耳掃除
「ラメリアに入って身元引受人になるのはそれなりに難しそうですね。特に3年間連続で稼がないとダメというのが」
「抜け道が無いわけではないのですよ」
「抜け道?」
「そう。権力を持ったものと繋がりがあればなんとかなりますわ。その権力者に身元引受人をお願いするという手もありますから。もし宜しければラメリアの貴族を紹介する事も出来ますわよ」
「本当ですか」
「但し、借りを作ることになりますわ。貴族の貸し借りというのはそれなりに厄介なものなのでその覚悟があればの話ですけどね」
貴族への借りか。それは厄介だな。
「ポンタさんは嫁探しにラメリアにいかれるのですよね?」
「はい」
「そちらの女性はどうなさるの?いい人なのでしょう?」
「残念ながらジャガーとは種族が違うのでどうしようもないのです」
いくら好きでも結ばれぬ恋なのだ。
「そういえばポンタさんは犬族でしたっけ?人族に近いからうっかりしていましたわ。ごめんなさい、余計な事を申しまして」
「人族なら大丈夫だったんですか?」
「ええ、人族はどの獣人とでも子をなせますわよ。と言っても人族と獣人の夫婦は少ないですけれども。ですからポンタさんのお相手は犬族か人族のどちらかになりますわね」
なるほど。相手は人族でもいいのか。
「ポンタさん、出発前にラメリアの犬族の貴族への紹介状を書いて差し上げますわね。お使いになるかどうかはご自身で判断してくださいな」
「ラメリアの貴族は犬族なんですか?」
「ブタ族もいらっしゃいますけど、ウチとは合いませんの。強欲な方ですわ。その点犬族の貴族は獣人貴族の中では有力貴族なのです。とても優雅で聡明な方ですわ。その分気位が高いですけど人の足元を見て過大な要求をされることはありませんわ」
もう少し詳しく聞くと、ズーランダの貴族は王族と貴族の2種類で爵位というものはない。ラメリアは獣人も多いとはいえ人族の国なので爵位があり、知り合いの犬貴族は伯爵だそう。
「犬伯爵様の種族はなにかわかります?」
「あら、なんだったかしら。犬族は種族がたくさんに分かれてますでしょ?ごめんなさいよく覚えていませんわ」
まぁ、それはラメリアに入ってから調べればいいか。
ブタ婦人にお世話になりましたとお礼を言って屋敷を出た。
「なんかポンタが居なくなるとか実感が湧かねぇな」
ネロが腕を頭に組みながら帰り道にそう言う。
「俺もだよ」
嫁探ししなくてもこのままここで暮らしていても良いんじゃないかと頭の中では思う。が、嫁を探さねばという気持ちは前世の記憶がそうさせるのか、獣人になった本能なのかはわからない。
「ポンタ」
「何、ジャガー」
「私をラメリアに招こうとして貴族に借りを作るのではないぞ」
「うん。貴族の力を借りるかもしれないけど借りは作らないような方法を考えてからにするよ」
「借りを作らない?」
「そう。交渉ってやつだね。ヒョウ族の土地を貰ったようなやり方だよ」
「うむ、ポンタならばそれも可能かもしれん。但し無茶はするのではないぞ」
「うん」
集落に戻ったポンタはまたせっせと開拓を続けて行くのであった。
数日後にまた主任がやってきた。
「なんかあった?」
「パンを美味しくする粉を売って欲しいとハンプシャー家から連絡がありまして、それとローソン家からも来て欲しいと」
「粉は了解。ポルクさんとこは何かな?」
「ポーションの件のようです。ハンプシャーの奥様から連絡が入ったんじゃないですか?」
あのケフンケフンしていたやつか。
招かれた日は明後日なのでとりあえず今日中に重曹とクエン酸を仕入れないとダメだから街に行こう。
ウサギ族に片栗粉をたくさん作っておいてとお願いしてから主任とギルドに向かった。
「お前、ハンプシャー家にポーションを作れる事を話したみたいだな」
いきなりギルマスのお説教だ。
「まぁ、成り行きで」
「近々ズーランダを出るからいいようなものの、黙っとけと言っただろうが」
「ごめんなさい」
「で、ローソン家で作るのか?」
「内容がよくわからないんだけど、ポーション関係の認可の話かもしれない」
「十中八九そうだろうな。まぁ、咎められる事はないだろうが怒られたらちゃんと謝っとけよ」
「うん」
「で、今から何を買いに行くんだ?」
「パンを美味しく焼くための材料。ハンプシャー家から売ってくれと言われたから材料を仕入れないとダメなんだよ」
「ジャガー達はどうした?」
「子供達の狩りの特訓」
「しょうがねぇな。お前一人じゃ危ないだろうが。俺が付いてってやる」
また俺を出しにしてサボるのか。
「弱っちいやつはこれだからよー。しょうがねぇなぁ」
と皆に聞こえるように大声で口に出して付いてきた。
(ギルマスってポンタさんに負けてお酒を奢らされてましたよね?)
(しっ、それは言わない約束でしょ。機嫌が悪くなったギルマスがここに居るのと、サボって外に行くのとどっちがいいのよ)
(居ない方がいい)
(でしょ?だからそういうことにしとくの)
ポンタがギルドを出た後に受付嬢達がヒソヒソ話をしているのであった。
「ポーション屋?パンを焼くのに薬を使うのか?」
「まぁ、薬っちゃ薬かもね。ギルマスは辛いのも好きだろ?アレの元になる唐辛子もここで売ってるんだよ」
「へぇっ、そうだったのか」
重曹とクエン酸、唐辛子や他の香辛料も大量に買っておく。香辛料の類は安いのはズーランダ産で高いのはすべてラメリアから輸入されたものだ。重曹とクエン酸も。ラメリアに行けば安価で入手できるかもしれん。
「これはどう使うんだ?」
「制作方法は秘密事項だろ?」
「かてぇこと言うなよ。単なる興味本位だ」
「混ぜて液体に入れると炭酸ガスというのが出るんだよ。それがパンを膨らませて軽い仕上がりに焼けるんだ」
「ほう、やっているところを見せてくれよ」
なんだ、興味本位って飯を食いに来る口実か。
案の定、集落に着いてウサギ族に重曹とクエン酸を渡してもギルマスは見に来ようともせずに長と飲み始めやがった。
ウザギ族が片栗粉をたくさん作ってくれてあったので晩飯はオークの酢豚風ピリ辛ケチャップ餡掛けにした。
俺の隣でご機嫌に飲んで食ってするギルマス。
スンスン
「ギルマス、ちゃんと身体拭くか風呂にはいってる?」
「当たり前だろ。ウチの職員は女が多いから小五月蠅ぇんだ」
でもなんか臭いぞ。この臭いは耳からか?
「耳もちゃんと拭いてる?」
「ああ、こうやってな」
小指を耳の中に突っ込んでかっぽじるギルマス。そんなもんで綺麗になるわけがなかろう。
ポンタは布に薄めた重曹水を付けてギルマスの耳の中をちょっと拭いてみる。
「汚っねーっ、真っ黒になるじゃんかよっ」
「うるせえなぁ。皆そんなもんだろうが」
「いーや、俺はちゃんと綺麗にしてるからね」
「うむ、ポンタは髪の手入れも毎日しているし、水浴びもする。ここにいる誰よりも綺麗好きだな」
俺の髪はブラッシングをちゃんとしないと毛玉だらけになるからな。温暖なズーランダで過ごすうちにアンダーコートの毛は少なくなっているけど。
とりあえずギルマスの耳が臭いので布を渡しても拭こうとしないのでゴシゴシしてみる。
「ギルマスはデカいからやりにくいんだよ。ちょっと寝転べ」
「こうか?」
ゴロンと俺の膝枕に寝やがった。布をずらしながら黒くならなくなるまで拭いていく。
「これは気持ちいいぜ」
ハッ…
俺は膝枕耳かきを願ったことがある。が、俺が望んだのはこっちではない。されたいのであってしたいわけではないのだ。
なぜいつも願い事が違う方向で叶うのだ?するならするでせめて女の子であって欲しかった。どうしてこんなゴツいクマにしてやらにゃならんのだ?
「はい終り。綺麗になったからこれからは月イチぐらいで自分でやれよ」
「もう終わりか。お前、耳掃除屋をやれよ。流行るぞきっと」
「嫌だ」
飯が終わってギルマスはご機嫌で帰って行った。
「ポンタ、私が耳を拭いてやろうか?」
ジャガーがしてくれるのか。それは嬉しい。初めてまともに願い事が叶う。
イソイソとジャガーに膝枕をしてもらと高さが合わない。ちっこい俺に対してジャガーの太ももは筋肉質でごついのだ。頭がちゃんと膝に乗らずに首が90度に折れ曲がる。
膝枕は諦めて座って拭いて貰うことに。
ガリっ
「痛ったぁぁぁっ」
「す、スマン」
ジャガーは猫みたいに爪を引っ込めてくれてはいたが鋭い先が布を突き破ってポンタの耳をガリっとしたのであった。
「ありがとう、気持ちだけ貰っておくね」
ジャガーはガックリしたので代わりにポンタがジャガーの耳を拭いてあげる。
うん、そこそこ汚れていたねと言ったら拗ねられたのであった。




