新たな戦いの気配
しかし、天音はスッと一枚のカードを取り出した。
「詰めが甘いかな。わざわざマナを残して雑魚の壁モンスターを召喚したのを警戒すべきね」
「まさか、この戦況を逆転するとでもいうのか」
「そのまさかだったり。魔法カード終末の裁き。バトルゾーンのすべてのモンスターを破壊する。このカードは相手ターン中にも使用することができる」
わざと消極的なプレイをしたのは、龍二に切り札モンスターの召喚を誘発させ、除去魔法で撃退するためだったのだ。自軍のモンスターも犠牲にしてしまうが、盤面が圧倒的に不利な現状では影響はない。
想定外のカードに唖然とする龍二。そんな彼に追撃をかけるかのように天音は言い放つ。
「あたしみたいなのを魔法少女と思ってるのなら、目が腐ってるよ。そういうキャラじゃないって知ってんでしょ」
逆に胸の内を見透かされたようだった。制服の上着を鷲掴みにしつつカードを引く。
「堅牢なる龍騎士召喚。ターンエンドだ」
「手札に恵まれなかったみたいね」
指摘通り、プレイできたのは中級の壁モンスター。本来ならば、もう一度切り札級をぶつけたかったのだが、手札に引き込めなかったのである。
「天音。君のうわさは色々と聞いてきた。本当なのか。その、援助交際してるとかいう」
「ああ、あのくだらない噂か。まったく、学校サボってるだけで、すーぐそういうのと結びつけるんだから」
「違うのか」
「逆にしてほしかったの?」
「いや、そういうわけではない」
「やっぱ、あんたおもろいね」
「からかってるんじゃないぞ」
「はいはい、そうでした。ほんじゃ、熟年の老導師。召喚時効果でカードをドロー」
老人の魔法使いが描かれたカードをプレイして、手札を補充する。そして、マットに背を預けた。
「援助交際してるなんてのは、真っ赤な大嘘。あいつらが勝手に言ってるだけよ。あたしを学校に来ない不良って印象付けたいだけでしょ。ほい、ガードブレイク。デコイ能力を持っているモンスターを破壊」
せっかく召喚したモンスターを即座に墓地送りにされてしまう。龍二は歯噛みしつつも手札と睨めっこする。
「ならば、素直に学校に行けばいいではないか。俊足のドラゴニュート。老導師へ攻撃して破壊」
「別に行く必要が無いからよ」
手札を扇代わりにするほどのふてぶてしさに、龍二は二の句が告げなくなる。人間にとって学校は義務。そのはずではなかったのか。
「義務教育だとか、そんなの大人が決めたルールでしょ。勉強するだけなら、暇つぶしに参考書読んどけば事足りるし。わざわざ教室でみんな揃って、くだらない講義聞くなんて、無駄の極みとか思わない」
「いや、でも、学校とは、そういうものじゃ」
「なーんで、くだらない奴らと足並みそろえないといけないのか。そんなことしてる暇あったら、ここでゲームでもやってた方が有意義だわ。ここに来てるのだって、親がうるさいからだし」
龍二の脳裏にアスタリウスの映像が浮かんだが、それにひびが入った。魔法少女は人類を代表して悪と戦う正義の味方。それが世間一般常識のはず。龍二もその前提は崩せないと思っていたのだ。
「ねえ、龍二。出る杭は打たれるってことわざ聞いたことない?」
「人から優れた者は疎まれるという意味だったな」
「へえ、勉強してるじゃん。あたし、あのことわざってクソだと思うのよね」
「どういうことだ」
「うーん。わざわざ説明する義理はない、かな。そんじゃ、そろそろ終わりにするわ。終焉の魔導ギルドラダムス召喚」
天音が使用したのは、荘厳な衣装に身を包んだ大魔導士のカードだった。デザインからして、最上級のレアカードだというのは明白だ。
「ギルドラダムスの効果。墓地にある魔法カードすべてをゲームから除外し、その数×100のダメージを任意の対象に与える。その値は1100。そして、対象はあんたよ、龍二」
この時点での龍二の残りライフは900。そして、ダメージを無効、あるいは軽減するカードは手札に残されていない。一瞬のうちにライフを削り取られ、龍二の敗北が決した。
しばし手札を持ったまま固まっていた龍二だが、勝敗を自覚してカードを手からこぼれ落とす。
「バカな、負けた、だと」
「まあ、初めてやったにしては善戦してるじゃない。と、いうか、本当に初めてなわけ? 格ゲーの時もそうだけど、いちいち動きが初心者くさくないんだけど」
「本当に初めてだ。神に誓おう」
ゲームの初心者だということを誓われても、クーグッツは迷惑だと思われるが。さすがに、カードを散らかしたままは悪いので、龍二は一束にかき集める。「律儀ね」と呟き、天音は首の後ろで手を組んだ。
「魔法少女のことはともかく、あんたのことは気に入ったわ。いつもってわけじゃないけど、大体ここで暇潰してるからさ。遊びたくなったら来なよ」
「学校の施設を私物化して平気なのか」
「大丈夫だって。この倉庫、あたしが卒業する頃には取り壊されるみたいだからさ。まあ、はみ出し者は学校でも持て余してるみたいね」
その自嘲は妙に痛々しかった。龍二は言葉をかけようとしたが、ふさわしき一句を思いつくことができなかった。
「まだ下校まで時間あるみたいだし、次はス〇ッチでもやる?」
そう言いつつ、天音はゲーム機を取り出す。ちょうど、そんな折だった。気の抜けたようなチャイムが鳴り響いたかと思うと、校内アナウンスが開始された。
「現在校内に残っている生徒にお知らせします。央間市内にてカイラインの怪物が出現したとの情報が入りました。ただちに部活動等を中止し、体育館に避難してください。繰り返します。央間市内においてカイラインの怪物が出現しました」
天音がこれ見よがしに舌打ちをする。と、同時に龍二が持つ携帯電話に着信が入った。ディスプレイには「バイパラス」と表示されている。
「すまない」と断りを入れ、龍二は倉庫の外に出て通話を開始する。
「お疲れ様ですわ、ドラグラス様」
「前に言っていた作戦か、バイパラス」
「ええ、そうですわ。ちょうど今、町の人間どものネガニウムを回収しているところですの。そのうち、魔法少女が現れるはずですわ。そう、アスタリウスが」
断言するからには、よほど大々的な攻撃を仕掛けているのだろう。ならば、加勢するの一択だ。「すぐに行く」と返答して通話を切る。
龍二は「遅くなった」と倉庫内にとんぼ返りする。だが、そこは既にもぬけの殻になっていた。天音は颯爽と避難したのであろうか。倉庫内に隠れている可能性もあったが、探している暇はない。
龍二もまた駆け出したが、体育館へと向かっていたのを思い直し、校門へと引き返す。生徒の避難誘導に人員を割いているのか、校門の警備は手薄だった。あっさりと校外に出た龍二はドラグラスの形態へと戻る。襲撃地点はバイパラスより伝え聞いている。比喩的表現ではなく飛ぶような勢いで、ドラグラスは現場へと急行するのだった。




