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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
バイパラス出撃
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アスタリウスVS2大幹部

 三下の怪物を二人の魔法少女に押し付けた直後。アスタリウスはひたすらに本願を追っていた。随分と長い間逃げに徹している。おまけに、中心街からどんどんと遠ざかっているのだ。ネガニウムを集めるという目的から外れている気もするが、それだけ本気でアスタリウスを倒すつもりだろうか。それならそれで望むところである。


 アスタリウスの推測は当たらずも遠からずだ。バイパーカイラインは単に、ドラグラスが指定した空地へと誘い込んでいるだけである。ネガニウムの元となる人間が皆無なのが不満だが、遮蔽物の少ない土地であれば、全力で倒すのに申し分ない。


 バイパラスから「アスタリウスと接触した」との連絡を受け、ドラグラスはずっと空き地で待ち構えていた。大型施設の解体跡地らしく、周囲には「立ち入り禁止」の柵がめぐらされていた。殺風景な平地が続くそこは、まさにコロシアムというべきだった。


 腕を組んで仁王立ちして幾何の時が過ぎただろうか。瞑想して来るべき瞬間に備えていたところ、上空から接近してくる二つの影があった。カッと開眼して捉えたのは、大蛇の化け物と天使だった。

「ドラグラス様、お待たせしましたわー」

 勢いよく、バイパーカイラインがドラグラスの傍に着地する。翼もないのに空を飛べるのが不可思議だが、ウツボが海中遊泳しているのと同じ要領だろう。


 そんな取り留めのない考えを巡らせた数舜後、アスタリウスが翼を折りたたんで降臨した。

「また会ったね、ドラグラス。あんたとは決着をつけたいと思ってたんだ」

 腕をぐるぐると回すアスタリウス。威勢のいい彼女とは反対に、ドラグラスは冷淡に言い放つ。

「決着、か。確かに、あわよくば決着がつくだろうな」

 不穏が残る物言いに、よもやという懸念が顕現したのは、ドラグラスの隣にバイパーカイラインが並び立ったからだ。そして、ドラグラスもまた、ドラゴンカイラインとしての姿を現す。


「あんたら、卑怯じゃない? まさか、二対一で挑もうっての?」

「クーグッツ様からのご達しだからな。本来なら、貴様の変身前を探って始末するところだった。だが、尻尾を掴めないのならば、戦って強制的に変身を解かせればいい」

「まあ、正体が分かる前に、再起不能にしてしまうかもしれませんが」

 ドラゴンカイラインに続いてバイパーカイラインが煽りを入れる。幹部級が二体という絶望的状況。


 なのだが、アスタリウスに焦燥の色はない。それどころか、むしろ表面化しているのは歓喜か。

「面白いじゃん。そこまであたしの正体を知りたいならやってみなよ」

 指を曲げて挑発する。それに乗ったのはバイパーカイラインだ。ドラゴンカイラインの停止も聞かず、一直線に飛び出す。


「妬ましき大蛇の饗宴」

 アマテラスに対し披露した魔法だ。エネルギー体の大蛇がアスタリウスに絡みつこうとする。真の力を解放したことで、攻撃速度もまた上昇している。だが、

「フェレン・シェフォー(光の剣)」

 アスタリウスは光の剣を出現させるや、縦横無尽に振るう。その剣戟を浴び、魔力の大蛇は八つ裂きにされる。


 得意の魔法をいとも簡単に破られ、バイパーカイラインは怯む。絶好の隙を与えられ、見逃すアスタリウスではない。一気に肉薄すると。勢いそのままに左腕を切り裂いた。


 切断された腕が落下するや、溶岩の如く融解していく。アスタリウスが一瞬だけ、そのグロテスクさに顔をしかめる。だからといって、付け入る余地は与えない。元より、あの一撃で幹部級の怪物を倒せるとは思っていないからだ。


 アスタリウスの予測を裏付けるように、バイパーカイラインの切断された腕が自動再生していく。寸分変わらぬ姿に蘇生するまで一分とかからなかった。

「その腕、トカゲのしっぽみたいになってるんだ。まあ、予想はしてたけど」

「トカゲ如きと比べられるのは心外ですが、あたくしの腕はいくらでも再生しますわ。それに、無駄話は厳禁ですわよ」

「ヘド・ケセン(魔弾)」

 バイパーカイラインの背後から跳びあがったドラゴンカイラインが魔弾を放つ。アスタリウスは剣で受け止めるが、威力を殺しきれず、せっかく詰めた間合いを突き放される羽目になった。


 壁役と攻撃役。先ほど対峙した怪物を思わせるコンビネーションである。しかも、魔法一発一発の威力が三下の比ではない。まずは、バイパーカイラインの牙城を崩さないと、まともに戦うことはできないだろう。

 とはいえ、異様な再生能力を持つ肉体が相手だ。中途半端な威力の魔法は撃つだけ無駄。などと、脳内で作戦を組み立てていた時だった。


「蛇毒による戦々狂々」

 両腕の蛇があぎとを開くや、絵の具を全部混ぜ合わせたような、汚らしい色の魔弾が発射された。その様はもはや、ヘドロと形容する方がふさわしいか。


 アマテラスを苦しめた毒の魔法か。一瞬のうちに推測を立て、アスタリウスは上空へ逃れる。だが、その一手を読んでいたように、ドラゴンカイラインが天空で待機していた。

「ヘド・ケセン(魔弾)」

 体の自由が効かない空では、甘んじて攻撃を受け入れるしかない。ただし、それは常人の場合だ。飛行能力を持つアスタリウスは間一髪のところで弾丸を通過させる。ドラゴンカイラインが「これを躱すか」と驚愕に半口を開けたのも無理からぬことだった。


 大見得を切ったものの、防戦一方となっているアスタリウス。しばし交戦を続けて思い知ったが、この怪物どもは無駄に連携が取れているのだ。と、いうよりか、バイパーカイラインが絶妙にドラゴンカイラインのサポートとなるように立ち回っている。


 策もなく、真っ向から攻撃していただけでは決着がつかない。ならばと、アスタリウスは散発的に放っていた魔法を中止する。カイライン側の魔法を魔法で防いでいたのに、それが突如として途切れた。


 かなり楽観的な予測を立てるならこうなるだろう。

「減らず口を叩いていたのに魔力切れですの。だらしないですわよ」

 相手の防御手段が尽きた。ならば、一気に叩きのめす好機。バイパーカイラインは一気に距離を詰める。


「戻れ、バイパーカイライン」

 ドラゴンカイラインが叫びをあげる。だが、後の祭りだった。

「マッラーフ・クゥドゥーシュ・サークディ(神聖なる天使の裁き)」

「へ」

 バイパーカイラインが間抜けな声を上げたのも無理はない。ほぼゼロ距離で放たれたのはアスタリウスの必殺級の魔法。通常なら天空を始発にしているビームが、アスタリウスの袂から発射される。


 魔力切れを起こしたなど、とんだブラフだ。わざと付け入るスキを与え、盾役であるバイパーカイラインを誘い出したのである。

 けたたましい悲鳴を上げ、バイパーカイラインは地表でとぐろを巻く。強制変身解除に至らなかったのは幹部としての意地だろう。それでも、しばらくはまともに戦えそうにない。

「こんな単純なブラフに引っ掛かるなんて、案外大したことないね」

「おのれ、小娘が。舐めた口を利くと痛い目見ますわよ」

「あんたはそこで休んでなよ。あたしの目的は端から、こっちだから」

 そう言ってドラゴンカイラインを指差す。

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