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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
幽鬼ファントムカイラインの脅威
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発破をかけるドラグラス

 攻撃目標を見失ったファントムカイラインは闇雲に鎌を振り回していた。その余波で建造物にヒビが入る。このままでは、辺り一面ががれきの山となるだろう。そんな惨事を察し、人々が発する負のオーラが増大する。


「そこまでだよ」

 怪物の前に二人の魔法少女が立ちふさがる。新たな獲物の出現に怪物は威嚇の声を発するが、少女たちに臆する様子はない。

「サンサン輝くお日様パワー! 日光の使者、魔法少女アマテラス!」

「ムンムン気分を吹き飛ばす! 月光の使者、魔法少女ツクヨミ!」

「二人合わせて! 魔法少女イザナミガールズ!」

 名乗り口上と共にポーズを決める。その途端だった。


 ファントムカイラインは一直線に二人へと襲撃を仕掛ける。

「ちょっと、せっかく名乗ったんだから、きちんと反応しなよ」

「正気を失っている相手に無理な相談」

 そもそも、バーサーカー状態の相手に馬鹿正直に名乗る必要性はあったのかと思わないでもない。悪態をつきながらも、アマテラスとツクヨミは機敏な動きで攻撃をかわしていく。


 戦禍から離れたビルの屋上。ドラグラスは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。いくらファントムカイラインでも、魔法少女三人が相手ならば苦戦するはず。なのに、彼女らは共闘する素振りが無い。だからといって、直接的に手を出すわけにもいくまい。


 ファントムカイラインと交戦を続ける魔法少女たちから数百メートルほど離れた建物の影。そこにアスタリウスが潜伏していた。クーグッツから命令が下されていたとしたら、手負いの奴にとどめを刺せといったところか。今の状態のアスタリウスにならば確実に勝てるというのは考えるまでもない。


 だが、こうも胸がざわめくのは何故だろうか。頭では、自分がいかに愚かなことをしようとしていることは分かっている。ただ偏にネガニウムを集め、邪魔となる魔法少女を排除する。それだけでよかったはずだ。なのに、疑念が渦巻いて仕方がない。

 この一歩を踏み出したら、取り返しのつかないところまで行ってしまう気がした。しかし、ドラグラスは闊歩をやめなかった。誘い水に乗る螢。などという雅な例えを出すのはおこがましい。しかし、光に誘われているのは確かだった。間違いなく、彼女は眩き存在であるからだ。


「無様だな、アスタリウスよ」

「ドラグラス。よりによって、こんな時に」

 肩を押さえながら悪態をつくアスタリウス。足音を響かせながら、ドラグラスはゆっくりと接近してくる。よりによって、こんなタイミングでと唾棄したかった。体力が万全であれば歓迎すべきだが、現状ではすぐ近くで交戦している死神よりも、よほど死神のようだった。


 魔法を放とうと腕を伸ばすアスタリウス。すると、ドラグラスは達観したように仁王立ちする。

「案ずるな。虫の息の相手にとどめを刺そうとするほど、俺は落ちぶれてはいない」

「あんなのをぶつけた後に襲撃するって、計算の内だったら見上げた根性だったわ」

「減らず口を叩けるぐらいには元気のようだな」

 鼻で笑うと、アスタリウスはふくれ面をする。


「それで、戦いに来たんじゃないのなら、何をしに来たわけ。まさか、ズタボロになったあたしを笑いに来たとか」

 自嘲するようにうそぶく。ドラグラスはポケットに手を突っ込み、したり顔をした。

「その通りだ、と言ったら」

「舐めた口利いてくれんじゃん」

 負けじと威勢を張るが、いつもの勢いはない。ドラグラスはつかつかと歩み寄った。


「まったく、情けない限りだ。あのファントムカイラインは、俺の組織の中でも三下に過ぎんぞ。そいつに苦戦するようでは、高が知れているな」

 実際のところ、本当の三下連中よりは実力は上だ。だが、事実は別にどうでもいい。アスタリウスはガバリと上体を起こすと、ドラグラスへと詰め寄ってくる。


「言いたい放題言ってくれんじゃん。っていうか、ドーピング使っておいて偉ぶるとか、そっちの方が高を括ってんじゃないの」

「実力不足をインチキのせいにするか。嘆かわしい根性だな」

「うっさいし。あたしだって、本気を出せば、あんなやつ」

「本気を出せぬわけでもあるのか」

「あんたには関係ないでしょ」

「そうか。貴様には失望したな」

「なんですって」

 怒りをあらわにするアスタリウスに、ドラグラスはこれ見よがしにため息をつく。そして、ビシリと彼女を指差して言い放った。


「やる気がないのなら、貴様には用はない」

 砂利を握りつぶしたような音が響く。睨みを利かせたアスタリウスはゆっくりとドラグラスへと近寄っていく。

「あんた。その言葉、どこで聞いた」

「それは関係ないだろう。貴様、前に俺に言っていただろう。本気でやらないのなら、戦う意味はないと」

 ピタリとアスタリウスは歩みを止める。途端に、重心を崩して倒れかける。予想以上に傷は深いようだ。


 本来であれば労うべき状況。だが、ドラグラスの口からついたのは追撃だった。

「ファントムカイラインを相手に、貴様は本気で戦ったと言えるのか」

「偉ぶった口を利いてくれんじゃん。あたしが全力でやってないとでも言うの?」

「そうとしか思えぬな」

 動じずに堂々と言い放つ。アスタリウスからの反論はない。ただ、じっと拳を握りしめるだけだ。


「正直ガッカリだったぞ。貴様を倒せるのは俺において他にいないと思っていたが。ここで倒れるのであれば、それまでだったというわけだ。ならば、心置きなく、ネガニウムを集めさせてもらおう」

 高らかに宣言し、ドラグラスは踵を返す。未だ沈黙を貫くアスタリウス。後ろ髪を引かれながらも一歩を踏み出す。


 すると、ドラグラスの頬を一発の弾丸がかすめた。ゆっくりと振り返ると、険しい形相のアスタリウスが掌を広げていた。

「ふざけんなし! ここまでコケにされて、黙っていられるかっての!」

 本来であれば、どこにそんな魔力が残っているのかと驚愕するところであった。だが、ドラグラスの胸中に湧き出たのは歓喜だった。知らずのうちに口角が上がる。


「そこまで言うなら、まずはあんたから倒す。三度目の正直って言うじゃん」

 体から魔力の奔流を迸らせている。だが、ドラグラスは静かに天を見上げた。

「傷だらけの貴様を倒したところで、自慢にすらならないな。どうしても、俺と戦いたいというなら。そうさな、ファントムカイラインを倒してみせよ。あいつを倒せないようでは、どうあがこうとも、この俺には勝てんぞ」

「ふぅん、面白いじゃん。その言葉、忘れるんじゃないよ」

 そう言うと、アスタリウスは両翼を広げる。天空へと飛び立つその姿を、ドラグラスはじっと眺めるのであった。

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