第96話 氷上を渡った後。
凍った海の上。
俺とソフィアは、配下の部隊1万3千を連れて氷上を渡っていた。
残る皆には、元の場所で敵を牽制してもらおうとしていたが。
「ユーリ王。私の伝令から連絡を受けた。ガーレは接近戦を避けて要塞に向けて逃げ出したみたい。」
「これ以上離れると、俺の魔法の効果が切れてしまうけど・・・敵がこっち狙いならそれも大丈夫だな。もう敵は飛び道具を使い果たしたから、残してきた部隊が敵から遠距離攻撃されることも無いだろう。」
海を渡らずに残っている部隊は、ミーリャさんに指揮を任せて来た。
と言っても、『期を見て攻撃する構えだけを見せるように』としか指示を出していないが。
それにしても。
「吹雪で前が全く見えないぞ。一体ここはどこなんだ?」
「大丈夫。ここはさっきのヨハネス村から海を挟んだ対岸、カルピリア村。ここであってる。」
ソフィアが即座に答える。
―流石は地元民。
「そうなのか。・・・とは言え、これだけ視界が無いと、下手に身動きが取れないな。」
「この嵐はガーレの魔法。いずれはその魔力も尽きるはず。」
「そうだな。今日はひとまずここで休息にしよう。」
対岸からは案外かなり距離があったようで、流石に兵士にも疲れが見えている。
俺は丁度良い頃合いだと判断して、そのカルピリアと言う村を野営地に定めた。
夜。カルピリア村。
俺が外で遠くを見つめていると、ソフィアが話しかけてきた。
「眠れない?」
「向こう岸のサーシャ達、寒さは大丈夫かと思ってさ。大丈夫だとはわかってはいるんだけど・・・今頃は魔法の効果も切れているだろうし。」
「ユーリ王は優しい。・・・でも大丈夫、今はもう冬の終わりだから。ガーレの魔法さえ無ければ、暖を取って難なく過ごせる。」
―そうだな。
王都を旅立って。
サーシャと出会って。
―もうすぐ2年・・・か。
―この戦いが終わったら、ようやく皆を休ませられるな。
「よし、あと一息だ。気合を入れ直すぞ。」
「うん。」
俺は改めて、拳に力を込めた。
朝。カルピリア村。
相変わらず吹雪いて視界が効かない中。
俺はヴィプリィ城塞があると思われる方向を見据えていた。
―天気が晴れ次第、城塞に向けて出発だな。
思っていた時だった。
ザックザックザック・・・
―誰かが・・・歩いてくる?
重苦しい足音が、近寄ってくるのがわかる。
「誰だ!」
俺は足音に向かって呼びかける。
「なっ・・・!・・・貴様こそ誰だ!?無礼であろう!名を名乗れ!成敗してくれるわ!」
―敵!?
貴族らしき敵が一人で歩いて来て。
「うらぁ・・・!」
問答無用とばかり斬りかかって来た。
「・・・っ!」
『攻撃力上昇!』
『防御力上昇!』
杖を抜き、とっさに魔法を唱えて応戦する。
―かなりごつい鎧・・・!
「そこそこの身分の貴族とお見受けするが・・・従者はどうした?まさか独りじゃないだろう!」
「僕・・・?下賤な奴らがどうなろうかなど、私の知ったことでは無い!いくらでも変わりは生えて来よう!」
「・・・!従者を見捨てて、主が一人で逃げ出してきたと言うのか!?」
「家来たる者、主の身代わりになるのが当然ではないか!何が悪いと言うのだ!」
「貴族の風上にも置けない奴め・・・!」
剣と杖を交えながら、何度も何度も斬り返し。
―今だ!
隙を見つけて、一気に勢いをつけ。
「しまっ」
「うおおおおおおおおおおお!」
鈍い音と共に。
その貴族は倒れた。
辺りに、静けさが戻った。
―この貴族は・・ひとまず、この場に埋めて・・・戦が終わり次第、シヴェチア側に引き渡すことにしよう。
判別が出来るように、兜だけを脱がせ。
その貴族の遺体を、雪で塚を作って埋葬した。
いつの間にか、雪が止んでいた。
「ユーリ王。先ほど騒がしい音がしたが・・・」
「ああ、なんか敵の貴族が一人で逃げ出してきたから、討ち取った。」
「ユーリ王・・・無事でよかった。」
温かい目で見てくれるソフィアに、俺は告げる。
「・・・さて、ガーレはヴィプリィ城塞に籠もっているんだろう。これからが本番だな。
退路も補給も絶った。後は力尽きて降参するしかない。・・・.あと一月といった所だな。」
「もうすぐ、ユーリ王の勝利。」
油断は大敵だが、流石にもう否定する材料は無い。
「シヴェチアの戦意はもう低いだろう。何しろ、すでに貴族が逃げ出し始めているからな。」
―後ひと踏ん張りだな。
「・・・ところで、あの貴族は一体どこの誰だ?ソフィアは分かるか?」
言いながら、今朝方討ち取った貴族から、判別のために取った兜を示す。
「!!!!??」
―・・・あれ?
「・・・ソフィア?どうした・・・?」
「・・・!!?・・・」
「なっ・・・!」
―あれ?
ソフィアが目を見開き、驚愕の表情で俺を見ている。
ソフィアだけでは無い。
サミア族の兵士達も。
その兜を見た兵士達に、どよめきが広がっている。
「おーいソフィア?どうした?」
―俺、なんかしたのか・・・?
「・・・!それを・・・!どこで・・・!?」
「だから、独りで襲い掛かって来たから、返り討ちにしたんだけれど・・・。なあソフィア。そろそろ教えてくれ。この貴族は何者なんだ?」
ソフィアは、何度も何度も呼吸を整え。
しばらくしたのちに、ようやく声を絞り出した。
「・・・貴族ではない。」
「・・・?いや、どうみても貴族だろ?こんな派手な甲冑付けている一般兵がいるもんか。」
―流石に俺だって、貴族と一般兵の判別位はつ
「王。」
・・・へ?
「それは、シヴェチア王ガーレの兜。私はサミア族の将軍として何度も軍議に出たことがあるから、間違いない。貴方が討ち取ったのは、シヴェチアの王。」
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※次話投稿は、3月13日(日)夕方を予定しています。




