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「教官っ。私が魔獣を生け捕りにしました」


「私じゃねぇ。私達だろうが。何手柄を独り占めしようと思ってんだよ」


「何よ、捕まえたのは私じゃない」


「うるせえっ。パーティで動いてんだから俺達の成果だ」


なんか少年少女がぎゃーぎゃー言い合っているが何を揉めているのだろうかと思っていると大人の怖そうな女の人にひょいと渡された。


「こいつはなんだ?」


「昨日俺たちが捕まえた魔獣の子供です。成績に加算されますよね?」


「魔獣?貴様ら何を学んで来たのだっ。魔獣と獣の違いも分からんのか?魔獣の目はいくつある?」


「あっ…」


「座学で魔獣の目は一つ、もしくは3つ以上だと教えただろうが」


「申し訳ありません…」


「お前たちの成績に加算されるのは魔獣か魔物だ。獣を狩りたければ狩人になれっ」


なんかこいつらは怒られてんな。怒鳴られてえらくシュンとしてやがる。


「まぁいい。こいつはもう不要だな?」


「はい…」


「では訓練に使おう。獣なら大きな反撃を食らうこともないからな」



教官は広場の真ん中に俺を離した。ここで休んでおけということか?



「今日の授業は模擬実戦だ。この獣を的にして攻撃を行え。まずは武器を使うものがやれ」


なんか少年少女がたくさんいるけど剣とか槍とか弓とか持ってるな。あっちにいる子達は杖持ちか。これがゲームとかなら攻撃されるんだろうな。的は俺だったりして、ハハハハ。


悟は嫌な予感がする。少年少女達が殺気立っているのだ。


まさかこんな愛らしい仔犬のポメラニアンに攻撃してくるとかないよね?


「始めっ」


「うぉぉぉっ」


嘘だろっ。こいつらマジだ。


悟は逃げた。遅い足でチョコチョコと必死に。


「キャウッ キャウッ」


「待てっ、ちょこまか逃げんなっ」


「何を仔獣に手間取っているのだ。さっさとやらんか。魔法攻撃も始めっ。仲間を巻き込むなよっ」


ぼひゅっ、ぼひゅっと火の弾や水の弾が飛んでくる。


イヤーーーっ


必死で逃げる悟。槍持ちの背後に慌てて隠れると火の弾を喰らいやがった。ザマァみろだ。次は弓持ちとか接近戦が苦手な奴の背後に隠れて火や水攻撃の盾としていく。剣持ちはヤバい。


「こいつすばしっこいぞ」


次は杖持ちの所に行く。こいつら密集してやがるから武器使いの盾になって貰おうか。


「キャーーっ こっちに来ないでよっ」


うるさい。こっちは命が掛かってんだ。同士討ちしやがれっ。


武器持ちと杖持ちが集団になって身動きが取れなくなってきた。作戦成功だ。しかしこちらの体力ももう限界だ。


ハァっ ハァっ ハァっ


「こいつっ」


ゲスっ


一息付いた所を狙われて蹴り上げられた。


ゴフッ ゴフッ


血を吐く悟。ポメラニアンは丈夫な犬ではない。少年の蹴りでさえ致命傷だ。


死ぬほど痛ぇぇ。というかもう死ぬなこれ。転生したのにすぐに死亡とか有りかよ全く…。ケモミミ娘の彼女とか出来たら良かったのにな。


剣を構えた少年達に囲まれもう痛くて動けない悟は逃げるのを諦めた。


「死ねっ」


「待てっ」


剣を振り下ろそうとした少年を教官が止めた。


「サリ、そいつに治癒魔法を掛けろ」


「は、はいっ」


意識を手放しかけた悟に銀髪少女が近付いてきてぶつぶつと何かを唱え始めた。


なんだこれは?なんか温かいような気がするけど…


悟はそのまま意識を手放したのであった。



「サリ、貴様が治癒出来なければそのまま死ぬぞ」


「やってますっ」


悟を捕まえた銀髪少女は結局悟をほとんど治癒出来ずに終わり、他の治癒士を目指す者達が交代で悟を治癒し、仕上げは治癒魔法担当教官が行ったのであった。


「今日の授業はここまで。サリ、こいつをまた明日も連れて来い」


「はい…」




あれここは?俺は殺されたんじゃなかったのか?


目を覚ました悟。


「あ、起きた。あんたすばしっこかったわね」


銀髪少女が何やら話し掛けて来た。殺されるかと思った悟はビクッとしてベッドの下に隠れて用意されたご飯も食べずに隠れ続けたのであった。


翌日も掴まれて昨日の広場に連れて行かれる。きっと昨日と同じ事をさせられるのだろう。あの怪我からどうやって助かったかは解らないがもうどこも痛くはない。


怖そうな女性に広場の真ん中に降ろされてそいつが離れた隙を狙ってダッシュ。この場から急いで逃げるのだ。


「ほら逃げたぞ追え」


「うぉぉぉっ」


当然のごとく追ってくる少年少女。昨日は囲まれてからだったけど今日は違う。逃げるのはこの施設の外だ。


「町に逃げるぞっ」


悟は走った。力のある限り。


「待てぇぇえっ」


施設の門の下の隙間から外に出る。よし、ここからは何処かに隠れてやり過ごそう。


町の中の建物の前にちょうどよい箱を発見。そこに隠れろ俺っ。


悟は箱の中に飛び込んだ。


「ウウウッ ウワンッ ガルルルルっ」


ゲッ、これ犬小屋じゃねーかよっ。


「待て、話せば分かる。お前の縄張りをどうにかしようって訳じゃないんだよ」


「ワンッ」


ダメだ。犬とも話せない。噛まれそうになった悟は一目散に逃げ出した。幸いにも犬は鎖で繋がれていたので犬からは逃げられた。


「キャーーーっ 魔獣よっ」


道路に飛び出すと町の人達からキャーっと叫ばれ、その声を聞いた男連中が包丁やら棒やら持って飛び出して来た。


おいおいおい、あいつらだけでなく他の奴らもかよ。


「居たぞっ。こっちだ」


ゲっ、奴らも見付かった。ダッシュだダッシュ!


男連中、少年少女の集団から逃げる悟。ダメだ、もう走れん…


走るのに限界が来た悟は物陰に隠れたがすぐに見付かった。もう終わりだ。


目の前にいるのはゴツい青年。腰にぶら下げているのは剣だろうか?かなり大きな剣だ。殺るならそれで苦しまずに殺ってくれ。


大きな手を伸ばされビクッと首をすっこめるとひょいと掴まれた。


「こいつは魔獣じゃねーぞ」


「あんちゃん、ほんとかよ?」


「あぁ、マジだ。こいつの目は2つだからな。獣の類だ」


「なんでぇ、誰かが魔獣だと叫びやがったもんでよ。で、そいつはなんの獣だ?」


「なんだろうな?俺も初めて見るわ。タヌキでもねぇし、犬かこれ?」


「犬?熊の子供とかじゃねぇだろうな?魔獣でなくても熊の子なら今の内に殺っておいたほうがいいんじゃねぇのか?」


悟はゴツい青年に掴まれて顔の前でブラブラされている。なんの会話をされているかわからんがこいつからは殺気を感じられない。ひとまず助かったのか?


「熊の子みたいにも見えるが足が違う。やっぱ犬じゃねぇかな?」


「そんな犬がいるのかよ?」


「どうだろうな?新種かもしれんな」


「あ、あのすいません。そいつは俺たちの獲物なんです。訓練中に逃げられちゃって」


「お前ら訓練校の生徒か?獲物ってどういうこった?」


少年少女達はゴツい青年に模擬実戦を行っているときに逃げられたと説明をした。


「はぁーっ、こんな仔犬相手に訓練とかなにやってんだ。今の教官は誰だ?」


「アマンダ教官です」


「そうかアマンダか…、あいつならやりかねんな」


なんか少年少女達と話をした青年は悟を掴んだまま一緒に行動を始めた。これ、あの施設に連れ戻らされるんだろうな。


無駄だとわかってはいるがジタバタと暴れてみた。


「あれだけ追われてたのに元気だなお前」


何かを言われた。暴れんなとかだろうか?


ベッと投げられただけでも死にそうなので大人しくしておくことに。隙は必ずあるはずだ。


掴まれたまま腹とかをウリウリされる悟。何をされるかと思って気が気ではないので固まる。


「こいつ、反応しねぇな。怒りも喜びもしねぇぞ?」


「あの、あなたはどなたですか?教官とお知り合いのようですけど」


「俺はA級冒険者のランガスだ。アマンダとは元パーティメンバーって奴だ」


「えっ?教官とですか」


「俺は他の街に行ったからお前らが知らんのは当然だな」


悟はブラブラされたまま的にされた施設まで帰ってきてしまった。



「ランガスか、久しいな」


「アマンダ、お前こんなちっこい犬を訓練の的にすんなよ」


「それは犬か?」


「多分な」


「生徒が拾って来て要らぬと言ったのでな」


「やるなら魔獣か魔物でやれよ。こんな仔犬だと訓練にもならんだろうが」


「そうか?そやつはなかなかにやりおるぞ。昨日は生徒達のほうが被害が大きかったのだぞ」 


「こいつ攻撃してくんのか?」


「いや、逃げるだけだ。しかし相手の不得手な所を的確に把握して逃げ回って同士討ちを誘ったのだ。最後は疲れた所を蹴り飛ばされて死にかけたがな」


「たまたまじゃねーのか?」


「いや、攻撃されるまで様子を見てから行動を始めたぞ。今日は私が離れたのを確認してから学校から迷わずに飛び出して行ったからな。そうして固まって様子を把握しているのだろう」


「まじかよ?お前賢いな。俺が他の魔物か魔獣を捕まえてくるからこいつを俺にくれよ」


「それはサリに聞け」


「サリとはどいつだ?」


「わ、私です」


「こいつを俺にくれよ。金は払ってやるから」


「で、でも…」


「1万でいいか?」


「1万Gもくれるんですか?」


「なら商談成立だな。ほらよ」


悟は1万Gで青年に売られたのであった。


「ランガス、商談成立はいいが代わりの魔獣か魔物を捕まえて寄越せよ」


「ゴブリンかコボルトあたりでいいか?」


「構わん」


「なら明日にでも捕まえてくるわ。なんか報酬出せよ」


「馬鹿者。学校にそんな余裕があるか。そいつを買う交渉権が報酬だ」


「お前はいつまでも変わらんな」


「お前こそな」


何の会話をされているか判らないまま悟は青年に連れて行かれるのであった。


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