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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
幽鬼ファントムカイラインの脅威
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もう一つの気配

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら戦況を観察する。一言で言えばアスタリウスの劣勢だ。ファントムカイラインの猛攻を防ぐのに手一杯で、反撃すらままならない。戦闘マシーンと化した怪物を相手に、策もなく戦い続けていては、先に根負けするのは自明だ。


 アスタリウスを倒す。本来の目的からすれば、これは願ってもない展開だった。このままファントムカイラインの好きにさせておけば、勝利するのも夢ではない。力及ばずとも、自衛隊員や野次馬から漏れ出るネガニウムは回収できる。まさに、棚から牡丹餅。喜ぶべき状況ではある。


 しかし、ドラグラスは胸の内をむかむかさせていた。この感情は名状しがたい。それでも、本来であれば抱くべき感情でないことは分かっている。なのに、アスタリウスが苦悶するたびに、居てもたってもいられなくなる。

 だからといって、直接介入するわけにもいくまい。じっと拳を握りしめ、傍観するしかないのがもどかしい。どうにか干渉する手段はないものか。


「ドラグラス様。ここはおとなしく、ネガニウムの回収に赴いた方がよろしいのでは。ファントムカイラインに倒されるのであれば、それまでだったというわけですわ」

「しかし、だな」

「別に構わないではありませんか。もはや、助太刀でも来ない限り、戦況は覆りませんわ」

「助太刀か」

 ふと、ドラグラスに天啓が下った。直接的に参戦することはできない。だが、この方法であれば、状況を打開できるかもしれない。


「バイパラスよ。お前はネガニウムの回収に専念するのだ」

「ドラグラス様、どちらへ」

「ちょっと、思いついたことがあってな」

 呼び止めるバイパラスを振り切り、ドラグラスは翼を広げて飛び上がる。そして、目指したのは、アスタリウスが交戦している場から程近い市街地だ。思惑通りに事が運ぶかは、完全に運任せだ。それでも、最低でもネガニウムの回収という任務は遂行できる。クーグッツへの言い訳はそれで事足りるだろう。

 避難中の人々を眼下に、ドラグラスはガードレールに魔弾を放った。


 人目に付かない、公園の木陰。そこで魔法少女アマテラスとツクヨミが集結していた。強力な怪物が出現したことは報道で知っている。だから、急いで変身したものの、妖精のハクトに呼び止められていたのだ。

「アスタリウスが苦戦しているんでしょ。早く助けに行かなくちゃ」

「呼び止める意味が分からない」

「僕としても、合流したいのもやまやまウサ。けれども、妖精の間で取り決めがあってさ。干渉するとうるさい奴とか多いんだウサ。アスタリウスに付いているシェムも多分、そのタイプなんだウサ」

「大人の事情と言うやつか」

 救助要請が為されない限り、他の妖精が管轄する魔法少女が戦っている場に、他の魔法少女が介入してはならないという掟があるらしい。


「ええー、そんな掟なんか、関係ないじゃん」

「テレビの魔法少女でもそうウサ。怪物が出てきたときに、歴代の戦士が全員集結すれば簡単に倒せる。毎回そうしないのには、それなりの理由があるんだウサ」

「納得できないけど、掟なら仕方ない」

 不満をあらわにするアマテラスに対し、ツクヨミはしぶしぶと肩を落とす。このまま傍観に徹するという、不毛な時間を過ごすしかない。そう思われた時であった。


「この気配。まさかとは思うけど、厄介なことになったウサ」

 ハクトが両耳をピンと伸ばす。レーダーのようなそれは、アスタリウスが戦っている地点とは別の方角を示している。

「どうかしたのか、ハクト。トイレでも行きたくなったか」

「冗談を言っている場合じゃないウサ。よりにもよって、このタイミングでカイラインの援軍が現れたウサ。しかも、魔力量からして、そんじょそこらの雑魚じゃないウサ」

「まさか、幹部とか」

 ツクヨミの懸念を具象化するかのように、ハクトはゆっくりと首肯する。幹部級が複数出撃するとは、カイラインはかなり大掛かりな作戦を仕掛けているようだ。


 不安を露わにしている両者に対し、アマテラスは意気揚々と鼻を鳴らす。

「ねえねえ。もう一人のカイラインだったら、私たちで退治しても問題ないよね」

「確かに、どの魔法少女も介入していない。僕たちが相手しても問題ないウサ。でも、危険な戦いになるウサ。正直、君たち二人がかりでも勝てるかどうか分からない。僕としては、関わるのは反対だウサ」

「いや、止めるのは無理だと思う」

 ツクヨミが言うより早く、アマテラスはハクトが指し示した方角へ走り抜けていった。


「アマテラスは、ああなると、もう手が付けられない」

「君は確か、彼女の幼馴染だろう。首輪はつけられないのかウサ」

「無理。でも、それがいいところでもある」

 謎にサムズアップすると、ツクヨミも負けじと追随していく。ハクトは内心諦めかけていた。魔法少女に選ばれるような人材は、大抵こういう性格なのだ。既に豆粒ほどの大きさになった両者を見逃すまいと、全力で飛び跳ねていく。

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