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4 当てつけ婚



 エミリにとって、王国騎士団の騎士であるデニスとの結婚は、一言で言うなら【当てつけ婚】だった。

 誰に対する当てつけかって?

 エミリを裏切り、他の女に溺れてしまった元許婚ケヴィンへの当てつけだ。


 エミリとケヴィンは子供の頃からの許婚だった。

 双方の父親は昔からの友人で、たまたま同じ年に産まれた男女の子供を「将来、結婚させよう!」と盛り上がったらしい。どちらも平民なので利害関係は特にない。父親どうしの友情の証のような約束だった。

 エミリとケヴィンは物心がつく前から、親に連れられお互いの家にしょっちゅう遊びに行っていた。二人は自然と仲の良い幼馴染になった。

 そして思春期に差し掛かると、エミリもケヴィンもお互いを異性として意識するようになり、やがて二人は恋人になったのである。

 16歳になると、エミリは両親や兄が使用人として働く貴族邸のメイドとなり、同い年のケヴィンは王国騎士団に入団して騎士となった。お互い社会人になり忙しくなってからも、二人は頻繁にデートを重ね仲睦まじく過ごしていた。エミリは、やや繊細で騎士らしくない、優しくて透明感のあるケヴィンが大好きだった。ケヴィンもエミリを大切にしてくれた。エミリ自身も周囲も皆、いずれエミリとケヴィンは所帯を持つのだと信じ、一欠片も疑っていなかった。


 ところが、エミリとケヴィンが17歳になり、双方の親が「そろそろ結婚式の日取りを決めよう」と言い出した頃、ケヴィンに異変が起きた。急にエミリのことを避けるようになったのだ。突然会ってくれなくなったケヴィンに、エミリは大いに戸惑った。

 双方の親も困惑し、ついに両家の家族が揃った場で、ケヴィンの父親が彼を問い詰める事態となった。そこでケヴィンが告白したのだ。先輩女性騎士と深い関係になってしまったと。

 その告白に激昂したケヴィンの父親は「馬鹿野郎!」と大声を上げながら、何度も何度も容赦なくケヴィンを殴った。ケヴィンは全く抵抗せず、父親に殴られるままになっていた。

「おじさん、もうやめて! ケヴィンが死んじゃう!」

 エミリは堪らず、そう叫ぶと、ケヴィンに抱きついて彼を庇った。

「エミリちゃん、退くんだ! こいつの性根を叩き直してやる!」


 エミリは顔を腫らしたケヴィンに問うた。

「ねぇ、ケヴィン。ケヴィンは、先輩の女性騎士に迫られて断れなかっただけよね? ね? そうよね?」

「エミリ……すまない。俺は真実の愛を見つけたんだ。お前とは結婚しない。俺のことは忘れてくれ」

「ケヴィン……」

 その後の事はよく覚えていない。

 あまりの衝撃にエミリはその場で昏倒してしまったのだ。

 そうしてエミリの初恋は終わった。




 エミリの両親と兄は、ケヴィンの事など早く忘れろとばかりに、エミリにたくさんの見合い話を持ってきた。その中に王国騎士団の騎士との縁談があった。母の友人からの話だそうだ。

 その騎士はエミリより5つ年上だった。つまり、王国騎士団内でケヴィンの先輩にあたるはずである。

 エミリは思った。エミリを裏切ったケヴィンに当てつけるには、打って付けの相手ではないか、と。

「お母さん。私、この男性とお見合いするわ」 

 

 そうして、見合いから4ヶ月後にエミリはデニスと結婚した。

 ケヴィンに自分のウエディングドレス姿を見せつけてやりたかったエミリは、結婚パーティーに彼が招待されていない事を知り、少しガッカリした。が、先輩騎士の結婚パーティーに呼ばれないなんて、きっとケヴィンは王国騎士団の中で有望視されていない、出来損ないの騎士なのだろう――そう考えたエミリは、心の中で元許婚をせせら笑い、秘かに留飲を下げたのである。

 


 けれど、結局、エミリはケヴィンを忘れることが出来なかった。

 ケヴィンへの当てつけでデニスと結婚したものの、その先に待っていたのは、いつまでも消えぬ胸の痛みに自らの受けた傷の深さを思い知らされる日々だった。

 深い傷は、そのままケヴィンへの強い執着となり、エミリを苦しめ続けた。

 



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