共闘
「アマテラスとツクヨミはまだ戦える。君の出る幕じゃないウサ」
「あんたも、妖精の取り決めとか、そういうのに縛られるわけ」
唾棄するように冷笑を浮かべる。ハクトは長耳を垂れ下げた。
「仕方ないウサ。そりゃ、三人が協力すれば、あいつを倒せるかもしれないウサ。でも、こればかりはしょうがないウサ」
「本当にくだらない」
あらんばかりの大声だった。あまりの剣幕に、ファントムカイラインさえたじろぐ。
「掟だの、ルールだの、それを守ることばかりがそんなに重要? それで本気を出せずに負けるとか馬鹿じゃん。ぶっちゃけ、そういうのが一番許せないんだけど」
「で、でも」
「そうだよ!」
反論しようとしたハクトを遮ったのはアマテラスだった。背筋を伸ばし、アスタリウスへと向き直る。
「あいつを倒すには、アスタリウス、あなたの力が必要なんだ。だから、一緒に戦ってよ」
屈託のない笑顔で手を伸ばされる。アスタリウスはポリポリと頬をかく。
「か、勘違いするんじゃないわ。別に、仲良しごっこしに来たわけじゃない。あたしら三人で共闘するのが、あいつを倒すのに最も効率がいいと判断しただけよ」
「もう、素直じゃないんだから。ほら、握手握手」
強制的に手を握るアスタリウスを尻目に、「そうやって、すぐたらしこむ」とツクヨミはぼやく。
「共闘すること自体は私も否定しない。正直、私たちの合体魔法でもあいつを倒せるかどうか分からない」
「まあ、その通りね。あたしの魔法でさえ通じなかったぐらいだし。で、あんたらの合体魔法って、最大出力で放つならどのくらい時間かかるの」
「正確には計ったことない。でも、数分はかかると思う」
「充分。あんたらはとにかく魔法の発動に集中しな。それまではどうにかしてあげる」
威勢のいい物言いだった。だが、心なしか足が震えている。やはり、先の戦いが尾を引いているのだろうか。
すると、アスタリウスの胸に手が伸ばされた。ハグをされていると気づいた時にはさすがに瞠目した。
「大丈夫だよ。早く魔法を完成させるから、それまで頑張って」
「あ、ああ」
「もう。アマテラスはすぐ、そういうことをする」
頬を膨らませるツクヨミ。アスタリウスは翼を広げるが、飛び立つその一瞬に破顔を覗かせた。
よもや、もう一度こいつと対峙することになろうとは思いもしなかった。全力でやっても勝てるかどうかという化け物に加え、よりにもよって、あの容姿。
だが、敵前逃亡という選択肢だけは許されていなかった。ファントムカイラインは得物を発見した猛獣のごとく、突貫を開始する。
「そんな一辺倒が通じると思わないことね」
アスタリウスは地面を蹴って、ファントムカイラインの肉体を飛び越える。彼女の作戦のためには、自身も使用する魔力を最小限に留めなくてはならない。そうでなくとも、先ほどまでの戦いで魔力に余裕はないのだ。切り返しざまに放たれる鎌を、アスタリウスは再度跳躍で躱す。
衆目には、威勢よく再登場したのに、逃げの一辺倒だと映っているだろう。それに揶揄する輩もいるかもしれない。しかし、だからどうしたというのだ。たとえ無様だろうと、今はとにかく回避に専念する。
だが、それがいつまでも続くわけはなかった。元より、体力も限界に近かったのだ。アスタリウスが電柱に手をついて息を整えていると、ファントムカイラインが肉薄してくる。
もはや万事休すであった。体感としては、どうにか光の国の巨人が怪獣を倒して帰るぐらいは粘っただろうか。これ以上鬼ごっこをするなら、さすがに魔力を解放しないと付いていけなくなる。ただ、そうなれば作戦は瓦解する。まだかと、相方へと視線を送る。
「そこまでだよ、カイラインの怪物!」
威勢のいい掛け声が響く。ああ、ようやくか。ファントムカイラインがそちらに気を取られた隙に、アスタリウスははるか上空へと退避する。
アスタリウスが交戦している間、アマテラスとツクヨミはひたすら魔力を一点に集中させていた。その結晶とも言うべき巨大な魔力弾が浮かんでいる。
さしものファントムカイラインも、本能的に危険を察知したのだろう。後ろ足を踏み、様子を窺っている。そもそも、理性を失った戦闘マシーンとなったのが失敗だったのかもしれない。少しでも思考を巡らすことができれば、アスタリウスの背後で別の魔法少女が企みを進めていることなど、容易に看破できたのだ。
いくら怪物が後悔しようと、後の祭りだ。ミラーボールのように煌々を輝き放つ魔弾は天高く周囲を照らしている。
「燃え上がる太陽と」
「輝く月」
「二つの力が混じり合い、一つの奇跡を紡ぎ合う」
アマテラスとツクヨミが交互に叫ぶ。そして、二人一緒に右手を広げた。
「イザナミ・ブライト・イルミネーション!」




