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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
バイパラス出撃
30/42

バイパラスの本心

「お帰りなさいませ、ドラグラス様。ご飯になさいます、それともお風呂? それとも、あ、た、く、し?」

「帰れ」

 タイムスリップしたのではないよなと、不穏な予感がよぎる。遠くから流れてきたテレビのニュースは今日の日付を告げていた。


「バイ、真夢よ。性懲りもなく、また来おったか」

「いいではありませんか。今日はいいものを仕入れてきましてよ」

「よもや、また牧場の牛を拉致してきたのではないだろうな」

「あたくしも学んでおりますわ。スーパーとやらは便利ですわね。お金を払えば、こんなものを手に入れることができるのですから」

 そう言って、冷凍庫から赤色の海洋生物を取り出す。一般的な魚の形をした方もかなりの高級食材だったはずだが、甲羅に覆われた、いわゆる甲殻類であるそいつもそれなりの値段がしたはずだ。


「なんだ、それは」

「まさか、タラバガニを知らないわけではございませんよね」

「そういう意味で言ったのではない。いくら、ラークンスの通貨があるとはいえ、無駄遣いは考え物だぞ」

「あー、やはり高かったのですわね。財布の中が空になってしまいましたわ」

 ポケットから財布を取り出して、逆さまにする。チャリチャリと効果が擦れ合わさる音が聞こえるが、少なくとも札束は入っていなさそうだ。


 ネガジーさえ摂取できれば問題ないのだが、真夢には人間社会のイロハを叩きこむ必要がある。そう思い知らされたものの、せっかくのタラバガニを無駄にするのも忍びない。

「レハバ(炎)」

 こんなしょうもないことに魔法を使うのも癪だったが、下級火炎魔法でカニの身を焙っていく。いわゆる焼きタラバというやつだ。しばし加熱していくと、部屋中に香ばしい空気が満ちていく。


「あら、美味しそうですわね。いただきますわ」

 火傷しそうなのを厭わず、真夢は焼きたてのタラバの身を素手で掴む。そして、豪快に殻ごと食いちぎった。

「カニはそういう食べ方をするのではないと思うぞ」

 龍二は素直に関節を折り曲げ、中身をほじくり出す。程よく塩味が効いており、肉厚の身は噛み応え抜群だ。

「そうですか。殻も美味しいですのに」

 蛇は卵だろうと、殻ごと丸のみにすると聞いたことがある。試しに龍二も廃棄しようとしていた殻をかじってみた。


「うまいな」

「ですよねー」

 これは、両者が怪物であるからできることであり、人間が真似してはならない。


 ひとしきり食事を終えると、真夢は率先して片づけを申し出る。手持無沙汰になった龍二は惰性でテレビを眺めていた。どこの局もバラエティ番組ばかり流している。芸人が池に墜落する映像など、どこが面白いのだろうか。

 鼻歌交じりで洗い物をする真夢。案外と手際がいい。そういえば、いつの間にか洗濯物が干してあったし、居間の床には埃一つ落ちていなかった。龍二が学校に行っている間にこいつは何をしているのだという疑問があったのだが、当人に確認するのも野暮となった。


 だからこそ、別の疑問が生じる。

「真夢よ。どうして、そこまでする」

「質問の意味が分かりませんわ」

「俺に構わずとも、お前はお前でネガニウムを集めればよかろう。現に、ゲキトラスはそうしているではないか。こんなところで油を売っていても、クーグッツ様から褒美がもらえるわけではないぞ」

「そう言われると自分でも不思議ですわね。ただ、龍二様。あたくしは、あなたの役に立ちたい。ただ、それだけですわ」

「ネガニウムを集めるという使命抜きにして、か」

「もちろん、使命は忘れておりませんわ。そうですわね、今度、お金を払わずにこのカニをかっさらって来ましょうかしら」

「やってもいいが、後始末の責任は取らんぞ」

 話題が逸れたことを自覚したのか、真夢はタオルで手をぬぐって龍二に向き直る。


「あたくしがどうして、こんなことをしているか。それは多分、人間の言葉で言うところの『アレ』だと思いますの」

「アレ、とは」

 すると、真夢は龍二の耳元に急接近した。頬に触れた髪の毛がくすぐったく、思わず息を呑む。そして、耳元で短く「あること」を囁いた。


「さーて、お風呂を頂戴しましょうかね。龍二様も一緒に入ります?」

「バカなことを言っていないで、さっさと入ってこい。レディーファーストという言葉があるらしいからな」

「あたくしの残り湯をご所望でして。それとも、こちら」

 ちらりと服の裾をめくってみせる。艶やかなへその肉質が映る。すーっと、そのまま上着は胸までまくられようとしている。


「やめんか! さっさと入ってこい」

「あーらら。龍二様相手でしたら、色仕掛けも構いませんのに」

 ほんの一瞬だけブラが覗いていたことからして、冗談ではないのだろう。まして、あんな言葉を聞かされた後だ。もやもやした脳内を払拭しようと、注いであったお茶を一気飲みした。

「ぐぅお、おっほ、げっほ」

 むせた。

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