ラメリアの海は魚の宝庫
「ゲッ、本当に来たのか?」
「え?」
「弱ったな、てっきり冷やかしだと思ってたわ。フツー、女の子が漁師の船に乗るとは思わねぇだろ?」
それであんなにあっさりとOKを出したのか。
「俺は男だから大丈夫だよ。邪魔にならないようにすみっコでじっとしてるから」
「男?本当かそれは?」
と聞かれたので冒険者証を見せる。
「お前冒険者か?」
「一応ね。採取しかしてないけど」
「ならしょうがねぇか。来いと言ったのは俺だからな。しかし、本当に落っこちても知らねぇぞ」
「大丈夫。しっかり掴まってるよ」
そんなに落っこちると何回も言われるとフラグかと思うじゃないか。
漁師の船はそこそこ大きい帆船。魚探もないから船長の腕が物を言いそうだな。
ここに入ってろと言われたのが船長室、俺を乗せると言った人は船長に死ぬほど怒られていた、ゴメンね。
「嬢ちゃん」
「俺はポンタ。男だよ」
「お前その見た目で男か?」
「そう。小さいからよく間違われる。慣れてるから気にしないで」
「なんのために船に乗った?」
出港してから船長に話を聞かれる。
「捕れた魚は氷で冷やしてないだろ?より鮮度の高い魚が食べたいんだよ」
「お前が乗ってきてもかわらんだろ?」
「マジックバッグを持ってきたから大丈夫。知り合いの冒険者に借りて来たんだ。ここに入れたら鮮度落ちが随分と違うんだよ」
「そこまでして鮮度にこだわるのか?」
「そう。特にカツオは鮮度が命だからね」
「この時期のカツオ目当てなのか?」
「他にも美味しそうなのがあったら買って帰る」
「物好きもいたもんだ。カツオが捕れたらくれてやるよ。この時期に売っても二足三文だからな」
それは僥倖。全部もらおう。
船頭室の外からは帆の張り方とか指示している声が聞こえる。大変だな帆船って。
漁場は東に進んでから南へと下るらしい。北から寒流が来ていて、南から暖流が来ているポイントらしい。どうやら寒流の影響でラメリア王都は比較的涼しく冬はかなり寒くて雪が積もるとのこと。
だんだんと白んで来て船長は網の準備を指示していた。
曳網だなこれ。
「底物は捕るの?」
「うちは底曳はやってねぇ、網の損傷が激しいからな。底物が欲しけりゃ他の船に乗れ」
「ハタ系は釣り物?」
「お前詳しいな。ハタ系は漁場が岩場になるから釣り物が主だ」
なるほどなるほど。
船を走らせて一回目の網をあげる。
「おー、大漁大漁!」
「ちっ、カツオが多いな」
こっちはラッキーだ。しかしあんな量どうする?
どちゃっと網から魚を出した後に再び投入。もう出ても良いぞと言われたのでカツオのエラと尻尾の部分に切れ目を入れて血抜きをしていく。海水を汲んで貰ってジャボジャボ浸けていった。
「何やってんだ?」
「血抜き。カツオはこれをやってると独特の風味が抜けて美味しくなるんだ」
血抜きの習慣がない漁師達が珍しそうに見ている。
「この魚も売ってくれる?」
「構わんぞ」
大きなカンパチだ。こんなのが混ざるんだな。こいつも血抜きしてやる。
カツオは全部いらないと言われたので貰っておく。見知らぬ魚は今日は買うのをやめておこう。
次は赤ヤガラ。
「これも買う」
「そいつは食うとこ少ないぞ」
「でも美味しんだよ」
「あんま味しねぇだろ?」
「食べ方によるよ」
これはどうすると聞かれたクロダイみたいのはパス。銀ピカの黒鯛だけど俺は他の魚の方がいい。こちらでは人気があるらしい。
タチウオもいるじゃん、しかもドラゴンサイズ。
「これは買っていい?」
「お前、長い魚好きだな?」
「こいつは旨いからね」
これもあまり人気がないらしい。こっちの人にはあっさりし過ぎてんのかな?
見たところ南方系の魚が多い。
「いま漁をしてるの暖流?」
「そうだ。海流に逆らって暖流の魚を2回、戻りながら寒流の魚を2回網入れして終わりだ」
次の網も似たような感じの魚が捕れ、いらないと言われたカツオだけ貰った。
しばらく船を走らせて寒流へ。
魚がガラッと変わる。
ホッケがいたからこれを買おう。
「これここで捌いていい?」
「おっ、よく知ってやがんな。こいつは干した奴が一番旨いからな」
ダーッと開いて海水で洗った後にここに干せと言われた所に干していく。
イカもいるじゃん。しかもこれはケンサキだな。
「イカをたくさん貰っていい?」
「構わんぞ。変わったもんばっかり欲しがるな。イカ食うやつは少ねぇんだぞ。俺らは食うけどな」
ケンサキはアイテムバッグに、スルメイカはこの場で開いて干していく。
他はブリとスズキも追加だな。
そしてなんとマグロも発見。マグロとしてはあまり大きくはないが。
「これ買っていい?」
「いいぞ」
これも血抜きしてやる。
びん長マグロはどうする?聞かれた。クロマグロと値段は同じ。ラメリアでは同価値のようだ。
「黒い方がいいな」
似たようなもんだろ?と言われたけど違うのだ。
もうこれで十分だな。これ以上買うとアイテムバッグの容量が疑われる。
「ありがとう。もう入らないや」
漁師達はマジックバッグは知ってるがどれぐらい入るとかは知らないようだ。
漁が終わって寄港したのは夕方前。専門の業者が荷車で運んで行った。
「船酔いもしなかったな。大したもんだ」
「えーっと、今回の魚なんだけど、カツオ37匹、カンパチ3匹、ホッケが55匹、クロマグロが1匹、ケンサキイカが37で、スルメイカが16、スズキが3匹、後は…」
と、アイテムボックスを見ながら船長に説明する。
「大きさと重さで値段が変わるなら全部出すから確認して」
「あんな作業をしながら数を数えて覚えてんのか?」
「まぁ、漁師さんも商売だしね。ちゃんとしとかないとダメだ思って」
「気にいった。お前みたいなやつならまた魚が欲しけりゃ船に乗せてやる。底物や釣り師にも紹介してやるよ。今回の代金はひっくるめて10万Gでいい」
「え?めちゃくちゃ数があるよ」
「構わん。ちゃんと数えて値付けしても似たような価格になるだろ。長年漁師やってるワシを舐めんなよ」
「随分と単価が安いんだね?」
「まぁ、ちっとはまけてやったがな。しかし漁師の船は多いからこんなもんだ」
かなりまけてくれたような気がする。カツオの値段も入ってないし。
「漁師は怪我をしたりする?」
「まぁな。たまにヘボが網のロープに巻き込まれてそこそ大きな怪我をしやがる」
「やっぱり危ないね」
「漁師ってのはそんなもんよ」
船長にお礼を言って10万Gを払った。後はまけてくれた分のお礼として中級ポーションを渡す。
「こいつはなんだ?」
「中級ポーション。保存魔法の封印の印はないけど1年は劣化しないと思う」
メイに頼んで保存の精霊に入って貰ったやつだ。アイテムバッグに入れたら精霊界に戻るけど出したらまた入ってくれるらしい
「そんな高価なもんもらえんぞ」
「俺はポーションの有資格者でもあるんだよ。店を出す前だからこれはあげるよ。怪我をした人がいたら飲ませて。大きな傷なら掛けた方がいいかもしれないけど。それとも初級ポーションで数が有った方がいいかな?」
「いいのか?」
「素人を船に乗せてくれたお礼だよ。あと、この時期のカツオでも売れるように加工品を広めておくね」
「加工品?」
「そう。もう作ったけど味が馴染んでないから来週あたりに試作品もってくるよ」
なんの事かよく分からない船長はポーションを恐縮しながら受け取ってくれた。その後は魔導具ショップに行かないとだめなので急いで向う。
ゼーゼー言いながら魔導具ショップへ。途中で清潔保持スキルを使い魚臭さを取ってから自転車をポチった。さらば38000ポイントよ。
「おう、ようやく来たか」
「うん」
倉庫で見ようとなりそこで自転車を出した。
「こんなもん乗れるのか?」
「慣れたらね。こうやって乗るんだよ」
と倉庫内をスイスイと走る。
「馬並みに走れんのかそれ?」
「全速力の馬よりは遅いよ。でも歩くよりずっと早いね」
「これ…」
「な、難しそうだろ?」
「仕組みはわかるか?」
「わかるよ」
と、各パーツの説明をしていく。
「このダンパーってのは中はどうなってる?」
「多分、中に油が入っていてこうなってるはず。俺も実際に中を開けて確かめた事はないんだよ」
「なんのために付いてる?」
「このバネだけだとボヨンボヨンしてて揺れが収まらないんだよ。コレと組み合わせることでボヨンボヨンせずに衝撃だけを吸収してくれるんだ」
「このタイヤに付いてるゴムはどうなってる?」
「中にもう一つゴムの風船みたいなもの、チューブってのが入ってる」
あとはブレーキワイヤーとかギアの中に組み込まれているボールベアリングなんかを説明する。
「かなり難しいな。このチェーンてのも相当厄介だ」
「それと自転車の肝はギアにあるらしくてね、耐久性と強度が要求されるみたい」
「だろうな。駆動力をこんな薄い歯車で受け止めるんだからな」
「これはバラしてもいいか?」
「ダンパーはバラすと元にもどせないよ。ここで作るのはこれがなくてもいいかもしれない。俺は砂利道とかを走るのを想定しているけど、王都の人が乗るなら街中だけだろ?」
「なるほどな。ちなみにこれはいくらぐらいするものなんだ?」
「500万Gくらい」
「確かにそれぐらいにはなるわなぁ」
「量産が可能になればもっと値段が下げられるとはおもうけどね。ゆくゆくはこれに魔導具を仕込めば魔石で走れるよ」
「なるほど、そいつぁいい。魔導具としてうちで売ってもおかしくないな」
「このワイヤーとか作れそう?」
「そうだな。素材の錬金師を呼んで来るわ」
呼ばれて来た錬金師。この人は金属加工のスペシャリストみたいだ。
「ほう、これは興味深い」
ワイヤーとチェーンに興味を示す錬金師。
「このワイヤーというのは金属を紐状にして編んであるのか?」
「そう。単線でやるより強度が上がるみたいだよ。ゴムでコーティングしてるのは錆びにくくしてあるのと、紐一本一本は弱いから保護する役目だと思う」
「このチェーンってのはパーツの組合せだな?」
「そう。小さなピンで止めてある。穴とピンがピッタリじゃないとすぐに抜けるから精度が要求されるんだ。手ではめるのは難しいから専用の工具から作らないとダメだね」
「ネジ式で押し込むような工具ってことだな」
すごいな。今の説明だけでチェーンカッターを想像出来たのか。
「ちなみに錆びない金属とかあるの?あとこんな細い糸みたいな金属とか」
「作れるぞ」
素晴らしい。
「これ作れる?」
「なんだこりゃ?」
「調理道具。ズーランダだとこんな細い金属はつくれないと言われたんだよ」
「獣人は魔法を使えるやつがほとんどいないからしょうがないだろうな」
「あと、瓶の蓋とか作れる?」
「コルクじゃだめなのか?」
「何度も開けしめするのに金属の蓋の方がいいんだよ。こうやって瓶をネジ式にして蓋ネジ式なら何度でも気軽に使えるし。鉄だと錆びるから無理だなと思ってたんだ」
「蓋は同じものを量産可能だ。瓶が全く同じものを作れたらいいんじゃないか?」
「ほんと?今度瓶職人連れてきたら話をしてくれる?」
「まぁ、いいけどよ」
素晴らしい。これが成功したら瓶詰めの食品が売れるな。そのうち缶詰も聞いてみよう。




