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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
バイパラス出撃
21/42

容赦ないアスタリウス

「まずは、その減らず口をふさぐ必要がありそうですわね。バタフライカイライン、やっておしまい」

「フリーフリー!」

 命令を受けた怪物はアスタリウスへと体当たりを仕掛ける。回避しようとする素振りはなく、手中に魔力を集める。魔法で迎撃するつもりだ。


「気を付ける、アスタリウス。あの怪物はバリアを貼っている」

 ツクヨミが助言するが、アスタリウスは事もなげに腕を上げる。

「カドゥー・カル(光弾)」

 光の弾をぶつける初級レベルの魔法。アマテラスが主力としている「タイヨーパンチ」すら防いだのだ。それより明らかに威力が低そうな魔法では通用しない。


 そう思われたのだが、光弾はバタフライカイラインの顔面をかすめ、虚空へと消えていった。その光景に一同が唖然としたのは無理もない。肉体をかすめたということは、バリアを突破したということに他ならない。

「あー、狙いが逸れたか」

「いやいや。どうやってバリアを破ったんだウサ」

「バリア貼ってるっての本当だったわけ。特別なことはしてないんだけど」

 あっけらかんと答えるアスタリウス。壁役という最大のアイデンティティーが、彼女の前では崩壊した瞬間だった。


 バタフライカイラインは怯んだが、再度浮上すると、より勢いをつけて体当たりを仕掛けてくる。アスタリウスを倒せと命じられた以上、それに従うのみだ。

 しかし、そんな単調な戦法など、アスタリウスに通用しない。

「ヘッセ・マ・ハーフ(天使の羽ばたき)」

 翼をはためかせ、羽吹雪を浴びせる。急速で突進してきたので、烈風の中に飛び込むしかない。

「フ、フリー!」

 強制的にきりもみ転回させられ、バタフライカイラインは上空へと押し上げられる。追随するように、アスタリウスもまた急速上昇した。あっという間に怪物の頭上の高度まで到達する。


 そして、怪物の脳天にかかと落としをお見舞いした。地面に叩きつけられたバタフライカイラインはそのまま爆散。素体となったアゲハチョウがひらひらと飛び去って行った。

 二の句を告げる余地も許さず、怪物を撃退したアスタリウス。その力はあまりに規格外。うろたえても仕方ない状況ではあった。


 しかし、すぐさま次なる作戦に移れるのが、バイパラスが幹部たる所以だった。アスタリウスが一息入れている隙を突き、ホーネットカイラインに内密で指示を飛ばす。それを受け取った怪物は、未だ立ち上がれずにいるアマテラスを抱きかかえ、低空飛行した。


 アマテラスは首元をホールドされ、巨大な針を突きつけられている。その気になれば脳天を貫く。限外でそんな意思が伝わってくる。

「動かないでくださいまし。少しでも手元が狂えば、この子はおだ」

「カドゥー・カル(光弾)」

 光の弾がホーネットカイラインの複眼に炸裂する。反動でアマテラスは解放され、ツクヨミがその体を支える。


「あ、あなた。こちらが話している途中で卑怯ではありませんこと」

「人質取ろうとしてたあんたが言う? 大体、人質とか回りくどいことしないでも、本気で倒そうと思ってんなら、さっさと針でぶっ刺せばいいじゃん」

 バイパラスすらドン引きする発言に、味方であるはずの一般観客もまた冷ややかな視線を送っていた。アスタリウスとしては、人質作戦でうだうだと戦いを長引かせるつもりなら、先制攻撃で始末した方がいいと合理的な判断をしたまでだ。非難される覚えはない。


 悉く調子を狂わされているバイパラスであったが、極めつけとばかりにアスタリウスに立ちふさがれる。純白であるはずの羽根が濁って映ったのは気のせいか。

「あのさ。三下ぶつけるなんて回りくどいことしてないで、あんたが相手してくんない。ドラグラスを表舞台に出すつもりないみたいだから、それで我慢したげる」

「随分と生意気な口を利きますこと。よほど死にたいようですわね」

 そう言うと、バイパラスは胸の前で両腕をクロスした。


 すると、その腕が膨張し、蛇の頭が顔をのぞかせた。それはミットを装着しているかのように手先まで浸食する。妖艶な雰囲気を漂わせていた顔面も蛇のそれに変貌し、全身に鱗を纏っていく。そして、両足が密着したかと思うと、一本の細長い尻尾へと変化した。

 その姿は称するなら蛇人間。グロテスクすら覚える風貌に、アマテラスとツクヨミは短く悲鳴をあげた。


「オーッホホホ! 美しいでしょう。これこそ、あたくしの本来の姿、バイパーカイラインですわ」

「いや、美しいっていうか、キモイし」

 反吐を吐くような物言いに、バイパーカイラインは「シャー」と威嚇する。

「ドラグラス様の前でしか晒したことのない、この姿。人間風情が目にしてしまったからには、ただで帰すわけにはいきませんことよ」

「ふーん、楽しめそうじゃん」

 脅しをかけたはずが、アスタリウスにとっては余興に過ぎないようだ。

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