合体魔法
小娘の挑発に乗って真の姿に変身してしまったが、バイパラスは完全に我を失ったわけではない。むしろ、これで狂喜乱舞に陥るのは三下の所業だ。彼女の役割はアスタリウスとドラグラスを引き合わせること。彼女自身が奴を倒しても最終目的は果たせるのだが、それではドラグラスの気が収まらないだろう。彼のことを考えるなら、取るべき行動は一つだった。
「おいでなさい、アスタリウス。こんな障害物が多い場所では思う存分戦えないでしょう」
「へえ。ネガニウムを集めるなら、ギャラリーが多い方がいいんじゃないの」
「アドバイス感謝しますわ。でも、わたくしの目的は別にございましてよ。ネガニウムの回収要員は他に用意しております。分かっておりますよね、ホーネットカイライン」
「スピ!」
怪物は敬礼するように針を掲げた。後ろ髪を引かれたアスタリウスだったが、二兎を追う者は何とやらということは自覚していた。二者択一で、おまけに他に戦えるものがいる。ならば、アスタリウスが選ぶべき行動は迷うまでもなかった。
「あんたら、そこのハチは任せた」
「ちょ、勝手に決めないでほしい」
「なら、この蛇を相手にする? 言っとくけど、気まぐれで何度も回復魔法使うほどお人よしじゃないから」
断言され、ツクヨミは反論することができなかった。身の程をわきまえた場合、どちらの怪物を相手にするかは自明だった。
バイパーカイラインとアスタリウスが連れ立って離脱した後、アマテラスとツクヨミは改めてホーネットカイラインに向き直る。アマテラスはバイパラスから受けた毒が尾を引いているようだが、どうにか戦闘可能であるようだ。
先制を仕掛けてきたのはホーネットカイラインの方である。フェンシングのように、針を突き刺して来る。
矢面に立ったのはツクヨミだった。
「ゲッコウキョウ」
ワンドで円を描くと、光輝くバリアが展開した。ホーネットカイラインの連撃はそれに阻まれ、ツクヨミまで到達することはない。
敵の攻撃を防いでいる隙に、アマテラスが攻撃魔法でとどめを刺す。これが二人の必勝パターンだった。しかし、体調が万全でないアマテラスの「タイヨーパンチ」では怪物を倒すには心もとない。それよりも威力の劣るツクヨミの「ゲッコウリン」では尚更だ。
そのことはハクトも把握しているのだろう。
「アマテラス、ツクヨミ。今こそ合体魔法を使うんだウサ」
「おおー、久々だね」
「了解した」
ツクヨミはバリアを解除すると同時、大きく後方へ飛び退った。アマテラスもそれに続く。
馬鹿の一つ覚えのように再度突撃してくる。そうされたらまずかったが、ホーネットカイラインは思慮を巡らせた。チマチマ攻撃してもバリアで防がれるのだ。ならば、力を込めた一撃で確実に仕留める。そうして「溜め」の挙動に入る。それが魔法少女たちにとって、絶好の反撃の機会となった。
アマテラスとツクヨミは並び立ち、ギュっと手を握る。二人の全身からあふれる魔力のオーラが上空へと渦巻いていく。自身のドレスのイメージカラーと同じく、赤と青の二色の奔流だ。その魔力は集約していき、巨大な魔法弾を結成していく。
魔法弾は鮮やかな光を振りまきながら上昇する。宴の会場で燦然と輝くミラーボール。そんなイメージが想起される。
「燃え上がる太陽と」
「輝く月」
「二つの力が混じり合い、一つの奇跡を紡ぎ合う」
そして、握った手に更に力を込め、雄々しく叫んだ。
「イザナミ・ブライト・イルミネーション!」
巨大な魔法弾が一直線にホーネットカイラインへと襲い来る。その様はまるで巨大隕石だ。よもや、こんな隠し玉が用意されていたとは、怪物も想定していなかったのだろう。加えて、バタフライカイラインのような防御魔法も備えていない。
突撃の姿勢から一転、ホーネットカイラインは逃げへと徹する。しかし、自身もまた魔法少女の二倍以上を誇る巨体だ。工事用の鉄球を超える巨大な魔法弾の攻撃範囲外に逃れるなど、容易なことではない。
すさまじい爆音が轟き、土煙が舞う。その反動で魔法を放った少女たちもがたたらを踏む始末だった。やがて魔法が消滅した時には、小さな蜂が一匹、羽音を立てながら飛び去って行った。
「よくやったウサ。アマテラス、ツクヨミ」
「本当に疲れたよ。まさか、怪物が二体同時に出てくるなんてさ」
アマテラスが泣き言をいうのも尤もだった。不幸中の幸いは、浴びた毒がきれいさっぱりに消え去っていることか。自己治癒能力も働いているが、アスタリウスが施した魔法の効力が大きい。
本来なら、このままぶっ倒れたい。そんな怠惰を覗かせたアマテラスだったが、
「すごいぞ、魔法少女!」
「今日も怪物を倒してくれてありがとう!」
人々の声援を受けて思いとどまる。アイドルになったつもりはないのだが、つい笑顔で手を振る。
「むぅ、こういうのあまり好きくない」
「いいじゃん、ツクヨミ、ファンサだよ、ファンサ」
しぶしぶといった呈のツクヨミに対し、アマテラスは完全に楽しんでいる。
「拙者はいつも応援しているでござる」
「うん、ありがとう!」
聞き知った声も混じっていた気もしたが、スルーしておくべきだろう。
ひとしきり声援に応えると、二人の魔法少女は天空へと飛び去って行く。戦いの跡地では、道路の修繕やギャラリーの整理のためにハクトの伝手のウサギ妖精たちが目まぐるしく動き回っていた。
人通りの少ないビルの影に着地し、ホッと一息つく。先に口を開いたのはツクヨミだった。
「それにしても、あのアスタリウスとか言う奴、気になる」
「そうだよね。ハクト、あの子のこと、知らない?」
「うーん、よく分からないウサ。多分、最近魔法少女になった子だと思うけど、少なくとも僕が変身させた覚えはないウサ」
「敵か味方か分からない」
「でも、敵ってわけじゃないよね。私を助けてくれたし」
「だと、いいけど」
気楽に言うアマテラスに対し、ツクヨミは懐疑的だった。第一、同じ魔法少女のはずなのに、妖精であるハクトが認知していないというのが妙なのである。
怪物もさることながら、謎の魔法少女まで現れた。果たして、彼女は何者なのか。一抹の不安を抱えながらも、二人の魔法少女は変身を解除するのだった。




