ドラグラスVSアマテラス&ツクヨミ(?)
ハクトが指定した地点に到着したが、特に不審な存在は確認できなかった。ただ、攻撃を受けた痕跡はあり、ガードレールが無残に破壊されている。
「こらー! 町を勝手に破壊してるんじゃない。悪さばっかしてないで、さっさと出てこい!」
アマテラスが威勢よく呼び掛ける。遅れて合流したツクヨミとハクトも臨戦態勢をとる。
やがて、突風が彼女たちを襲った。先ほどまで無風だったのに、不自然極まりない。乱れた髪を整え、ハッと空を見上げる。
翼を生やした人間がゆっくりと降臨してくる。魔法少女の同胞ではないことは、邪悪な漆黒の翼の色が物語っていた。それに、そもそも少女ではない。眼鏡をクイッと直す様が形になっている、冷徹なビジネスマンのような風貌。
過去に一度対峙したことがあるから、その姿は嫌でも脳裏に刻み込まれている。アマテラスたちはこれまで幾多のカイラインの怪物と戦ってきた。その中でも群を抜いた強敵であった。
「ドラグラス」
「よりによって、ヤバイのが出てきた」
アマテラスでさえ、神妙に身構える始末だ。ドラグラスは鼻で笑うと、翼を格納する。
「正直、打算だったが、本当に釣れるとはな。貴様なら。まあ、ギリギリどうにかなるだろう」
「おい、今の間は何だ」
ツクヨミがかみつくが、ドラグラスは無言で掌底を広げる。
「先手必勝! タイヨーパーンチ!」
有言実行とばかりに、アマテラスは拳に炎を宿らせて突撃していく。あまりにも単調な物理攻撃。
「マフソン(障壁)」
ドラグラスは魔法で壁を生成し、拳を受け止める。思い切り障害物を殴る羽目になり、アマテラスは手の甲をさする。
「アマテラス。相手は無謀に攻撃していては勝てない。作戦を練るべき」
「そっか。でも、どうする。あいつに通じるのって、合体魔法しかないよ」
目配せする両者。すると、ドラグラスは再び翼を広げる。魔法少女たちをあざ笑うかのように、ゆっくりとその周囲を旋回する。そして、そのまま見当違いの方向に飛び上がっていく。
突然の逃亡に鳩が豆鉄砲を食ったように固まる魔法少女たち。しかし、我に返るや、
「こら、逃げるな!」
アマテラスは声を張り上げて追跡を開始する。
「相手から諦めてくれたのなら、追う必要はない」
「でも、あいつを放っておいたら、また悪さをするかもしれないよ。そうならないようにするのが、私たち魔法少女じゃん」
「うむ。一理あるか」
「僕は深追いは反対なんだけどねウサ」
口々に言い合いながらも、目標は見失わない。
と、いうよりも、ドラグラスはあえてゆっくりと飛翔していた。彼が全力を出せば、小娘たちなど一瞬で置いてけぼりにできる。思惑を達成するためには、彼女らにはきちんとついてきてもらわねば困るのだ。
それにしても、飛行能力は持っていないのだろうか。ドラグラスは走るよりも飛ぶ方が早いのでそうしているだけだが、同時に、地上を走行するルートを参照しなければならないので、移動方向に制約ができる。鬱陶しさを覚えながらも、ドラグラスはとある地点へと誘導を続ける。
移動中に決着がついていたら、作戦も元も子もなかった。だが、アスタリウスはそこまでヤワではなかったようだ。ろくに反撃できていないものの、未だ変身した姿のまま健在であった。
「あれは、例の怪物」
「テレビで見るよりも凶暴そう」
ようやく追いついた魔法少女二人組が感嘆の声をあげる。ファントムカイラインはバス停の屋根の上に乗っかり、高々と遠吠えをあげている。怪獣映画の敵役同等の行動をしていることからして、自我を失っているのは間違いないようだ。
その怪物から十数メートル先で、アスタリウスは肩を押さえて前かがみになっていた。綺麗な白銀のドレスは土埃で汚れている。苦悶の表情を浮かべており、いつ変身解除されてもおかしくはない。
「アスタリウスがピンチだ。早く助けなきゃ」
アマテラスが駆け寄ろうとする。しかし、彼女の前でキューピットのような妖精が立ちふさがった。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
「それはこっちのセリフさ。君らはハクトが管轄する魔法少女だろ。彼から聞いてないのかい。あいつはアスタリウスの獲物だって」
大の字になって通せん坊するシェム。しかし、それで引き下がるアマテラスではない。
「でも、アスタリウスはボロボロじゃん。これ以上戦うなんて」
「三下が舐めた口言ってくれてんじゃん」
満身創痍のはずが、雄々しく翼を広げる。その姿に、アマテラスは二の句も告げずに圧倒される。
「あんなの、あたし一人で十分だし。それに、助けてくれなんて、言った覚えはない」
「で、でも」
「とっとと失せな!」
怒声を浴びせられ、アマテラスは後ろ足を踏む。その肩をツクヨミが叩く。
「あいつも、ああ言っている。無理に協力する必要はない」
反論しかかったアマテラスだったが、ツクヨミはゆっくりと首を横に振る。




