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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
バイパラス出撃
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カード開封

 その日の放課後のことである。特に約束したわけではないが、龍二の足は自然と校庭外れのプレハブ倉庫に向かっていた。あれからアスタリウスに変身前について有力な情報は得られていない。最も頼みの綱となりそうな九朗ですら、「変身前はよく分からんでござる」という体たらくだ。

 なので、次いで情報源となり得るあの先輩を訪ねる。と、いうのが名目である。前に訪ねた時は、結局アスタリウスに知っているかどうかをはっきりさせる前に、怪物騒動でうやむやになってしまったのだ。


 彼女は相当気まぐれらしく、いつもそこにいるわけではない。そもそも、学校自体に来ているかどうかすら怪しいのだ。なので、扉を開けてそこにいるかどうかは、半ば運試しとなっていた。

 その点でいくと、本日は大吉だった。

「おー、龍二か。ま、入りなよ」

 まるで自室のようにマットにもたれかかってくつろいでいる。左手でポテチの袋を抱えていた。


「食うかい?」

「結構だ。第一、学校でお菓子の持ち込みは禁止されているのではなかったか」

「先生みたいなこと言うね。じゃあ、あげるのやめよっかな」

「別にいらんが」

「そこはもらっておきな」

 有無を言わさず、ポテチの破片を押し付けてくる。仕方ないので、龍二は受け取っておいた。


「ここまで来ているのなら、授業に参加すればいいではないか」

「別に。どうしようと、あたしの勝手じゃん。あんたこそ、飽きもせずに来てるじゃん。まあ、分かってるけど。アスタリウスっしょ」

「うむ」

「悪いけど、知らないから。なーんか、最近話題になってたっぽいね」

 他人事のように言って、天音は仰向けに寝転がる。その口調によどみはない。やはり、アスタリウスとは無関係なのか。


 思案していると、天音は小箱を取り出した。翼を広げた白銀のドラゴンのイラストが印刷されている。

「白竜の逆鱗。インペリアル・ドラゴン・サーガ。なんだ、これは」

「デュエバの新弾じゃん。転売ヤーのせいで、買うの苦労したんだからね」

 どうやら、前に遊んだカードゲームのブースターボックスらしい。思い切り不要物だが、指摘しても煙に巻かれるだけだろう。


「これ全部開封するの大変だからさ。ちょうど人手が欲しかったのよ。どうせ、暇でしょ」

 アスタリウスを探すのに忙しい。そんな名目で断ることもできたのだが、無邪気に微笑みかけられると、なぜか無下にはできなかった。仕方なしと、ちゃぶ台の前で胡坐をかく。


 そこからは工場のバイトのようだった。ひたすらにブースターパックを開封していく。怪物や、たまに美少女のイラストが描かれたカードを眺め、天音は感嘆の声を漏らしている。一方で龍二は終始しかめ面だった。こんな紙切れを集めて何が楽しいのだろうか。

「やっぱ狙いは激龍帝イグニストゥバルのSSRかな。恒例の女体化したやつ」

「ドラゴンを女体化させて嬉しいのか」

「知らんけど、一定層にはウケてんじゃない。あたしは性能がガチだし、最高レアだから欲しいだけ」

 「そういうものか」と無理やりにでも納得するしかない。自らの同胞を女体化した喜ぶ輩がいるとは。身の毛もよだつ思いになる龍二だった。


 黙々と単純作業に取り組んでいると、さすがに退屈になる。龍二があくびをかみ殺していると、ふと視界に紙切れが入り込んだ。A4ぐらいのプリントで、びっしりと文字が書き記されていた。


 そろりと指で持ち上げると、「あ、バカ、それは」と、天音が前のめりになった。衝撃でカードが飛び散る。

「数学の問題集か。どれも満点じゃないか。恥ずべきことはないはずだが」

 龍二の言う通り、途中式も含めて完璧な答えが書き記されている。インチキで丸をつけているのではないかと、龍二も回答をなぞらえてみたが、不正は働いていないようだった。


 プリントを掲げていると、天音は「フーッ」と威嚇を続けている。訳が分からず、龍二は首をかしげる。

「こいつのどこに問題があるのだ」

「まあ、別に問題はないけどさ。あれじゃん、真面目に勉強してるって思われるのが恥ずかしいっていうか」

 天音は髪の毛をいじくりながら答える。ますます、龍二は首を傾げた。

「きちんと努力をしているのなら、相応に評価されるべきだと思うぞ。正直、これとかは解法が全然分からなかった」

 人間世界の常識はもちろん、学業についてもある程度予習してある。とはいえ、完璧に人間の学問を把握しているわけではない。学力と言う点でいえば、本気でこの学校のテストを受け、周囲の生徒といい勝負になるぐらいだ。


 なおも唸っているので、素直に返しておいた。龍二から答案用紙をひったくると、乱暴にポケットの中に突っ込む。ここまで過剰反応されるのが不可解ではあるが、一つだけ推察できたことがあった。

「そういえば、俺がいない間はどうやって過ごしているのかと疑問だったが、きちんと勉強していたのだな」

「そう思われるのが嫌だったからじゃん」

「よく分からんな。授業中に騒ぎ立てる輩よりは偉いと思うぞ」

「あんたさ、どこまで優等生なわけ。まあ、賛美は素直に受け取っておくわ」

 そっぽを向きながら、いそいそと散らばったカードを集めている。別に悪いことはしていないはずだが、罪悪感がこみあげてきて、龍二もそれを手伝う。


 パックも残り少ないのに、お目当てのカードは未だ出てこない。明らかにレアと思われるカードは排出されるのだが、天音は首を横に振るばかりだ。

「この女カードなんかは、なかなか強そうだが、満足しないのか」

「効果自体は強いけど、メタゲームに合ってないのよね。それに、あの蛇女を思い出させるし」

「バイパラスに似ていると言えば似ているな」

「バイパラス。えっと、ああ、前にテレビで言ってたやつね」

 「ラーミア・クイーン」と名付けられたそのカードには、下半身が蛇の美女が描かれていた。その顔はどことなくバイパラスにそっくりであった。


 そして、遂に残り1パックとなった。固唾を呑んで見守る中、龍二は外袋を開封していく。コモンやアンコモンのカードが続き、いよいよ残り一枚。

「SSRは箱に一枚入っているかどうか。それがまだ出ていないから、SR以上は確約。頼むから出てくれよ」

 神頼みするように天音は手を合わせる。その緊張が伝播してきて、龍二も口が乾いてきた。唇を舌で湿らせ、一気に運命の一枚を顕わにする。


「うわあああああああああああ!!」

 途端、天音の絶叫が響き渡った。尻を地面につけたまま、器用に高速で後退していく。まさか、当たりを引き当てたのか。龍二はカードを裏返す。

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