やかましいクラスメイト
翌日のことである。どうにか授業をこなした龍二は机に顎を乗せて突っ伏していた。すると、眼前から覗き込む顔があった。正確には眼鏡であろうか。
「龍二氏。お疲れでござるか」
「りゅうじうじは言いにくくないのか」
「おお。ならば、龍二で良いか。最後の『うじ』を兼ねていて一石二鳥でござる」
「勝手にしろ」
九朗はフフンと鼻を鳴らす。龍二は姿勢を正し、教科書を片付ける。
「時に、魔法少女についての調査で進展はありましたかな」
唐突にそんなことを聞かれ、ギクリと喉を詰まらせる。だが、別におかしな質問ではない。彼は魔法少女の研究家を自称していたではないか。むしろ、有益な情報を聞き出せるかもしれない。
「そうだな。昨日、アスタリウスが戦っていたそうだが、知っていることはあるか」
「ゲキトラスなるカイラインの幹部が出現したと聞いたでござるな。うーむ、戦闘自体はすぐに終わったせいで、収穫はないでござるな。と、いうよりも、アスタリウス殿は立つ鳥跡を濁さずで、本当に情報が少ないのでござる。それに、この町の魔法少女といえば、アマテラスとツクヨミというのが定番でござるからな」
「そうなのか」
あれだけ圧倒的な力を持つのだから、人間たちの間で話題沸騰になっているかと思っていた。彼に言わせれば、「知る人ぞ知る魔法少女」だそうだ。
「アマテラスとツクヨミについてだったら、いくらでも語ることができるぞ。例えば、キャットカイラインとの戦いとか」
「いや、別にいい。知りたいのはアスタリウスについてだけだ」
「おお、一途でござるな」
口の前に手をかざして制止させる。キャットカルアとの戦いなら既に知っている。なぜなら、当事者だからだ。まだ魔法の扱いに慣れてなく、アマテラスが「タイヨーパンチ」で時計塔をへし折ったはず。
魔法少女というよりも、九朗というクラスメイトには別の利用価値がある。この中学の生徒ならば、あの少女について知っているかもしれない。
「ところで、御子柴天音という少女について知ることはないか」
「な。御子柴先輩に絡まれたのか」
「なぜ、絡まれた前提になっている。だが、間違いではないな。放課後に校庭外れのプレハブ倉庫に来るよう言われている」
「か、完全に呼び出しでござる」
戦慄する九朗。その所作が大げさすぎたのか、近寄ってくる二人組があった。
「どうしたのさ、太田くん。そんな歌舞伎役者みたいな真似して」
「ひ、日輪さん。落ち着いて聞いてほしいでござる。龍二が、龍二が、御子柴先輩から呼び出しを受けたでござる」
「な、なんですとー!」
大声をあげるものだから、クラス中の注目を浴びてしまう。思わず、額に手を添えた。
「陽菜、大げさに騒ぎすぎ」
「騒ぐよ、こよみん。あの御子柴先輩だよ。学校サボって、反社会勢力を制圧してるっていう」
「そんなことをしているのか」
「いや、あくまで噂に過ぎない。でも、本当にやっているかもしれない」
「そうでござる。時代も時代なら、『おまんら、覚悟するぜよ』とメンチ切りながら、ヨーヨーで不良を倒していた先輩でござるからな」
「うん。本当にやってそう」
「それはない。確か、昭和のドラマの話」
不良を倒していたかはともかく、ヨーヨーを飛ばしている様を想像すると、案外様になっていた。と、余計な妄想をしている場合ではない。
「聞く限り、一筋縄ではいかぬ先輩のようだが」
「そうだよ。触らない神にタニタ無しって言うでしょ」
「触らぬ神に祟りなし。体重計のメーカーは関係ない」
「そうともいう」
「おお、今の声真似、似てたでござる」
「どうだ。この声真似、昔から得意だったんだぞー」
「頼むからやめてほしい。幼稚園の時、男子と一緒にぞーさんやってたのを思い出す」
元ネタを知らない龍二は話についていけなかったが、暦が恥ずかしそうに顔を隠しているあたり、女性としてはしたない行為に及んでいたのは想像に難くない。
「気になるのであれば、その先輩について探ってみるのはどうでござるか。御子柴先輩は確か三年一組だったはずでござる」
「なるほど、一理あるな」
九朗の提案に龍二は柏手を打つ。級友であれば、もっと詳しい話が聞けるだろう。それに、そもそも御子柴天音がアスタリウスだと決まったわけではない。他にも有力な候補と出会えるかもしれないのだ。
「よし、私も一緒に」
「それは無理」
「なんでさ、こよみん」
「陽菜は部活の助っ人がある。今日は、サッカー部」
「ああ、そうだった。ごめんね、ボディガードできなくて」
陽菜は手刀を切って謝ってくる。
「別に構わんが、マネージャーのようだな」
「陽菜は私がいないとまともに生活できない」
「ええ、そりゃ無いんじゃない」
「私が風邪で学校を休んだ時、すべての授業で忘れ物をしたのを、私は忘れない」
「ああ、そんなことあったね」
遠い目をしているが、そんな調子で大丈夫かと第三者ながら心配になる。
「すまぬな、龍二。拙者も助けに行きたいが、今日は夕方から魔法少女クロニクルの新イベントが始まるのでな」
「ソシャゲなら別に構わないはず」
「舐めてもらっては困るな、月見坂氏。ランキングイベントは初動が重要。それに、今回の上位報酬のセレスティアSRは貴重な全体バフ持ちなうえ、ガチャ産とは衣装が異なっており」
「はい、長くなりそうだから、お口チャック」
と、暦は無理やり九朗の鼻を掴んだ。「容赦ないな」と朗らかな陽菜だが、笑い事ではない事態に陥っているのは気のせいだろうか。




