社交会は出会い系パーティー
左手にケイト、右手にドラコをエスコートして会場内へ。貴族の社交会はだいたいの時間にバラバラと来てバラバラと帰るらしい。元の世界だと宴会は時間が決まっていたけどそうではないらしい。
ただし、暗黙のルールがあり身分の低い人は早めに来て、身分の高い人はあとから来るように皆が配慮するのだそうだ。
しかし、もうたくさん来ている。騎士団の馬車の迎えで来たから失礼にはなっていないと思うのだがどういうことだ?しかも圧倒的に女性比率が高いのも妙だ。これはやはりシルベルトの言う通り見合いを兼ねた社交会なんだろう。
「めっちゃ飯あんで」
ケイトが指を指したのはズラッと並んだ料理たち。パーティは立食ブィッフェスタイルのようだ。
「私はあの肉の塊からじゃな」
ドラコが飯を取りにいこうとするので止める。
「先に伯爵に挨拶をしてからだ」
「ようこそポンタ殿… それとケイト殿、ドラコ殿」
今の間はなぜ二人を連れて来た?という間だろうな。
「本日はお招き頂きありがとうございます。ウチの従業員がとても喜んでおりました」
と、ジャブを入れておく。すでに会場にいる女性陣は華やかなパーティドレス。ウチの二人は制服だから使用人に見えなくもないな。
「いえ、お忙しいのにお越し頂けて良かったですよ」
「自分達は庶民ですので作法とか知らないのでご迷惑をお掛けするかもしれません。良くない行為をしていれば教えて下さると助かります。あとこれは手土産です。あの家に保管されていたかなりの年代物のお酒なんですよ」
「かなりの年代物?」
「どれぐらい昔のかはわかりません。樽の酒は全て蒸発してしまってましたが瓶詰めされていたのは無事だったんです。1本飲んだらとても美味しいお酒でしたので今回の手土産にとお持ちしました」
「そのような貴重な物を申し訳ありません」
これで社交会に呼んでもらったことと貸し借りなしだ。本当に貴重な酒だからな。まぁ、精霊に頼めば同じ物が作れるのだけれども。
「では懇意にしている貴族に紹介致しますので」
全員揃って乾杯とかはないようだ。
何か目的のある公式のパーティならそういうのもあるみたいだけど、それは年始から各貴族が行っていたようで、この時期はラフなパーティだからしきたりとか気にせずに楽しんで下さいとのことだった。
それより女性陣の獲物を見るような目付きが気になるポンタ。
ロバートに何々貴族の誰々とか紹介されるけど覚えていられない。おっさんの顔は皆同じに見えるのだ。
未婚であろう女性陣は人族と犬族のみ。間違いなくこれは見合いだな。
犬族の女性はと…
ブルパグブルパグミブルパグ…
犬族の貴族はズーランダもそうだったけどブルやパグの比率が高い。あとはくるくるとした髪の毛のプードル。スタンダードプードルなのだろう、めっちゃデカい。あとは少しゴロンとした胴長なコーギー、小洒落た人はシェルティだろうか?
俺はマズルの短い犬が可愛くて好きだった。ブルやパグはマズルが短いというか違うカテゴリーだ。他の犬族はシュッとした顔立ちだから綺麗だとは思うけど好みではない。
人族はさすが貴族だけあって目鼻立ちパッチリの美人系や可愛い系が揃っている。しかしダメだ。香水の臭いが強くて近寄れない。犬族の女性は自分も苦手だろうから香水は付けてないみたいなんだけどな。
ロバートは後はお若い人同士でお楽しみ下さいとか仲人みたいなことを抜かして少し離れていった。おっさんの貴族たちからポーションとかの要望が入るかと思っていたら本当に挨拶と軽い雑談だけであっさりと引いた。
「まだ食べたらあかんの?」
「もういいよ。でもみっともないからがっつくなよ」
ケイトは魚のムニエルみたいな料理を取りに行き、ケイトはローストビーフの方へ行った。俺はシャンパンみたいなのがあるからあれをもらおう。
配膳しているメイドさんに声をかける。
「これもらっていい?」
「はい。かしこまりました」
このメイドさん可愛い。メイド服はパーティドレスよりいいよな。ケモミミポーションの制服もメイド服風にしたら良かった。
「これ美味しいね」
「そうなんですか?私達は飲んだ事がありませんので」
「ちょっと飲んでみる?」
「い、いえ叱られますので大丈夫です」
「お客さんに出すものの味を知らないと良くないと思うんだよね。これは美味しいかとか聞かれない?」
「何のお酒とかどのような味だとかは教えてもらってます」
「へぇ、でも飲めないと残念だね」
「使用人とはそういうものですので」
「メイドさんは庶民?」
「はい」
「俺もここに招いて貰ったけど庶民なんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。他の人達はみな貴族だから窮屈でね…」
ポンタはナンパをするがごとくメイドさんと話し続ける。この娘は香水臭くもないし、背丈もポンタよりかは高いが小柄でもある。はっきり言って好みなのだ。
話し続けることでメイドさんも少し気が緩んだのか笑って話すようになってきた。しかし、少し離れた所で獲物を狙うパーティドレスを着た女性陣が不機嫌そうだ。
「ゴホンっ」
その時にロッテンマイヤー風のメイドが近くを通り咳払いをしていった。
ビクぅっ
「も、申し訳ありません。他の配膳もございますので」
「あ、ごめん。仕事の邪魔をしちゃったね」
慌ててワゴンを押しながらロッテンマイヤー風メイドの所にいく可愛いいメイドさん。あ、裏の方へドナドナされて行ってしまった。見えない所でめっちゃ怒られるのかもしれない。悪いことをしちゃったな。
「初めましてポンタ様」
「はいこんにちは」
まず声を掛けて来たのはプードル女史。自分はどこどこ貴族の次女で自分の夫となる人は領地の一部を与えられるとかお家自慢と自分と結婚することのメリットを話しだした。
「あ、はい。旦那さんになられる方は幸せですね」
とても苦手なタイプだ。プードルが声を掛けた事をきっかけにわーっと集まってきて自己紹介の嵐となる。ダメだ香水酔いする…
何か逃げ出すきっかけを作らねば。
ふと見るとケイトが何個か目の魚を食い終わって皿を置いた瞬間を一人の男が声を掛けた。
「初めましてマドモワゼル」
「ウチはケイトや。マドモワゼルとちゃうで」
「ハッハッハ、これは新しい対応ですね。マドモワゼルとはお嬢さんという意味で及びいたしました。ケイトさんとおっしゃるのですね」
「そうやで」
「珍しい方言ですがどちらのご出身ですか?」
「知らん」
「え?」
「外国やと思うけど小さい頃にラメリアに来たからどこ出身か知らんねん。なんかウチに用あるん?」
「あ、いえ、その… 少し踊ってはいただけませんか?」
と、男はケイトの手を取った。
「変わった香水ですね?どこの香水ですか?」
「そんなん付けてへんで」
「麗しい手からトウモロコシのような甘いような香ばしいような香りが…、それにとても触り心地の良い手をされておられる」
「きしょいこと言いなや。手ぇ離してっ」
ケイトが少し大きな声で拒絶したのでポンタは女性陣にちょっと失礼と言ってケイトの所に行った。
「どうした?」
「こいつウチの手触ってトウモロコシみたいな匂いがするとか触り心地がええとか言いよんねん」
ケイトよ、それは肉球の匂いと触り心地だ。
俺もそうだがケイトも人の手ではあるが触り心地と匂いは肉球なのだ。
「えー、ごめんね。ウチの従業員に無闇に触らないでくれるかな?」
「これは失礼。従業員であれば問題はないのでは?パートナーであれば控えるが」
「ウチはあんたに触られたない」
「だそうです。従業員を守るのは雇い主の努め。ご理解下さいませ」
ケイトは俺の腕に手を回してベーっとしやがった。いらんことすな。
なんかドラコも言い寄られているから救出しておこう。あいつにゴウッとかされたら大事だ。
ケイトとドラコを側においておく。
それでも集まって来る女性陣。
「お連れの従業員の方は肌も髪も尻尾も美しくてうらやましいですわ」
少し嫌味の入った褒め言葉。
「そやろ。ポンタが色々と作ってるポーションで手入れしてるからな」
「色々なポーション?あの塗るポーションとかですの?」
「そやで。市販品は初級の効能。うちらが使こてるのは非売品の特級ムググググっ」
余計な事を言い掛けたケイトの口を押える。
「塗る特級ポーション?なんですのそれ?」
もう、余計な事を言いやがって。
「それはなんですのっ」
あー、時すでにお寿司。それは何だと聞いて来たのをドラコがべらべらと自慢げに話しやがった。
「お主らでも買えぬようなものじゃが我らは湯水のごとく使えるのじゃ」
「ポンタ様と結婚すればそのような生活が送れるのですねっ」
そこからはもみくちゃ状態。ぜひ私と私と私と…
「ポンタ、こやつらは何を言うておるのじゃ?」
「お前達が余計な事を言うからみな俺と結婚しろと言ってるんだよ」
「私がいるのにか?」
「そうだ」
「ポンタは私に惚れる前に他の女と結婚するつもりかーーっ。私の努力をなんじゃと思うておるのじゃっ」
「お前なんにも努力してないだろうが」
「しとるわーっ。他のおなごに取られるくらいならいっそのことお前を食うて卵を産んでやるのじゃっ」
ガジガジガジガジ
そう言ったドラコは首筋をガジガジしてきやがった。まぁ、本気で噛まれたら俺の首はあっさりと食いちぎられるだろう。これは甘噛みだ。
「やめろっ。ヨダレでトカゲ臭くなる」
「臭くなどないわーーっ。私のどこが臭いのかよく嗅いでみよっ」
ドラコの胸にむぎゅーと顔を押し付けられる。
死ぬっ死ぬっ。胸で鼻と口を胸で塞がれてタップするポンタ。
「アッハッハッハ、流石はポンタ殿、よくおモテになられる」
ドラコに胸を押し付けられ、他の女性陣に一人だけ抜け駆けをしてとか言われてもみくちゃにされているところに誰かがやって来た。
「ブハッ 死ぬわっ」
「臭くなどなかったじゃろうが」
確かにもう臭くはない。というか本当にトカゲ臭かったのは出会った時だけなのだ。
「俺の中ではもうお前はトカゲ臭いとインプットされてるんだ」
「そんな情報はデリートするのじゃーーっ」
よくそんな言葉を知っていたなお前。
ポンタは近付いて来た男の存在にまだ気付いていなかったのだった。




