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傀儡怪人、恋をする  作者: 橋比呂コー
アスタリウスとの出会い
11/42

戦闘シミュレーション(格ゲー)対決

 少女の眉が動く。細目でじっと見つめられ、龍二は知らずのうちに背筋を伸ばした。

「知ってる。って言ったらどうする?」

「まさか、お前がアスタリウスなのか」

「仮にそうだとして、素直に『はい、そうです』って認めるわけないじゃん。大体、あんた赤の他人だし。それで、どうして答える義理があるのよ」

「それもそうだが」

 彼女が正論を述べているのは分かる。それでも、龍二は引き下がるわけにはいかなかった。何故だか、彼女には固執させられる。


 彼女はしげしげと龍二を観察する。そして、「へぇー」という感嘆の声を漏らした。

「あんた、央間中でしょ」

「なぜ分かった」

「そりゃ制服着てるからじゃん。まあ、この時間だから問題ないだろうけど、あまり長居するもんじゃないよ。補導されたら面倒だから」

「肝に銘じておく」

「は、うける。あんた、何時代の人だって」

 ケラケラと手を叩いて笑う。その笑顔には年相応の可愛らしさがあった。


「でもまあ、そうだな。あんた、何年生?」

「央間中二年二組だ」

「組まで聞いてないし。真面目かよ。二年か。うん、可愛い後輩のよしみだ。ちょっとあたしと勝負しない? あんたが勝てたなら、知りたいことについて教えてあげてもいいよ」

「本当か!」

 拳を握りしめる龍二。少女はパーカーのポケットに両手をつっこむと、

「で、どのゲームで勝負するよ」

 と、煽りを入れてきた。


「俺が決めてもいいのか」

「本当なら音ゲーで勝負したいけど、あんたトーシロでしょ。あまりに圧勝しちゃうのも面白くないからさ」

 情けをかけられたこと自体が面白くなかったが、提案としては助かった。先ほどの太鼓のゲームで挑まれていたら、どうあがいても勝ちようがなかったからだ。


 とはいえ、龍二にとってはどのゲームを選んだとしても素人当然。どうにか勝ち目がありそうなものを吟味する。と、あるモノの前で足を止める。デモ画面から推測するに、これであれば勝機はある。

「この戦闘シミュレーションゲームにしよう」

「格ゲーのこと? あんた、面白いこと言うね」

 ケラケラと笑い転げる少女。いわゆるおじさん世代が懐かしがるような筐体で、レバーとボタンを使ってブラウン管に映る格闘家を闘わせるゲームのようだ。


 ラークンスより渡された限りある偽装通貨をここで消費するのは惜しい気がする。だが、アスタリウスの情報のためだ。龍二が100円を投入するのに合わせ、少女もコインを入れる。

 手慣れた手つきで軍服のおじさんキャラを選択する少女。一方、龍二はおっかなびっくり操作し、日本の空手家のような風貌のキャラを選ぶ。名前が「リュウ」でシンパシーを感じたというのは内緒だ。


「デフォルトの三本先取でいいよね」

「好きにしろ」

「へぇー。余裕じゃん。正直、これは専外だけど、ますます全力を出すっきゃないね」

 少女が意気込んでいると、試合開始を告げるアナウンスが流れる。宣告通り、先に仕掛けてきたのは少女の方だった。


 高速でタイピングしているかのように、次々とコンボ技を決めていく。龍二は為すすべなくタコ殴りにされ、一方的に体力ゲージを減らされていく。反撃しようにも、基本技のパンチやキックを繰り出すのに精いっぱい。最強の装備で襲い来る相手に、初期装備で挑んでいるようなものだ。ろくに策もないのなら、結果は明白だった。


 制限時間を大幅に残し、少女のキャラが必殺技を放ち、体力ゲージを削りきる。

「自信満々な割に大したことないじゃん。そんじゃ、もう1ラウンドももらおっかな」

「なるほど。大体、分かった」

 眼鏡の位置を直し、龍二は待機画面でガチャガチャとボタンを操作する。素人がシミュレートの真似事でもしているのだろうか。少女は歯牙にもかけず、次のラウンドに精神を集中する。


 運命の第二戦。やはり仕掛けたのは少女の方だ。下段蹴りで浮かせてからのハメコンボ。ズブの素人なら、抵抗する術なく一方的に体力を削られるだけの状態となる。ある程度経験がある相手には通用しない手だ。しかし、相手に反撃を許さない以上、確実に勝てる手段ではあった。


 棒立ちしている空手家に下キックを打ち込む。だが、ヒット判定が発生するより前に、龍二のキャラは大きく跳びあがった。

 能動的に空中に逃れてはコンボは失敗に終わる。いや、それどころか、キック後の硬直時間を狙われ、飛び蹴りをまともに喰らってしまう。

「へ、へえ、やるじゃん」

 少女に初めて焦りが浮かぶ。こんなのはまぐれだ。別のコンボを試してやる。


 だが、類まれなる危機察知能力を発揮されているのか、コンボの初動が軒並み回避される。そして、逆にスタン状態を狙われて反撃されるのだ。

 そんなことを繰り返していたものだから、少女のキャラの体力は危険水域にまで迫っていた。龍二が基本技のパンチやキックしか使っていないからこうなっているだけで、まともにコマンド技を決められていたら、とっくの昔にKOさせられていただろう。


 勝負は結局、時間切れによる判定となる。悉くコンボを潰されたものの、完全に無傷とはいかなかった。それでも、少女の被ダメージの方が深刻だった。そして、勝利の女神が微笑んだのは龍二の方だった。


「俺の勝ちのようだな。約束は果たしてもらうぞ」

「まだだし」

「は?」

「まだ1ラウンド取られただけだし。次で勝てばいいのよ、次で」

 鼻息荒く画面と睨めっこしている。完全にコツを掴んだ龍二は、落ち着いた呈で勝負に臨む。


 結論しては、龍二の勝利に終わった。冷静さを欠いた少女の攻撃は空振りが目立ち、着実に基本技を決めた龍二が判定で競り勝ったのだ。

「コンボを一切使わずに勝つって。あんた、本当に素人?」

「うむ。初めてだな、このゲームをやったのは。それよりも約束を果たしてもらうぞ」

 龍二は立ち上がって少女を見下す。強く奥歯を噛みしめていた少女だったが、不意にそっぽを向いた。


「別に。教えてあげてもいいって言っただけど、教えてあげるとは言ってないし」

「な。それは屁理屈だぞ」

「うっさいし」

 ベーと舌を出す。不覚にも茶目っ気たっぷりで、龍二は息を詰まらせる。


 不貞腐れていた少女だったが、頭の後ろで手を組むと、ぼそりと呟く。

「でもまあ、少しぐらいなら話してあげてもいいかな」

「本当か」

「あんた地獄耳かよ。つっても、ここだと他の人に聞かれるし。そうだな」

 少女はポケットからスマホを取り出す。すると、勢いよく振動を始めた。見事なタイミングで着信があったらしい。


 画面をタップしていた少女だが、「タイミング悪っ」と悪態をつく。

「あー、ごめん。どのみち話すのは無理そうだわ。急用が入っちゃってさ。あんた、央間中で間違いないよね。なら、放課後に校庭の隅にあるプレハブ倉庫に来なよ。そんじゃ」

 RPGでイベントフラグを立てるキャラのような口調で言い残し、少女はそそくさと退散しようとする。


「待ってくれ」

 呆気に取られていた龍二だが、どうにか我に返り呼び止める。

「なんか用? 急いでるって言ってんじゃん」

「せめて君の名前だけでも聞かせてくれないか」

 悪あがきでどうしてそんなことを訊ねてしまったのか、自分でも分からない。すると、少女は破顔する。


「名前知りたきゃ、そっちから名乗るのが筋じゃない」

「そうか、悪かった。俺の名は伊集院龍二だ」

「って、おいおい、本当に真面目かよ。まあ、いいや」

 顔だけ龍二の方に向け、腰のあたりで手を組む。その笑顔に龍二は息を詰まらせた。


「御子柴天音。覚えたきゃ覚えればいいよ」

「みこしばあまね。よし、覚えておこう」

「だから真面目かって。そんじゃね」

 手を振り、天音はギャラリーの合間をすり抜けて店外へと脱していった。

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