオオオオオ!」
三人の魔法少女の威勢と一体の怪物の断末魔。それらを巻き込み、ひときわ大きな爆発が炸裂した。
戦いの跡は決して小さいとは言えなかった。局地的に大地震が発生したのかと疑いたくなるほど、悲惨な有様が広がっている。とはいえ、裏を返せば、これで済んだのが奇跡なのかもしれない。
なにせ、ファントムカイラインの進撃を止めることができなかったのなら、日本全土がこんな焦土になっていたかもしれないのだ。
「終わった、のか」
「アマテラス。それはフラグになる」
精根尽き果てたとばかりに、二人は地面に尻を下ろす。怪物の姿は跡形もない。唯一残されているのは、鎧と思わしきガラクタだ。相手は死神というか、アンデットっぽい見た目をしていた。冗談抜きで、このまま復活してもおかしくないのだ。
ハクトが恐る恐る鎧の残骸に近づいていく。鼻を引くつかせ、せわしなく動き回っている。やがて、片足でピースサインを作った。
「怪物の魔力は消え去った。あいつを倒したとみて間違いないよ」
「や」
「やったー!」
ツクヨミの声に被さるように、アマテラスが大声をあげる。それにつられるように、ギャラリーからやんややんやの声が投げかけられた。
これで戦いは終わった。ならば、もう長居をする必要はない。それに、人々の喝采はアマテラスやツクヨミに対してばかりではないか。喧騒冷めやらぬ中、アスタリウスはゆっくりと歩みを進める。その時だった。
「ありがとう、天使のおねえちゃん」
たどたどしい声が話しかけられ、アスタリウスは足を止める。
年端の行かない幼女が、手を組んでじっとアスタリウスを見つめていた。純粋無垢な瞳の輝きに、アスタリウスは息を呑む。
「へえ、意外だね。魔法少女なら、アマテラスとかツキヨミがいるじゃん」
「もちろん、あの二人もすごかったよ。でも、おねえちゃんもすごいじゃん」
言葉に詰まるアスタリウス。すると、
「そうだぞ、アスタリウス」
「魔法少女同士の共闘、感動したぜ」
「やはりアスタリウスは最強。拙者の目に狂いはないでござる」
ギャラリーから歓声があがる。称賛を受け、アスタリウスは頬をかく。
「ねえ、アスタリウス。これからも一緒に戦おうよ。私たちが組めば無敵だって」
アマテラスが屈託のない笑みが提案してくる。しかし、アスタリウスは振り返ることはしなかった。
「そうね。考えとくわ。まあ、戦う度にこうなるのは、妖精的にエヌジーだろうけど」
「うむ。一理ある」
「えー。そこは、素直に仲間になるでいいじゃんよ」
「真っ向否定されなかっただけ前進」
ツクヨミがサムズアップする。それに対応したわけではないだろう。アスタリウスもまたサムズアップで返すと、天空へと飛び去って行くのだった。




