ポンタの天職
ポメラニアンに戻れっ
そう念じたポンタはポメラニアンに戻ってランガスの腕の中からスルッと逃げ出した。
「あれっ?」
いきなり腕の中から天使と思った可愛い娘がいなくなったランガスはキョトン顔だ。
ヤバかった。今のは本当にヤバかった。
「腕の中に残る感触…、今のは夢じゃねーよな?」
ぶつぶつと独り言を言うランガス。
グルルルと身体を伏せてランガス威嚇するポンタ。
「ポンタ、今ここに天使みたいな可愛い娘がいたよな?」
ポンタはもう一度人化する。
「ランガス、今のは俺だ。ポンタだよ」
「う、嘘だろ…、ポンタが天使だったなんて…」
「ちっがーうっ!男だ俺は。ほら付いてんだろうがっ」
クソっ、何が悲しくて全裸でランガスにブラブラさせて見せにゃならんのだ。
「つ、ついてる…。天使は両性だと聞いた事があるが…」
「両性じゃねーっ、俺は男だ。犬の時もオスだったろうがっ。それとも何か?お前はそっちの人だったのか?そのことを否定するつもりはないが俺は女の人が好きなんだっ」
「お、俺もだ…」
「ならいきなり襲ってくんなっ。マジでやられるかと思ったんだぞっ」
ポンタはベッドからシーツを剥ぎ取り身体に巻いて隠す。
「お、お前犬じゃなかったのかよ…?」
「もう成犬というか成人したから人化出来るようになったんだよっ。それに女の子だとしてもいきなり襲う奴があるかっ。このケダモノめっ」
「す、スマン…つい」
何がついだ。
ランガスは部屋の明かりを明るくした。
「お前、獣人だったのか」
「獣人?」
「そうだ。人族からは亜人と呼ばれる」
ランガスの説明によると、大きく分けて人族と獣人族に別れ、人族にはドワーフ、エルフ等がいて、獣人族は種族がたくさん分かれるらしい。俺はその中で犬族になるとのこと。
「獣人って子供の時から獣人じゃなかったのか?」
「俺は特別なんだよ」
「お前いくつだ?」
「年齢で言えば1歳になったところだけど犬の1歳は人間の15歳くらいに相当するからな。もう15歳くらいだ」
「1年で成人するのか…」
「そう。だから明日からランガスと一緒に冒険者をして稼ぐよ」
「犬のままじゃダメなのか?」
「俺は彼女、そしてそのまま進展してお嫁さんが欲しいから人化のままでやるぞ」
「そうか… なら俺と同じパーティは無理だな」
ん?
「どうして?」
「お前が冒険者ギルドに登録したら一番下のEランクから始まる。俺はAランクだからお前が最低限Cランクにならないとパーティを組めん」
どうやらランク差があるとパーティメンバーになれないらしい。高ランクが低ランクを奴隷のように扱ったり、低ランクが高ランクの功績で分不相応にランクが上がるのを防ぐ為らしい。
「ということは?」
「お前が取る道は2つ、犬のまま俺と一緒にやるか、獣人になって一人で頑張るかだ。好きな方を選べ」
食いっぱぐれなく比較的安全に暮らすなら犬のままランガスと行動を共にするのが正解だけど俺はモテて彼女…いやお嫁さんを見付けたいのだ。犬の一生は短いから犬のままのほほんと暮らしていたらすぐに爺になってしまう。
「ランガス、多分俺の人生は短い。嫁探しをしないとすぐに爺さんになってしまう」
「そうか… ならお別れってこったな」
そう言われると寂しいな。
「俺がCに上がるまで待っててくれればいいじゃんかよ?」
「あのなぁ、冒険者になるやつは山程いるがCまで上がれる奴がどれだけいると思ってんだ?3割もいねーんだぞ」
マジで?
「それにお前、戦闘能力はあるのか?」
なんかスキルにファングアタックとかあるけどどれぐらい強いかわからん。剣も持ったことすらないし、魔法も使えないから戦闘能力があるとは思えない。
「多分無いと思う」
「だろ?」
「薬草採取とかでランク上がんないの?」
「上がらんことは無いがそれだけでCまで上がった奴は聞いたことがない。それに採取しているときに魔物が出たらどうすんだよ?」
確かに。今まではランガスが近くにいたからなんの心配もしてなかったけど、別れたらそれもなくなるんだな。
「お前は他の仕事をした方がいいぞ」
「何が出来るかな?」
「明日教会で天職が何か調べて貰え。天職が分かればそれにあった仕事をすりゃいい」
「なにそれ?」
「人はそれぞれ天職というものを授かる。ちなみに俺は上位剣士だ。大半の奴は庶民になる」
「庶民?」
「そう。庶民はどの職業にでもなれるがそれなりに終わる。専門の天職を授かった奴はその道に進むと大成する。冒険者は剣士、剣闘士、魔導士とか戦闘に向いた奴が高ランクになることが多い。庶民でも血の滲むような努力をして上がってくるやつもいるがな」
「他は何があるの?」
「鍛冶、薬士、商売人とかだな。神官とかもある。他は貴族や王族。これは生まれに関係するから気にするな」
「へぇ。魔法使いってないの?」
「あるぞ。魔法使いの上が魔導士だ。天職を研鑽していくと稀にクラスアップと呼ばれるものが発生する。俺は剣士から上位剣士になった」
上位剣士の上は剣神とかになるそうだ。ランガスはそれを目指しているらしい。
「俺はなんだろうね?」
ポイント参照ウィンドウには天職は表示されていない。
「さぁな。それは教会で見てもらうしかねぇぞ」
まさか小市民とかじゃないだろうな?身体小さいし。
「それに明日教会に行く前に服を買わにゃならんな」
「お金持ってないぞ」
「服ぐらい買ってやる。というか今まで一緒にこなした依頼の金をお前にやる」
「いいの?」
「犬じゃないなら報酬はちゃんと分けねぇとな。何がいくらか覚えてねぇから適当だぞ」
「別にいいよ。世話になってたのはこっちだから」
ということで明日は服を買ってから教会にいくことになった。
服屋に行くまではポメラニアンの姿でランガスのカバンの中に入っておく。素っ裸で歩く訳にもいかんからな。
「親父、これぐらいの子の服はあるか?」
「お客さん、本人連れて来なよ」
「プレゼントってやつだから秘密なんだよ」
「そうかい。ならこの辺から見てくれ」
ランガスは手で大体の身長を示すと服屋の親父はそのサイズの場所で自分で探せと言った。
「替えも必要だから3セットぐらい必要だがとりあえず一つ試しに買ってから追加を買うか」
「キャウ」
うんという返事を鳴き声でしておいた。
まだ寒い時期なので厚手の服と上着、下着や靴を適当に選んでお会計。全部で6万G超え。服って高いんだな。
建物の陰で人化して着替える。靴は少々大きいが服はだいたいぴったりだ。ぴったりなんだけど…
「ランガス、これ女物じゃないのか?」
「かっ、可愛いぞ」
何赤くなってんだよ。
「男物買ってくれよ。こんなのまんま女の娘じゃねーかよ」
「サイズがそれしかなかったんだよっ。それとも子供服でも買いに行くか?」
さっきの店は大人用の服しか置いてないらしく子供用の服は別の店だそうだ。試しに見に連れて行ってもらうと中古服できちゃない。
「新品の服はないの?」
「子供服の新品はあつらえになるから高ぇんだよ。すぐにサイズが変わる子供服をあつらえで作るのは金持ちだけだ」
「ランガスは金持ちだろ?」
「お前、防具でもない服に20万Gとか払う価値あると思うか?」
「ない…」
「だろ?スカートじゃねぇんだから我慢しろ」
確かにスカートじゃないけど、袖がちょっと広がってフリフリ付いてんだよなこれ。なんの為のフリフリだよ?
今着ている服は上着の袖丈が少し短めになっていてフリフリを出すようになっている。胸元のスカーフもリボンチックだし。ズボンは丈が少し短くショートブーツに合わせるような感じだ。
今はランガスに払ってもらってるからこれ以上ワガママ言えんな。
仕方がなく女の子ちっくな服でランガスと歩く。獣人が珍しいのかジロジロ見られてんな。
「ランガス、獣人は珍しいのか?」
「まぁ、この国じゃ珍しいっていうか扱いは低いな」
「差別されてるってこと?」
「その辺は後でちゃんと教えてやる。教会でなんか嫌な事を言われても我慢しろよ」
そういや獣人は亜人とか呼ばれてるんだったな。人族から見たら人間として見てないのかもしれないな。
「すいません、こいつの天職を見て貰いてぇんだが」
「ようこそ神聖なる教会へ…。おや、この娘は亜人ですな」
「そうだ。そんなこたぁどうでもいいから見てやってくれ」
ランガスがそう言うとニコリともしない神官。
ランガスは袋から銀貨を出した。
「心ばかりですが教会に寄付します」
「お気遣いありがとうございます。ではこちらへ」
銀貨って1万Gだっけか。無料で見てくれるわけじゃないんだな。
案内された場所には水晶みたいな物があり、そこに手を乗せるらしい。
「偉大なる神よ、この迷える亜人が進むべき道をお教え下さい」
神官がそう言うと何かが水晶に映し出されるようだ。
「ん?年齢が1歳ですと?」
「こいつは特別な獣人だ。既に成人している」
「そ、そうですか…。天職は…………… んーーー?」
神官は分厚い本を出してきてペラペラとめくって調べていく。
「何やら見たことのない文字が映りましたがこれは一体…」
見たことのない文字?
ん?と自分で見てみると日本語表記だった。
なんだよこの天職…
「どうやら年齢が足りていないのか亜人だからか天職は不明ですな」
「なんだと?ちゃんと相場よりたくさん寄付しただろうが。ちゃんと見てやってくれよ」
「妙な言いがかりは不敬ですぞ」
「ランガス、もういいよ。出よう」
「でもよう」
「いいから。早く行こう」
ポンタはランガスの腕を掴んで教会の外に出た。
「ちっ、神官の野郎、ポンタが獣人だからっていい加減な事をしやがって」
「いや、本当にわからなかったんだと思うよ」
「何?」
「ちゃんと天職が記されてたけど難しい字だったから読めなかっただけだよ」
「お前読めたのか?」
「犬族の字みたいな感じかな」
感じというより漢字だ。
「ならお前は読めたのか?」
「まぁね」
「で、天職はなんだったんだよ?」
「パターン青です」
「なんだそれ?」
「なんだろうね…」
ポンタの天職として記されてたのは【使徒】であった。




