初めての狩り
「わぁ、ランガスさんお久しぶりですね」
「おう。ちょっと用事があって戻ってきたんだ」
「どの依頼を受けます?」
「今日はこいつを登録しに来た」
「獣をですか?」
「そうだ。このまま野放しにしてたら魔獣と間違われて狩られそうだからな」
「お優しいですね。では名前を教えて下さい」
「名前かぁ、そうだな。ポンタで」
「はい、ポンタですね。登録しますから血をお願いします」
「ほら、手を出せ」
なに?なに?何されんの?
チクッ
痛っ
前足を針で刺された。今から何されんだ?
しかしその後は何もされず、青年は食堂のようなテーブルに座った。
「今登録してるからな。時間が掛かるから飯でも食うか。おい親父なんか犬の食うもん持ってきてくれ」
「ランガスじゃねーか。犬の食うもんって何がいいんだ?」
「肉でいいんじゃねーか?」
「生でか?」
「こいつは仔犬だからな、腹壊されても困るし焼いといてくれ」
「鳥でいいか?」
「おっ、なら俺も焼き鳥とビールな」
「あいよっ」
何やらいい匂いがしてくるからここは飯屋なんだろうな。俺にもなんか食わせてくれるのだろうか?しかし、テーブルの上に乗せられてても怒られないとか不思議だ。
油断は禁物と思ってテーブルの上でじーっとする悟。
「お前大人しいな。それともアマンダの言う通り様子を伺ってんのか?」
何かを話し掛けられているかはわからないが敵意は感じないので横を向いておく。
「はいよ、全部で1000Gだ」
青年は革袋からコインをチャラチャラと出して支払いをしたようだ。この世界の通貨はコインみたいだな。
「ほれ、食え」
悟の前に皿を置く青年。食べていいのだろうか?昨日の朝に食べたきりだから腹は減っている。しかし食って殴られたりとかしたら嫌だしな。
「どうした?こいつはお前の分だぞ」
青年は手掴みで焼いた肉を口の前に持ってきたから食べていいということだろう。
悟はチラッと青年を見る。
「ほら、食え」
食えと言われたような気がして恐る恐る口に入れてみるが怒られなかった。これは間違いなく食べていいということだろう。
悟はパクパクと焼いた鶏肉を食べだした。満腹感からすると全部食べられそうだがたぬ吉にあげていた餌の量を思い出して同じぐらいの分量で止めておく。
「もう食わないのか」
口に肉を持って来るがいやいやしておいた。
「親父、お前の焼いた肉が不味くて食えねぇってよ」
「うるせえっ。嫌なら食うなってんだ」
「ランガスさん、お待たせしました。こちらが冒険者証と従魔じゃないや、従獣?登録の首輪です」
「おっ、早いね。ありがとよ」
「明日は依頼を受けて下さいね」
「明日は先約があるから明後日な。なんか困ってるやつあんのか?」
「はい。ゴブリンの巣の調査です。最近かなり数が増えたので巣が出来てるんじゃないかって」
「そうか。ここの冒険者は下位ランクのやつばっかりだからな。巣がありゃヤバそうだ」
「では明後日お願いしますね」
「おうっ」
悟は受付の女の人にタグの付いた首輪をはめられた。そういうプレイを求められた訳ではなく飼犬の証だろうな。ということは俺はこいつに飼われるわけか。出来れば飼い主は綺麗な女の人が良かったがまずは大人になるまでは強そうなこいつといるほうが得策かもしれん。
悟は青年に連れいかれた宿のようなところで休めることになった。何かされそうな感じはないがとりあえずベッドの下に隠れていよう。
ホコリを避けて伏せのポーズで休む。
ポイント参照っ!
今日の出来事で何か変化があったかウィンドウを開けて確認すると名前がポンタになっていた。
ポンタのポイント・・・
コンビニのポイントみたいなってしまったな。名前以外には変化がなかったのでそのままベッドの下で寝ることにしたのであった。
翌日はカバンに入れられて森の中へ。
「よーし、今から一匹狩るから臭いを覚えろよ」
何かを話し掛けられた後に森の中を散策する。
そして青年は森の中を進んだあとに雰囲気が変わりダッシュして汚い緑色の小さな人のような者を斬った。
「コイツがゴブリンだ。これの臭いのする方を教えてくれ」
青年は何かを話しかけてきて、斬ったやつをゴブリンと呼び、その臭いを嗅がされた後に森の奥の方へ指をさす。もしかしたら猟犬のような事をさせるつもりなのだろうか。
今斬られたやつは人の形はしているが人ではなさそうだ。顔が醜すぎる。それに臭いも人と全然違うのだ。この世界ではゴブリンって想像上のモノじゃないんだな。
青年はまた悟をカバンに入れ歩き出す。
スンスン
あっちの方から臭いがするな。しかし犬の体は凄いな。意識して嗅ぐと臭いが可視化されているようだ。
あっち
青年を前足でチョイチョイして臭いのする方に前足を示す。
「おっ、俺が何をして欲しいか分かってんのか?」
青年は前足をさした方向に歩き出す。
「おっ、本当にいやがるじゃねーか」
またゴブリンを斬った青年。
「おっと、生け捕りにするんだったな。すっかり忘れてたわ。よし、ポンタ次だ」
また歩き出したのでスンスンする。なんかあちこちから臭いがする。これ囲まれてんじゃないだろうか?
青年をチョイチョイとしてからぐるーっと前足で周りをさして顔を見上げる。
「ん?方向がわかんねぇのか?」
なんか上手く伝わってなさそうだな。もう一回チョイチョイとしてからぐるーっと前足を回して顔を見る。
「もしかして周り全部にいるって事か?」
雰囲気が変わったから伝わったのかもしれない。
ランガスは神経を研ぎ澄ませたような感じで周りを警戒した。
グギャギャギャっと汚い鳴き声と共にゴブリンが一斉に出て来た。
「フウンッ」
飛びかかってきたコブリンを大きな剣を振り回して一気に倒していくランガス。そして怯んだゴブリンの中に突っ込んで斬り裂いていった。こいつ強ぇな。
「何匹か逃がしちまったな。しかしポンタ、お前すげぇな」
なんか言われた後に頭をグシグシと撫でられた。多分褒められたのだろう。ランガスの顔も笑顔だ。
ランガスは倒したゴブリンの右耳を刈り取って袋に詰めていっている。あれは倒した証明になるんだな。本当にアニメの世界のようだ。
「よし帰るぞ。一匹生け捕りにするつもりだったが予定変更だ。これだけ増えてるなら巣があるのは間違いねぇ」
何かを喋った後に来た方向へと向かってるから今日はこれで終わりだろう。
町に戻った後に前の施設に向かっているようだ。
「ランガス、手ぶらか?生け捕った魔物はどこだ?」
「アマンダ、コイツラに実戦やらせてみねぇか?」
「野外実習ならやっておるぞ」
「違う。実戦だ」
「何をやらせるつもりだ?」
「ギルドからゴブリンの巣の調査依頼を明日受ける。そいつらを連れて行くってのはどうだ?」
「こんな弱っちい奴らを連れて行ったら危ないだろうが」
「実戦に勝る訓練無しってやつだ。俺とお前、それに治癒士の教官とか他にもいるだろ?みんな連れて行けよ」
「そんな大掛かりで巣がなかったらどうするつもりだ?」
「これを見ろ」
ランガスは刈り取ったゴブリンの耳を見せる。
「午前中だけでこんなに狩ったのか?」
「そうだ。これだけいるなら間違いなく巣がある。町に近い場所でこれだ。結構ヤバいぞ」
「そうか。なら手配しておく」
「じゃ、そっちは頼んだ。俺はギルドに寄ってくるからよ」
「お前今はソロだろ?索敵はどうやった?」
「こいつだよ」
「なんだと?」
「臭いを嗅がせて探してくれと言ったら足で方向を示しやがったんだ。こいつめちゃめちゃ賢ぇぞ」
「ほう、何かあるような雰囲気は感じていたがそこまで使い物になるのか。私が買えば良かったかもしれんな」
「どうせお前は世話なんか出来ねぇだろうが」
「そうだな」
二人は何やら会話を交わしてからその場を離れた。
「ランガスさん、もう今日の予定終わったんですか?」
「おう、コブリン湧いてやがんな。午前中ちょろっと森に入っただけでこれだ」
ランガスはドサッと袋を受付嬢に渡した。
「えっ?午前中だけで24匹ですか?」
「おう、これは間違いなく巣があるぞ。明日訓練所の生徒を連れて巣の調査に出る」
「生徒を連れて?危ないですよ?」
「アマンダ達も連れて行くから大丈夫だ。巣の調査の報酬はいくらだ?」
「場所の発見で10万G、巣の討伐はゴブリン1匹に付き5千Gです」
「随分とシケた報酬だな。そりゃ誰も受けずに残ってる訳だな」
「すみません。町長の依頼ですからケチなんですよ」
「だろうな。俺もあいつのケチさ加減に嫌気がさして他の街に移った口だからな」
「そうなんですよねぇ。育った人はどんどん出て行っちゃうんですよ」
「まぁ、ギルド主催で訓練所作ったのは正解だろうな。死ぬやつ減ったろ?」
「はい。あそこで合格しなかった人は冒険者になれませんから」
「他の町なら誰でもなれるからな。俺は教官を断った身だからちょいと役立ってやるよ」
「助かります。あ、これはゴブリンの討伐報酬です。ゴブリン1匹5千G✕24匹で12万Gです」
「あんがとよ。ほらポンタ、これが今日の稼ぎだ。お前の活躍もあったからいいもん食わしてやるよ」
受付嬢と話をしていたランガスはポンタに今貰った報酬を見せた。
これ銀貨かな?12枚あるけど俺にもくれるのか?ポケットとかカバンとかないからどうしようかな。アイテムボックスってどうやって使うんだろ?
恐る恐るウィンドウを開いてみる。コイツラに見えてたら騒ぎになるかもしれんと思ったが杞憂だった。どうやら何も見えてないようだ。
えーっとアイテムボックスの項目をタッチすると説明が出来た。
〜収納する場合〜
アイテムボックスの収納項目をタッチしながら収納したいものを触る。
〜取り出す場合〜
アイテムボックスの項目をタッチすると収納されている物が表記されるので必要数を選んで取り出し項目をタッチ。
なるほどね。
「ほらポンタ。これの匂いを嗅いで覚えて落ちてたら拾ってくれよ」
ランガスがポンタに話し掛けながら銀貨を差し出した。
ポンタは銀貨にタッチしながら収納した。
「ん?お前銀貨をどこにやった?もしかして食ったんじゃないだろうな」
ポンタは話し掛けられながらウィンドウを確認する。
おっ、ポイントが100増えて150になったぞ。言語理解と交換しよう。ポチッとな。
「おいっ、銀貨を食ったんなら吐け。腹を壊すぞっ」
わかるぞっ!俺にも言葉がわかるっ!てか、銀貨を食った?なんのことだ?
「キャウウウン」
(食べてないよ)
あれ?言語理解したのに話せないのか?なんてこったい。どうやら言語理解とは言語を理解出来るだけで話せないようだ。
「ほら吐けってば。銀貨なんか食うんじゃねぇ」
ランガスはポンタを持ち上げて頭を下にしてゆさゆさする。
あの銀貨はくれたんじゃなかったのか?アイテムボックスに収納したのを飲み込んだと勘違いされたみたいだ。
このままだと本当に吐きそうなのでアイテムボックスから銀貨を1枚取り出した。
チャランっ
「やっぱり飲み込んでやがったか。ちゃんと吐いてくれて助かったぜ」
自身の報酬として受け取ったお金は返却しても使った扱いになるのかポイントで交換した言語理解は没収されずに済んだのであった。