ヒョウ族と狩り
「この集落の長をしておるピューマじゃ」
またややこしい名前を……
奥に鎮座していた集落の長は獣度はジャガーと同じくらい。顔に大きな傷が入った片目の強面だった。
「ポンタです。犬族のポメラニアンで男です」
女だと勘違いされる前に先に男だと言っておこう。
「ウヌはまだ子供か?」
「一応、成人してますよ」
「長、ポンタは私の命を救ってくれた恩人です。しばらくこの集落に滞在することを許可願いたい」
「詳細は後から聞くが他種族が滞在か…… まさか不埒な事を考えてはおらんだろうな?」
「長、ポンタは戦闘力は皆無ですのでご安心を。それに私の寝込みを襲えないヘタレでもありますからな」
そう言ってはっはっはっと笑うジャカー。ジャガーの寝込みを襲えるようなやつがホイホイいるか。
「まぁよい。客人、よく参った。粗末な集落で良ければ気の済むまで滞在すれば良い」
そしてジャガーは奴隷として捕まったあとの話から俺がどうやって助けたか、そして奴隷商に狙われている話をしていった。
「そうか、貴重なポーション。しかも最上級の物を使ってまでジャガーを助けてくれたのか。先程の無礼な物言いをお詫び致す」
「いや気にしないで下さい。俺もジャガーに助けてもらってますので」
「そう言ってくれると助かる。今宵は皆で宴にしよう。ちょうど大イノシシと鹿を仕留めてあるからな」
イノシシと鹿か。どっちもいらん……
「ポンタ、お前はイノシシや鹿は食えるか?」
「ごめんジャガー、正直苦手。魔物肉なら大丈夫なんだけど獣肉は臭いがダメなんだよね。鶏肉は大丈夫なんだけど」
「鶏か… ならファングラビットとかは食えるか?」
「ここにもいるの?」
「少し奥に入ればな。ただ見付けられんかもしれん」
「ならおびき寄せるから狩ってくれる?」
「おびき寄せる?そんな事が出来るのか?」
「居ればワラワラと寄ってくると思う」
「まさかお前が囮になるのか?」
「囮じゃないけど囮みたいになるかもしれないから守ってね」
「ふむ、数が出てくるなら子供達にやらせてみるか。ファングラビットなら狩りの練習にもちょうどいいからな」
洞窟から出ると他のヒョウ族達も集まってきていた。皆デカくて怖い。あのゴツい腕と爪でシャッとやられただけで死ねるな俺。
子供たちはパンサー、レパード、チータという名前だ。もう種族が何かわからんな。2人が男でチータが女だった。3歩進んで2歩下がりそうだ。
「ジャガー、何を狩りに行くつもりだ?」
ジャガーには友好的な態度で話し掛けた後に俺をジロッと睨んだ黒っぽい毛の男。黒ヒョウだろうか?
「ネロ、今からファングラビットを狩りにいく。子供達の狩りの練習を兼ねてな」
「イノシシと鹿があると聞いていないのか?」
「長から聞いた。が、こいつがイノシシや鹿肉が苦手みたいでな。ファングラビットを狩りに行くのだ」
「こいつの為にワザワザか?」
「私の恩人だからな。嫌いな物を食べさせるわけにはいかん。さ、ポンタ行くぞ」
「チッ」
黒ヒョウに舌打ちされるポンタ。ネロと呼ばれた男の獣度はジャガーと同じくらいだ。もしかしたらジャガーの事を好きなのかもしれない。
「ネロ、貴様はなぜ付いてくる?」
「こいつ男なんだろ?お前に悪さしねぇか見張っておかないとな」
「あっはっはっは。聞いたかポンタ。お前が私に悪さをするかもしれんだとよ。すでに散々触られた後なのにな」
そう冗談めかして肩を組んでくる。
「なんだと貴様っ。ジャガーに恩を着せてイヤらしいことをしたのかっ」
「うん」
ちょっとからかいたくなってそう返事をしてみた。
「貴様ぁぁっ」
「ヒィィィィッ」
牙を向いた黒ヒョウが殺意を剥き出しにして襲い掛かってきた。
「やめろ。冗談に決まってるだろうが」
ムギュっ
ジャガーはネロからポンタ庇うように引き寄せ胸元にギュッとした。ちょうど顔に当たる感触が心地よい。役得役得♪
「こいつは私にポーションを塗っただけだ。本気にするやつがいるか」
「だ、だってよぉ」
ジャガーの胸の中でホクホクした顔をしているとネロに引っ剥がされた。
「お前は俺と歩け」
ヤキモチ焼きだなこいつ。
俺がジャガーの方に行かないように手を繋ぎやがった。そのまま手を握り潰すつもりじゃないだろうな?
「お、お前の手は柔らかいな」
何を赤くなっているんだネロ?
「ネロ、ポンタに発情するなよ。そいつは男だぞ。ちゃんと付いてる」
「なっ、何を言うんだよジャガー」
「何を今更、毎日私に見せていたではないか」
「なんだと貴様っ、ジャガーに何をしたんだっ」
ギリギリっ
「痛い痛い痛いっ。手が潰れるだろうが」
「あっ、すまん」
「ネロ、ポンタはか弱いんだ。ムチャをするな。どういうことか宴のときにでも見せて貰え」
見せてもらえって、なぜ人前でぶらぶらさせにゃならんのだ。
「なぁ、ポンタ。お前は子供か?」
寄ってきた子供達に聞かれる。
「成人はしてるぞ。種族的に小さいから子供に見えるかもしれんがな」
「へぇっ、こんな小さい種族がいるんだな」
「珍しいみたいだね。同種族と会ったことないわ」
「ん?同種族と会ったことがない?お前の親とかはどうした?」
「生まれてすぐぐらいの時に人族に拾われたんだよ。この前まで人族の国で一緒に暮らしてた。成人して嫁さんを探したいと言ったら人族の国では難しいって言われからその人族と別れてズーランダまで来たんだよ」
「なに?嫁探し?まさかそれでジャガーをっ」
ギリギリギリギリっ
「痛い痛い痛いっ」
「やめろネロ。私は種族が違うからポンタの子供を産んでやれんから無理なのだ」
「なっ…… こいつの子供だとっ」
ギリギリギリギリ
「痛いってば。ジャガーは美人で強くて優しくて素敵だけど俺には無理なのっ」
俺がそう叫ぶと真っ赤になるジャガー。
「お前そんな目でジャガーを見てやがるのか」
「当たり前だろ?それに嬉しそうに笑うと可愛いだろうが。お前もそう思ってんじゃないのか?」
ネロにそう言ってやると赤黒くなりやがった。
「てっ、てっ、テメーっ」
「ネロにーちゃん、なんで赤くなってるの?ジャガーおねーちゃんが美人なのは本当だよね?」
「うっ、うるさいっ」
おーおー、青春だねぇ。
ネロに何度も手をギリギリされながらファングラビットが出るという場所まできた。
「さて、どうやっておびき寄せるんだ?」
「あいつら揚げ物の匂いが好きなんだよ。呼び寄せるついでに唐揚げ作るから食いながら出て来るの待とうか」
「おっ、唐揚げを作ってくれんのか。あれは旨いよなぁ」
「ジャガーは唐揚げ好きだよね。もう鶏肉があまり残ってないから数は作れないけど」
移動の途中で食べていたのは全て作り置きをアイテムボックスから出したものだ。ジャガーの前で唐揚げを作るのは初めてだな。
鶏肉を切って塩で味付けしてから片栗粉をまぶしていく。ラードも残り少ないな。明日ジャガーに頼んで街まで買い物に連れて行ってもらおうか。
魔導コンロでラードを温めて鶏肉を揚げていく。
「ポンタ、まだか?」
「まだだよ」
「くぅぅぅっ、作っている最中の匂いもたまらんな」
ジャガーがジュルリとヨダレを垂らすと子供達とネロもすぐ近くまで来て食い入るように見ている。
「こうやって作るのか?」
「ネロ、揚げている最中にそんなに油に顔を近付けるな。弾けて油が飛ぶことがあるから危ない……」
バチっ
ジュッ
「あっづぅぅぅぅぅ」
油がハネて飛び、覗き込んだネロの鼻先を焼いた。
両手で鼻を押さえてうずくまるネロ。
「お前達もああなるから覗きこんじゃダメだぞ」
「う、うん」
子供達は魔導コンロから離れた。ネロはまだジタバタしている。獣人にとって鼻先のダメージは大きいのかもしれん。
「ネロ、こっちに来い。ポーションを塗ってやるから」
真っ赤になったネロの鼻先にポーションクリームを塗ってやる。
「ヒリヒリするの収まったろ?」
「これは何だ?」
「塗るポーションだよ」
「ネロ、私もコレを毎日ポンタに塗ってもらっていたのだ」
「ど、どこにだ?」
「それは秘密だ」
「ポンタ、きっさまぁぁぁっ」
ネロが大きな口を開けて襲い掛かってきたので揚げたての唐揚げを口の中に放り込んでやった。
「あっづぅぅぅぅぅ」
「何をやっておるのだ貴様は……」
口を押さえて転がりまわるネロを呆れたように見たジャガーはどんどん揚がってくる唐揚げをフーフーして子供達に渡していた。やっぱり優しいよなこいつ。
「きひゃまよくほやひやはっはな」
口を押さえて俺に凄んでくるネロ。何を言っているのかさっぱりわからん。
ん?スンスン
あ、来た。
「ほら、ファングラビットが来たぞ」
俺が言うまでもなく、ジャガーは子供達に指示してファングラビットが潜んでいるところを指をさして子供達に狩れと言っていた。
「がぉぉぉっ」
子供達は雄叫び上げてファングラビットに飛びかかって行った。ファングラビットは俺には飛び掛かって来たくせに子供達の雄叫びでザッと逃げていく。
「馬鹿者っ、吠える奴があるか。全部逃げたではないか」
ファングラビットはすばしっこい。雄叫びで危険を察知して逃げたのだ。
ジャガーは子供達に声を出さず気配を消して飛びかかれと教えている。
「ポンタ、すまん。逃げられた」
「またすぐに集まって来るから潜んでて」
そう言うと子供たちを連れて木に登った。出てきたら上から強襲するのだろう。
ネロも木の上に行こうとするのでムンズと尻尾を掴む。
「いてててててっ。何しやがるっ」
「お前はここにいろよ。俺がファングラビットに襲われたら誰が守ってくれるんだよ」
「はぁ?ファングラビットごときに襲われるやつなんかいるかっ」
「いるんだよここにっ」
お前らからしたらファングラビットごときだろうが俺は噛まれてんだよ。
ネロに呆れた顔をされつつ、鶏肉がなくなったのでハンバーグを揚げてみるポンタなのであった。




