バトンタッチ
再度、ファントムカイラインへと挑みかかっていくアスタリウス。その姿に、ドラグラスは唖然としていた。まさか、こんな形で作戦が失敗するとは思ってもみなかったのだ。
彼の策としては単純だった。ファントムカイラインとは別の場所で第三者の魔法少女を呼び出す。そのまま、ファントムカイラインの場所へと誘導し、アスタリウスと共闘させるのだ。
しかし、どうやら魔法少女同士は相互不干渉であるらしい。それに、そもそもとしてアスタリウス自身に共闘する意思はない。おまけに、彼女の頑なな態度が人々の反感を買っている。
「意地を張ってるんじゃない」
「素直に一緒に戦えばいいじゃないか」
飛ばされる罵声をものともせず。アスタリウスは縦横無尽に飛び回る。この機に及んでも消極的な戦闘態勢なのが気がかりであった。それでも、野生動物のような襲撃を仕掛けるファントムカイラインを、的確に往なしていく。
「ヘッセ・マ・ハーフ(天使の羽ばたき)」
羽吹雪を飛ばす、アスタリウスの得意魔法だ。しかし、真正面から命中したにも関わらず、ファントムカイラインの勢いが削がれた様子はない。それどころか、発動中の魔法をかいくぐって、アスタリウスへと肉薄していく。
「あいつは確か、鎧により防御力の高さを誇っていたはず。ネガビタンの影響で、それも上がっているのか」
ドラグラスは分析するが、内心では気が気ではなかった。そんな焦燥が伝播してしまったのか、アスタリウスは小さく悲鳴をあげる。
そして、ファントムカイラインのアッパーカットを受け、真っ逆さまに地面に墜落した。もはや、戦闘を続行できているだけでも奇跡だった。翼は自然消滅し、地面に大の字になったまま微動だにしない。
勝負は決したも同然だが、ファントムカイラインは容赦しなかった。大口を開けて咆哮するや、鎌を振り上げて急速降下していく。あれで切り裂かれでもしたら、まず間違いなく強制的に変身が解除される。
この展開はドラグラスの本願であるはずだった。組織にとって邪魔となるアスタリウスを排除できる。もし、とどめを刺すのに失敗したとしても、十中八九変身前の素顔を拝める。そうすれば、変身される前に暗殺という、更に確実な策も視野に入れられる。
だが、胸がざわめいて仕方がないのは何故だろうか。このままアスタリウスが始末されれば、当然彼女との関係はそれまでとなる。無意識のうちにドラグラスは片手を掲げていた。一体、自分でも何をしようとしているのか分からない。ただ、本能のままに右手に魔力を集約させていく。
「ヘド・ケセン(魔弾)」
上空へと魔力の弾丸を放つ。それは、一直線に猛進していたファントムカイラインの進行を阻んだ。突然の攻撃に理解が追いつかないのか、怪物はうろたえる。
アスタリウスも首を振って周囲を確認する。目視できる範囲では、急に参戦できる第三者は確認できない。一番可能性が高いのはアマテラスとツクヨミだが、妖精によって戦いは規制されている。
なにより、あの禍々しい弾道。どうにも既視感があるような気がするのだ。手をこまねいていると、彼女の前でシェムが通せん坊をするように両腕を広げた。
「アスタリウス。ここは一旦引くんだ」
「敵前逃亡しろってわけ。冗談じゃないんだけど」
「君の気持ちは分かる。でも、このまま戦っていても、無駄に魔力を消費するだけだ。幸いにも、別の魔法少女が駆けつけている。彼女らにバトンタッチして、その間に体力を回復するのが最善だろう」
「漁夫の利戦法ってわけ。あたしの流儀じゃないんだけど」
後ろ髪を掻くが、現状、シェムの作戦が最も合理的だった。舌打ちすると、アスタリウスは翼を広げて急速上昇していく。それとは反対方向にシェムは旋回すると、後れじとばかりにアスタリウスに追随していった。
唐突の戦線離脱。待機を余儀なくされていたアマテラスとツクヨミは眉をひそめた。理解が追いつかないうちに、アスタリウスの妖精であるシェムが接近してきたかと思いきや、すぐさまとんぼ返りしていった。なにやら、ハンドジェスチャーのようなものをしていたことは確認できた。
「アマテラス、ツクヨミ。急ではあるけど、戦闘準備をするウサ」
「おお、本当に唐突だな」
「さっきは戦うなと言っていたのに、どんな心変わり」
「シェムから連絡があったんだ。アスタリウスが戦線離脱する。その間、怪物を頼むって」
「本当に勝手な奴らばかり。ドラグラスもどっかに行っちゃうし」
ツクヨミが文句を垂れる。ファントムカイラインに気を取られていたが、いつの間にかドラグラスは姿をくらましていたのだ。
「でも、堂々と戦えるのなら願ったりかなったりだよ。行こう、ツクヨミ。あのお化けにおしおきしなくちゃね」
「いちいち美少女戦士のポーズを取らなくていい。まあ、無理やり突撃されるよりはマシ」
顔を見合わせた両者は、ファントムカイラインへと接近していった。




