ゴブリンの巣探し
20人程の生徒と教官5人を引き連れて森の中を進む。
「ランガス、心当たりはあるのか?」
「まぁ、昨日わらわらと出てきやがった方向だろう。それよりアマンダ、前は俺がいるからお前は生徒達の後方を支援しろよ」
「他の教官もいるのだ、別に構わんではないか」
「あのなぁ、冒険者になって死ぬやつを減らす為の訓練だろうが。冒険者になるまでに死んだら元も子もないぞ」
「なぁに、死ぬやつは死ぬし、生き残るやつは生き残るのだ。それは私が後ろに居ても同じ事だ」
女教官はアマンダというのか。何を考えているのかさっぱりわからんな。
生徒達は生徒達でゴブリンなんか余裕だぜとか言ってるやつもいるけど大丈夫か?俺は昨日結構怖かったけど、ココの世界の人は平気なのだろうか?
そんな事を思いながらまだコブリンの臭いもしてこない間にウィンドウを開いて何か見落としがないか確認でもしておこう。
ブォン
えーっと、特に変わったことは… あ、なんかアイテムボックスに項目が増えてるぞ。なんだスキルの卵って?
ポチと押すと説明が出て来る。
初ポイントゲット特典としてスキルの卵をプレゼントします。どんなスキルが出るかはお楽しみ♪
へぇ、初回ボーナスみたいなものか。スキルの卵を画面上でタップと。
ピキピキと割れる演出がありポンっと説明書きが出て来た。
〜無駄吠えスキル〜
・このスキルはポイントを消費せず何度でも使用できます。
何だこれ?ポメラニアンだから無駄吠えってか?あ、続きがある。
スキル効果/吠えられた対象をイラッとさせます。
……こんなスキルいらんわ。
まぁ、無料で貰える特典なんてこんなものか。
ん?前方両サイドからゴブリンの臭いがしてきたぞ。これは挟み撃ちにするつもりなのだろう。
ランガスにチョイチョイとする。
「ん、ポンタ。いるのか?」
あっちとあっち
ポンタは前方両側を前足で示す。
「ほう、これがこいつの索敵能力か。前方両側ということは挟み撃ちにするつもりか。ランガス、ゴブリンが待ち伏せとかの戦術を使うなら上位種がいるのは間違いないな」
「昨日も周りを囲まれたからな。ホブかジェネラルあたりがいるんだろ」
「ジェネラルか。それ以上がいるなら生徒達がいると荷が重いな。皆のもの止まれ」
生徒達はビクッとして立ち止まる。
「この先にゴブリンがいる。上位種もいると思われるから無闇に突っ込むなよ。円陣を組んで武器持ちは杖持ちをガード。突っ込んで来た敵のみを殲滅せよ。仕留め損ねても絶対に後を追わずにその場を離れるな」
「はいっ」
アマンダが皆に指示をして陣形を組ませた。指示の内容からすると攻撃的布陣ではなく防御的布陣みたいだな。安全第一というやつだろう。
生徒達は緊張しながらランガスとアマンダの後を円形になりながらついてくる。しかし森の中の道は獣道に近い。わかってはいても全員で円形の陣を保つのは難しそうだな。
グキャっ
汚い鳴き声が聞こえた瞬間にゴブリン共が両側から襲ってきた。
「うわぁっ」
とっさに対応できない生徒の援護にアマンダが入る。剣を持ってるのに素手でぶん殴りやがった。
「ほら、集中して意識を立て直せ。杖持ちはガード優先で攻撃魔法を撃つなよ。同士討ちになるぞ」
次々に出て来るゴブリンを殴り飛ばしながら指示をするアマンダ。ランガスも強かったけどアマンダも強いな。
武器持ちの生徒達も必死に応戦している。ここは木々に囲まれて狭いから剣を振り回しても枝とかに当たって上手く戦えていない。教官達は一気にゴブリンが生徒の方へと行かないように調整しながら倒しているのか必死の形相を浮かべる生徒と違って余裕がありそうだ。
ん?上空から臭いがしてきたぞ。
ランガス、ランガス。
前足でチョイチョイしてランガスを呼ぶ。
「どうしたポンタ」
上、上!
前足で上をさす。
「皆んな上だっ」
「キャァァァッ」
「くそっ、ゴブリンが弓を使うだとっ」
教官の一人が叫んだ。生徒達に向けて矢が飛んで来たのだ。
「グワッ」
棒きれの矢ではあるが当たると刺さるようで何人かが矢の餌食になる。そして矢から逃げようとした杖持ちが陣形から飛び出した。それをきっかけに陣形が崩れていく。
「お前ら、陣形を崩すな。皆から離れると狙われるぞっ」
アマンダの声も虚しくパニック状態になった生徒達の耳には届かない。
陣形から離れた杖持ちの女の子にゴブリン数匹が襲いかかる。これはヤバい、教官達も間に合いそうにない。ランガスもその娘を助けに移動しているが間に合わなさそうだ。
「キャウキャウキャウキャウキャゥっ」
その刹那ポンタは無意識に無駄吠えスキルを使った。その甲高い鳴き声にイラッと来たゴブリンの意識はポンタに向く。
「グギャギャギャっ」
イラついたゴブリン達が女の子から離れて一斉にこちらに来た。
「でかしたポンタっ」
向かって来たゴブリンをバッサバッサと斬り倒していくランガス。
「ポンタ、今のをやり続けろっ」
「キャウキャウキャウキャウキャゥ」
ランガス皆から離れつつポンタに無駄吠えをさせる。ゴブリン達は生徒達ではなく一斉にポンタの方へと向かってきた。
無駄吠えを続けるポンタを連れて皆から離れるランガス。
「治癒士は負傷者に治癒を、他の教官は生徒のガードを頼む。私はランガスを追う」
指示をしたあとアマンダはランガスの後を追い、ゴブリンを後から殲滅していく。それに気付いたランガスは立ち止まり応戦に入った。
グギャギャギャっ
ゴブリン達は前後からランガスとアマンダに斬り倒されこの場にいる奴らは全滅したのであった。
「アマンダ、生徒達は無事か?」
「多分な。怪我はしたが老師がいるから問題ないだろう」
「老師?あの老師か。ボケて詠唱忘れてねぇだろうな?」
「老師の前で言うなよ、杖で殴られるぞ」
皆の元に戻ると爺さんが治癒士志望の杖持ちを指導しながら怪我を治していた。
「サリ、もうお前の治癒魔法はいらねえよっ。ちっとも治らないじゃないか」
「一生懸命やってるんだからそんな事を言わないでよっ」
俺を拾った少女はサリというのか。治癒士志望らしいが上手く出来ていないみたいだな。
ゴブリンの臭いはしているが倒された奴らの臭いだな。他の所からは臭いは今の所しない。
「我の名はサリ、我の魔力を神に捧ぐ。神の力で傷付いた物を癒やし給え。ヒールっ」
治癒の詠唱ってやつか。詠唱したら小さな光の粒が集まって身体を包んでから対象者の傷に集まっていっている。光の粒はサリのだけ色が薄い黄色というか金色みたいだな。他の人は白色なのに。魔法って不思議だな。
ポンタはじーっと生徒たちが魔法を使うのを見ていた。
サリの魔法では治らなかった生徒は老師と呼ばれた人が代わりにやるようだ。詠唱したあとに白い光の粒が集まってくるけど生徒達より全然多いわ。
「老師教官、有難うございました。もう痛くありません」
「うむ、この程度ならすぐに治る。サリは修行し直しじゃな」
「はい…」
「アマンダ、この先はコイツラを連れて行くのは危ねぇな。数人ならカバー出来るが全員は無理だ。こいつら思ってたより弱かったから連れて来たのは俺の判断ミスだ」
「初めての実戦研修だ無理もない。腕より心の問題だろう。お前ら、先に進みたいやつはいるか?恐らくこれより先はもっと強く数が多くなる」
シーン
生徒達は誰も手を上げなかった。
「老師、他の教官と共に生徒達を連れて帰ってくれ。私はランガスとゴブリンの巣を叩きにいく」
「二人じゃと厳しいじゃろ?」
「こいつもいるからな。来ると先に解ればどうということもない。不意打ちを食らわなければどうにかなる」
アマンダはポンタをランガスのカバンから首根っこを掴みぶらぶらさせながら老師にそう言い切った。
「教官、魔法使いがいた方がいいと思います。私を連れて行って下さい」
「リンダか。ゴブリンの数が多いと守ってやれんかもしれんぞ」
付いて来るといったのは俺を拾ったもう一人の赤い髪の少女だ。カタカタ足が震えているけど大丈夫か?
「リンダ、私も行く」
サリは付いてきて何をするつもりだ?治癒魔法もろくに使えないんじゃないのか?
「サリ、お前は足でまといだ。皆と帰れ」
ほら。
「でも…」
「お前が今なすべきことは治癒魔法の修行のやり直しだ」
「はい…」
アマンダにびしゃっと言われて泣きそうな顔で項垂れたサリ。リンダにつられて武器持ちの少年達も行くと言い出したが他の教官にゴブリンの後始末を命じられていた。討伐証明を取ったりしないとダメだろうしな。
「ではリンダだけ付いて来い」
「はい」
3人とポンタで先に進んで行く。
んー、ゴブリンそのものの臭いはしないが移動した後の臭いが可視化されるのが分かるな。犬の感覚ってこんなんだったんだな。可視化された臭いはあちこちに散らばってはいるが数の多い方は同じ方向から来ている。
ランガス、あっちあっち。
チョイチョイして方向を示すと剣を抜いて構えるランガス。
違う違う、あっちの方向。
ポンタは首を横に振ってジェスチャーで伝える。
「ん?違うのか?何が言いたい?」
もう一度数の多い方向を示す。
「あっちに行けと言ってるのか?」
コクコクと頷いてみせる。
「あんた人の言葉がわかってんの?」
リンダにそう聞かれるけど反応はしないでおこう。
「何よ、私達と初めに一緒にいたくせに無視すんの?」
お前らは俺を的にしやがったから信用してやらん。
ポンタはリンダを無視してランガスにチョイチョイしてあっちともう一度前足で方向を示したのであった。