ファントムカイライン、出撃
それは、変哲のない朝のことであった。今日は休日であり、学校も休みだ。そうなると、ドラグラスとしてやるべきことは限られてくる。
「ドラグラス様。地図とにらめっこして、どうなされましたか」
戦への気運を高めるため、ドラグラスとして魔力を解放した形態をとっている。対応してか、真夢もバイパラスとしての戦闘形態に変化した。
「次なるターゲットを定めようと思ってな。アスタリウスと遭遇しやすい地点となると、やはり央間駅前だろうか。今日は人間どもは仕事を休みにしている。同時にネガニウムも集めやすいだろう」
「さすがはドラグラス様ですわね。そして、アスタリウスを倒す算段もできてらっしゃるので」
「問題はそこだ。いかにもという弱点があれば、そこを突くべきだろうが」
RPGに例えるなら、すべてのステータスが高いうえに、高レベルの魔法を習得しているという、いわゆるチートでも使ったようなキャラクターだ。おまけに、炎を使うから水に弱いような属性相性も適用されないだろう。
「一般的に人間の女性は虫を苦手にするという」
「あら、あたくし、虫は大好物でしてよ」
「お前は蛇だからだろう。それに、あやつも苦手というわけではないだろうし」
そうであるなら、以前バイパラスが繰り出したバタフライカイラインとホーネットカイラインに苦戦していたはずだ。ついで言うなら、アマテラスとツクヨミも平気そうだったが、それは別にどうでもいい。
無暗に怪物を生み出しても、すぐに討伐されてしまう。ならば、ドラグラス自身が最初から本気で挑むしかないのか。打開策が見いだせないまま頭を抱えていると、つけっぱなしにしているテレビの声が騒々しくなった。
「番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします。つい先ほど午前八時頃、央間市にあります央間駅近郊にてカイラインの怪物が出現しました。魔法少女の姿は確認できておらず、自衛隊が対処に当たっているとのことです。繰り返します。央間市近郊にて怪物が出現したとのことです」
寝耳に水な報道に、ドラグラスは呆気にとられる。そういえば、先ほどからサイレンがうるさかったのだが、避難を促す警鐘だったのだろう。
「ドラグラス様を差し置いて出動するなど、身の程知らずもいいところですわ。どうせ、ゲキトラスでしょうが」
憤慨しながらテレビを鑑賞していたバイパラスの言葉が止まった。訝しく画面を確認したドラグラスは、その理由に合点がいった。
確かに、部下の怪人にこんな奴がいた覚えがある。だが、ドラグラスたち三幹部を差し置いて出動したというのが妙だった。
「あいつは、ファントムカイラインか」
人間の髑髏を模した頭部を晒し、装着している鎧は外套で隠している。死神を思わせる巨大な鎌を振るい、逃げ遅れた人々を煽っていた。
「ハハハ! 出てこい、アスタリウスよ。貴様はこの俺、ファントムカイラインが退治してくれる」
テレビ超しに大仰に宣戦布告する。報道スタッフの安全確保のためか、怪物の姿は徐々にフェードアウトしていく。それでも、この時間帯にテレビを見ていたのなら、挑戦状は確実に届いていただろう。そうでなくとも、現代はネットニュースでこの手の話題は即座に耳に入れることができる。大々的に名指しで挑発されたのなら、乗ってくる可能性は大いにある。
「行くぞ、バイパラス」
「先を越されたのなら、放っておけばいいではありませんか。他人のやり方には介入しないのが、あたくしたちの流儀でしてよ」
「それもそうだが、嫌な予感がする」
「ドラグラス様がおっしゃるのなら、仰せのままというほかありませんね」
ドアを開けっぱなしにして急行するドラグラスに対し、後からバイパラスが律儀に鍵を閉め直していた。
人々が悲鳴を響かせる中、ファントムカイラインは鎌を振るっていた。おおよそ切り裂けるはずのないガードレールなどがズタボロになっていることからして、その桁外れの威力が実感できる。
「そこまでだ、カイラインの怪物」
防護シールドを構えた自衛隊員が一斉に並び立つ。幾重の銃口を向けられたところで、ファントムカイラインが及び腰になることはなかった。
「そんなチンケな武器で俺を倒せると思っているのか」
「黙れ。総員、砲撃用意。撃て!」
隊長らしき男の号令とともに、一斉射撃が開始される。
躱そうと思えば躱せる攻撃であった。だが、ファントムカイラインはその場から一歩も動かない。当然のことながら、その身に弾丸が集中する。さしもの怪物とて、銃弾でハチの巣にされれば無事では済まないはず。
そんな淡い期待は水泡と帰した。砲撃が中止された後に立っていたのは、未だ健在の怪物だったのだ。
「さすがに痛かったな。これは、仕返しする必要があるな」
「隊長、我々では無理です。撤退の指示を」
「しかし、魔法少女が来るまでの間は時間を稼がねばならん」
「けれども、銃弾が効かないのならば、対抗手段なんて」
自衛隊員は喚き、ふためく。その様はファントムカイラインに更なる恩恵をもたらした。当然のことながら、大量のネガニウムが発生しているのである。そいつの回収を怠るほど、彼は間抜けではない。
「アスタリウスの奴、この俺に臆したか? それならそれでいい。軽く2000はネガニウムを回収できているのだ。ここから更に回収できるとすると、幹部たちなんて目じゃない回収量になる。こいつを献上すりゃ、クーグッツ様も俺を認めてくれるだろう」
独り言ちながら、褒美の算段をする。もはや、怪物の独壇場。このままネガニウムを奪われ続けるしかないのか。




