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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
バイパラス出撃
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正義の肖像

 央間市において、魔法少女とカイラインの怪物が一大決戦をした。その話題は数週間経過しても中学内で持ち切りだった。

 魔法少女が交戦したというニュース自体は珍しくない。しかし、バタフライカイラインにホーネットカイラインと怪物が二体同時に出現したうえ、幹部が怪物としての本性を現したとの報がある。極めつけが、魔法少女アマテラスとツクヨミが、滅多に使用しない合体魔法を使用したことだろう。


「イザナミ・ブライト・イルミネーション。拙者も生で見たでござるが、実に素晴らしかったでござる」

「そうか」

 龍二と机を向かい合わせにし、九朗は給食のカレーを頬張る。お代わりだからと、遠慮なく余り物をかっさらってきたようだ。そんな食欲があるならば、真夢が渡そうとしてきた幕の内弁当を譲ってやればよかったと思う龍二だった。尤も、給食があるからと固辞してきたが。


「ニュースでも連日やっているでござるよ。歴代最強と名高い魔法少女アマテラスとツクヨミ。その正体は、と」

「そうか」

 それよりも、カレーと牛乳という絶妙に合いそうで合わない組み合わせが気になった。ただ、メディアに関してなら気になることはあった。


「アスタリウスはあまり報道されていないようだが、理由でもあるのか」

「おお、龍二はアスタリウス推しでござったな。うむ、拙者も引っ掛かっていたでござる」

 大口を開けて、残りのカレーを頬張る。ヒポポタマスカイラインを生み出した時に、豪快な食事に度肝を抜かしたことを思い出したのは内緒だ。


「ネットでは色々詮索されているようでござるが、一番の原因は、彼女の言動が魔法少女らしくないということでござるな」

「魔法少女らしく?」

 予期せぬ解答に、龍二は無意識に箸を置く。九朗はほほについたご飯粒を舐めとって続けた。

「龍二は見ていたかどうか知らぬが、カイラインの怪物に有無を言わさず魔法を放ったり、あまつさえは挑発したりと、正義の味方とは程遠いでござるよ。メディアは魔法少女を品行方正な正義の味方で押し通したいから、彼女の活躍は報道しにくい。そんな大人の事情でござろうな」

「不憫なものだな。活躍したのなら、正当に評価されるべきだろうに」

「拙者もアスタリウスはもっと評価されていいと思うのでござるが、世間一般のウケはよろしくないようでござる。なんか生意気とか、こいつ、本当は悪役じゃねとか、色々言われているでござる」

 その意見も分からないでもなかった。傲岸不遜な態度は感情を逆なでしてもおかしくはない。バイパラスも「なんなんですの、あの小娘は」と、交戦してからしばらくは苛立っていた。


「それにしても、最近は平和でござるな。カイラインの怪物が出ても、すぐに退治できる格下ばかりでござるし。お、その唐揚げ、旨そうでござるな」

「欲しいならやるぞ」

「かたじけない。お礼に、魔法少女アマテラスのクリアファイルを譲るでござる」

「いらん」

「そんなこと言わずとも。せっかく、一番くじで当てたのでござる」

 「ほれ」と、アマテラスの写真がプリントされたクリアファイルを三枚も見せつけてきた。おそらく、くじのはずれ枠だろう。譲ってもらったところで、真夢がストレス発散で細切れにする未来しか見えない。


 それはさておき、怪物の出現が少ないのは、単純にネガニウムの回収を最小限に抑えているからだ。アスタリウスにより、ドラグラスたち三幹部が実質敗走を余儀なくされたのだ。明確に彼女を打ち倒せる策が打ち出せない以上、いたずらに出撃しても余計な被害を増やすだけ。

 加えて、ラークンスが「試したいものがあるのじゃ」とクーグッツに出撃を控えさせるように進言したとの噂もある。いずれにせよ、今更になって九朗に譲った唐揚げが恋しくなるくらいには、ネガジーの節制生活を続けているのだった。加えて、人間にとっての平穏な日常とやらも、もう少し続きそうである。


「おい、給食のプリンが余ってるぞ。じゃんけんで誰が食べるか決めようぜ」

「なん、だと」

 こんなしょうもない争いで盛り上がろうとしている辺り、龍二の予感は間違いない。巨体を揺らしながら参戦を申し込む九朗に、対抗馬となったのは陽菜だった。


「陽菜、あまり欲張ると太る」

「分かってないな、こよみん。プリンは別腹なのだよ。それに、こよみんもクレープは別腹って、ドカ食いしてたじゃん」

「嫌なことを思い出させないで。あの後、体重計に乗って絶望した」

「ああ、ランニングに付き合ってくれと言われたの、そのためか」

 頭を抱える暦に、陽菜は呵々と笑い声をあげる。一瞥する限りでは、深刻に体重について悩むべき体型ではないと思われる。測定値も九朗の半分以下だろう。などと、龍二が不埒な推論をしている間にも開戦の狼煙はあげられていた。


「くっくっくっ。拙者の奥義、強硬たる岩鉄の拳を披露する時が来たでござる」

「なんの。燦然と輝く太陽の拳をお見舞いするまでだよ」

「どっちもグーだからあいこになる」

 「なんだそのバイパラスの魔法みたいな技は」と横槍を入れそうになった龍二だったが、寸前のところで思いとどまった。


 裂ぱくの気合が功を弄したのか、並み居る強豪(他のクラスメイト数人)をなぎ倒し、九朗と陽菜との一騎打ちとなった。

「ひのひなー、がんばれー」

「太田なんか倒しちゃえ」

「ありがとー、みんなー」

 他のクラスメイトの声援を受け、陽菜は手を振って応える。アウェイとなっている九朗だが、したり顔で腕を組む。


「いい気になっているのも今の内でござる。拙者の奥義は岩属性。炎属性の貴様の技は効果がいまひとつでござる」

「それはどうかな」

「おー。さすが、タケシを炎タイプでレベル19まで上げて突破した女は違う」

「一体何の話をしているのだ」

 明らかにじゃんけんとは異なるゲームの話をされても、龍二が理解できるわけはない。


 ただ、結局やることはじゃんけんのようだ。

「じゃーんけーん、ポン!」

 両者気合十分に、掛け声とともに手を出し合う。結論から言おう。パーを出した陽菜が勝った。

「バカな。グーではない、だと」

「むしろ、なぜ正直にグーを出すと思った」

 暦の的確な指摘は、クラスメイト達の喝采にかきけされた。全く、プリン一つで騒がしい奴らだ。そう呆れる龍二であったが、歯を食いしばって拳を握る九朗に憐憫を感じずにはいられなかった。

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