第90話 冬の嵐
シヴェチア王国 カレラ地方 城塞都市ヴィプリィ
部下達からの報告を受けたガーレ王が狼狽していた。
「テリョキアの街に敵が現れただと!?・・・テリョキアと言えば、リューリクとの国境から50kmも北にある、カレラ地方南部の主要都市ではないか!一体どうなっているのだ!?奴らの目的はユングリア地方奪還のはずであろう!」
「・・・と言われましても、テリョキアに敵が出現したのは事実です。我が方の備えはわずかで、なす術なく街を攻め落とされました!・・・・数は不明なれど、少なくとも数千は超えると思われます。」
―ガーレの奴め。策を見誤った様だな。
「ユングリア地方にいるドラガデエの軍を呼び戻せ!背後から挟み撃ちに・・・」
「駄目です、ラマナウ率いるリューリク貴族共の部隊が、ユングリア地方との境に陣取っています。今軍を引き抜くと、ユングリア地方が敵の手に落ちる危険性があります!」
「なっ!」
「王様大変です!パルスカ軍も我が国との国境付近に兵を集めていると言う噂があります!昨年のリューリク出兵で兵が不足している中、我々は三方から袋叩きにされかねません!」
「・・・!!!」
さんざん慌てふためいているその姿に、以前の会議で見せたような威厳は感じられない。
それを横で聞くワシはあくまで冷静だ。
―やはり、ワシこそが世界一の王であるな。
「ガーレ王。・・・雪中戦では姿を隠すのが原則と聞く。だが奴等は愚かにも、堂々と姿を見せながら進軍して来ておる。王の言う通り、やはりユーリの奴は冬の戦を知らぬようだな。」
「・・・!考えて見ればそうでありますな。これはこれは取り乱しまして、大変見苦しい所をお見せしました。」
―ふん。今更遅いわ。
「とにかく、敵を追い返さねばなりませぬのでな。私は前線へ赴きます。ゴリツィン王はごゆるりと」
「いや、ワシも行こう。そしてユーリの奴等があがく様を存分に楽しませてもらおうではないか。」
ワシ達はヴィプリィ城塞から出撃し、数日かけてユーリ達が現れたテリョキアの街の近郊へと向かった。
「ガーレ王。軍がずいぶん少ないようだが・・・。」
「・・・お恥ずかしながら、昨年は女狐めにしてやられましたのでな。我が軍もまだ再建途中なのです。」
―情けない奴等だ。
そう思った矢先、ワシについて来ていたチャナンフェイが小声で耳打ちする。
「・・・王様。実は・・・東部直轄領に残る我が軍からも・・・その・・・脱走兵が相次いでおりまして・・・」
「何ィ!」
「ユーリとの戦が予想される来年春には、1万人集まれば良い方かとのことです。」
「おのれ!それでは何か?ここのシヴェチア軍も、東部直轄領の我が軍も、ユーリの奴等に数の上で劣勢を強いられると言うのか!?」
「・・・残念ながらそう言う事になります。」
「おのれええええええ!」
ガーレ王に聞こえるのも構わず、苦虫をかみつぶすような声で吠える。
「ゴリツィン王もそのような状態でありますか。・・・やむを得ぬ。ここは、シヴェチアの王であるこの私が、奥の手を使うほかあるまい。」
いつの間にかワシ達の会話を聞いていたガーレは、気を取り直し。
剣を抜いておもむろに立ち上がった。
「ガーレ王。一体何をするつもりだ?」
「まあ見ていて下され。」
ガーレ王は不敵な笑みを浮かべると、その剣を空高くかざし。
『凍結疾風』!
ビュュュオォォォォォォォォ!!!
「何事だ!?辺りが真っ白に・・・!ガーレ王これは一体!」
突然猛烈な風が吹き始め。
木々が、村の建物が。
次々と凍り付いて行く。
―まさか!?
「これは・・・魔法!?ガーレ王も魔法を使えるのか!?」
「ええ。・・・最も、これを知るのは王族など一部の者だけですがな。・・・むしろ、ゴリツィン王はリューリクの王でありながら、魔法をお使いになられない。・・・これはかなり珍しいことです。」
少し前の焦燥はどこへやら。ガーレ王は得意げに語り始めた。
―おのれ!!それではまるでワシにとりわけ能が無い様ではないか。・・・断じてそのような事は無いというのに。
大口をたたくだけあって、その効果は絶大なようで。
「どうですゴリツィン王。私の魔法の効果で、敵軍は我々を前にして一歩たりとも前へ動こうとはしておりません。」
「なるほど。これがシヴェチアの力か。なかなかやりおるではないか!」
ワシには遠く及ばないが、少しは役に立つようだ。
そこへ、この前の陰気な女将軍が偵察から戻って来た。
「王様。敵軍はテリョキアで防御態勢を固めているようです。・・・なお、女の敵将を一人確認しましたが、敵軍の総大将の姿が見えません。より強力な本隊が別にいる物と推測しますが。」
「メンネル将軍。奴らは夏にパルスカと派手な戦をして膨大な犠牲を払ったばかり。しかもユングリアとこちらに兵力を分散する愚まで犯した。今たまたま見当たらないだけで、これが奴の全軍で本隊だろう。ゴタゴタ言わずに直ちにユーリの首を取って来たまえ。」
だが、この陰気な女はそれに抗する。
「ですから王様。この敵は威力偵察に来た別働隊で、敵本隊は更に大兵力です。・・・対し私が率いるサミア族の部隊はわずかに3千。増援が無ければとても戦えないかと。」
「足りない分は更に多くのサミア人を兵隊にすれば良かろう。老人でも子供でも兵に取ればよろしい。貴様ら野蛮人は戦でしかわが国に貢献出来ぬのだから、今こそ存分に血を流したまえ。」
「・・・わかりました。」
そこまで言うと、陰気な女将軍は吹雪の中に消えて行った。
「ガーレ王。あの女、サミア族とか言ったな。・・・なんだか王に不満げだが、そもそも何者なのだ。」
「あれはここカレラ地方に住む少数民族のサミア人と言って、百年前にわがシヴェチア王国に下った者達です。」
つまりは野蛮人か。道理で学が無さそうな訳だ。
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※次回投稿は1月30日(日)午後から夕方を予定しています。




