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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
幽鬼ファントムカイラインの脅威
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アスタリウス再起

 一直線にファントムカイラインの元へ急行しようとするアスタリウス。すると、彼女の前に妖精が大の字になって立ちふさがった。互いに、真剣な眼差しで対面し合っている。

「そこをどきな、シェム」

「悪いけど、行かせることはできないな。君のやろうとしていることはお見通しさ。不干渉を提唱した手前、彼女らと合流させるわけにはいかない」

「それはあんたの勝手な都合でしょ。邪魔するなら、あんたであろうと容赦しない」

「掟もそうだけど、そんな体でどうしようって言うのさ。正直、いつ強制変身解除してもおかしくないだろ。なおさら、行かせるわけにはいかない」

 尚も言葉を続けようとしていたシェムだったが、口を噤む羽目になった。なぜなら、自身の身体の脇を弾丸が通り過ぎていったからだ。瞠目し、ゆっくりと顔を上げる。


「どういう、つもりだい」

 感情を失った無機質な声音。近くを飛行していた小鳥が、慌てて飛び去って行った。だが、アスタリウスは怯まない。それどころか、第二撃を放とうとしている。

「言ったでしょ。邪魔をするなら容赦はしないって」

 シェムは深く息を吐く。そして、アスタリウスへと人差し指を差し向けた。


「あまり図に乗らないでもらいたいな。誰のおかげでその力を得ていると思っているんだい」

「あんたの力で強制的に変身を解除させるつもり? どうせ、そういう魔法も使えるんでしょ」

「察しているなら話は早い。ならば、おとなしくしていてくれないか」

「でも、そうは問屋が卸さないわ」

 身の程をわきまえるどころか、堂々と胸を張る。その傍若無人ぶりに、シェムは伸ばしていた指を曲げた。


「あたしを排除するなら、それでもいい。でも、そうしたら、あの怪物は誰が倒すのかしら。もしかして、あんたが倒してくれるの?」

「そ、それは」

 シェムは言い淀む。まさに、痛いところを突かれたというべきか。


「シェム。あなたではカイラインの怪物を倒せない。理由はどうだか分からないけど、今はその事実だけが重要。そうでしょ」

「やれやれ。君がここまで察しがいいとは思わなかったよ」

 お手上げのポーズを取り、シェムは大人しくアスタリウスの脇へと移動する。

「へえ、引き止めるのは止めたんだ」

「君とやりあって、カイラインを倒せる逸材を失う方が損失だからね。そもそも、君に掟だのなんだのを強いる方が間違いだったよ」

「あたしのことよく分かってるじゃん」

 アスタリウスはシェムの頬を突く。そして、急速上昇すると、戦禍へと赴いていくのだった。


「タイヨーパーンチ!」

 アマテラスが勢いよく炎を纏った拳を叩きつける。ファントムカイラインに回避の意思はない。まともに拳を受けたものの、動じることなく咆哮をあげる。

「こいつ、固すぎない」

 鋼鉄を殴ったかのような感触に、アマテラスは手を振る。立ち代わり、ツクヨミが三日月型の弾丸を放つ。しかし、これもまた、ろくにダメージを与えられなかった。


「あいつの防御力は圧倒的ウサ。チマチマ攻撃していてはらちが明かないウサ」

 ハクトのアドバイスを受けたわけではないが、二人は回避に専念する。下手に攻撃したのが癪に障ったのか、ファントムカイラインは闇雲に鎌を振るってきたのだ。


 力任せに暴れ回っているだけなので、攻撃を往なすこと自体は難しくはない。しかし、ジリ貧という言葉がまさにピッタリだった。いくら逃げ続けていても、有効な攻撃手段がないのだ。こうなっては、先に体力が尽きて蹂躙されるのがオチだ。


 両者ともそれを理解しているのか、合流するや目配せする。

「こうなったら、合体魔法を使うしかない」

「だよね」

 二人で手を握り、巨大な魔力弾を生成しようとする。だが、

「グアアアアア!」

 ファントムカイラインは両者の間に無理やり割り込んでくる。流石に、悠長に魔力を練っているわけにもいかず、二人は発動を中止する。


「魔法を使おうとしている時に攻撃するなんて反則じゃん」

「本来、そういうルールは存在しない」

 文句を垂れるが、ツクヨミの言うことも尤もだった。合体魔法は発動までに時間がかかることが欠点。ある程度弱らせるか、足止めをする必要がある。


 しかし、まともに魔法が通用しない相手の動きを封じる有効な手段など、二人は持ち合わせていなかった。それに、いたずらに魔力を消費し、合体魔法の威力を落としては元も子もない。

「キャア!」

「ツクヨミ!」

 逡巡していたところ悲鳴が上がる。ツクヨミがファントムカイラインの襲撃を受け、壁へと叩きつけられたのだ。


 変身解除にまでは至らなかったが、手負いとなってしまっては自由に動くこともままならない。彼女を庇うように立ちふさがるアマテラスだが、そんな彼女に対しても容赦なく鎌の一撃が迫ろうとする。


「カドゥー・カル(光弾)」

 振り下ろされようとした鎌は一閃の弾丸に阻まれた。その場にいた誰もが呆気にとられる。足音を響かせ、白銀の天使が顕現する。


「アスタリウス」

 ツクヨミが呻くように声を発する。髪をかき分けたアスタリウスは腕組をして仁王立ちする。

「随分苦戦してるみたいね」

「一体何をしに来たウサ」

 ハクトが声を張り上げる。当然の反応だった。なにせ、魔法少女の相互不干渉は、アスタリウス側の妖精であるシェムが重視していたきらいがある。なのに、彼女の方から助力しに来たのだ。


「状況的に分からない? 助太刀してやろうかって言ってるの」

「他の魔法少女の戦いには関与しないんじゃなかったウサか」

「あのさ、状況見えてる? そういうこと言ってる場合じゃない」

 あっけらかんと指摘され、ハクトは二の句を告げなくなる。アスタリウスの言う通りだ。ファントムカイラインを倒すためにはいがみ合っている場合ではない。それでも、そう易々と特例を通すわけにはいかなかった。

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