第73話 みんながみんな、それぞれ違っていて。イオナは、イオナとして。
2人目の偽物―マリナが辞退してから、数日。
相変わらず、貴族達は混乱状態に陥っている。
そんなある日。
俺は、イオナに呼び出されて二人きり、街外れで話をしている。
「混乱、やみませんね。」
「貴族達は、何としてでも3人目を見繕って担ぎ出すつもりらしいけどな。今は誰を選ぶか決めている真っ最中だよ。」
「・・・ユーリさんはどうするんですか?」
「成り行き次第・・・かな。」
その意味をイオナも十分理解している。
だからこそ。
沈黙が、流れる。
「ロスラヴィにいる元トゥリア反乱軍の人達から連絡がありました。なんでも、ユーリさんに献上したい物があるみたいなんです。・・・それで、少人数でいいんで、私を護衛のために寄越してほしいって言ってるんですけど・・・。」
「いいよ。当分は仕掛けないからな。・・・イオナの部隊の全員と、俺の隊からの半分・・・合わせて7千の兵を預けるから、気をつけて行ってきな。」
「そんなに!?」
「道中敵が襲ってきても撃退できるよう、念のためにな。」
「ありがとうございます。」
「ユーリさん、王都を出たゴリツィンの行き先って・・・」
「ああ。間違いなく、トゥリアの街だろ。」
イオナが身構える。
「・・・もちろん、俺が責任を持って奪還する。」
それは、昨年俺がイオナに誓った事。
一生とは言わずとも。
数年、十年かかるかもしれないなんて思っていた。
それが、まさか。
―こんなに早くその機会が来るとは、思ってもいなかったんだけどな。
「・・・トゥリアからロスラヴィに逃げだした時には、・・・正直、帰れるとは思っても見ませんでした。今は、ユーリさんのおかげで、とうとうここまで・・・しかも、たった1年足らずで戻って来れました。どれだけ感謝してもしきれません。」
イオナも、俺の心の内を察していたようだ。
「・・・イオナが戻ってきたら、本格的にトゥリア攻略の準備だな。」
「・・・はい。」
俺もイオナも、遠く、トゥリアの方向へ視線を向ける。
ゴリツィンをここで討ち取れれば、一番良いけれど。
もうそれでは終わらないことは、俺も、イオナも、皆もわかっている。
「イオナ。ついでに、もう一つ役目を頼んでいい?」
「はい!なんなりと!」
イオナは威勢よく答える。
「ありがと。その、役目なんだけれどな・・・・」
イオナに、耳打ちする。
「・・・ええっ!!そんな大役を・・・私が!?」
その内容を聞き、イオナがさっきとはうって変わって仰天する。
「そう。この役目は、俺個人に騎士の家の末裔として、忠誠を誓うと言ってくれた、イオナだからこそできることなんだ。」
「私だからこそ・・・」
その言葉をかみしめているのだろうか、イオナの動きが止まる。
「わかりました!!・・・私、ユーリさんのために頑張ります!!」
「任せた。」
「ユーリさん。・・・私が、このお役目をするって言うことは・・・」
「・・・ああ。場合によるけど・・・」
俺も、おそらくイオナも。
その日が、近いと言うことを、お互いに予感しているのだろう。
「それでは、・・・行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
イオナは、その場を去ろうとして。
俺の方を振り返った。
「ユーリさん。」
「うん?」
そして、俺の方へ駆け寄ると。
唐突に。
口づけた。
「・・・!?」
驚いていると。
「・・・私、もう三人目ですから。もう印象が薄いんじゃないかって、いつも悩んでました。・・・だから、こうやって突然懐に飛び込んででも、ユーリさんには私の事を印象に残してもらいます。・・・どうですか?」
印象なんか残さなくとも。
普段からイオナは、イオナとして。
しっかりと、記憶づけられている。
だから、どうですって言われても。
「・・・正直、びっくりしたの一言だな。・・・いきなり・・・キスされたことについて・・・だけど。」
俺も、どこまでもイオナの想いから目を逸らしていたわけでは無い。
皆が、イオナが。
俺のことを想ってくれていることは、もう気づいていた。
「私も・・・ユーリさんの事が、愛の意味で好きです。・・・例え、ユーリさんの気持ちが私に向かなくとも・・・私はユーリさんに全てを捧げます。」
―それでも、改めて振り返ると言う意味では、イオナの策は功を奏したのかもしれないな。
俺の頭の中に、イオナとの思い出が駆けめぐる。
「イオナ、俺はみんなをそれぞれ大切に想っている。」
「はい。」
「・・・もちろん、イオナのこともだ。」
まだ周りに誰も居なかった時から、時に照れ、時に見上げてくるサーシャ。
年上ながら、時にかしずき・・・時として引っ張ろうとする、ミーリャさん。
普段は凛としていながらも、二人きりになった時には弱さを見せ、近くあいまみえるであろう、レナーテ女王。
・・・そして、今みたいに、真一文字に突っ込んで来る、イオナ。
「みんながみんな、それぞれ違っていて。・・・俺は、みんなそれぞれを、大切に想っているんだ。・・・だから、イオナさえそれで良ければ・・・イオナの想いも、俺は受け入れたい。」
「もちろんです!」
それでも、もうイオナに迷いはない様だ。
晴れ晴れとした顔をしたイオナを、俺は抱きしめる。
イオナはそのままの体勢で、胸の中で顔を真っ赤にした。
「勢いでキスしてしまいましたけど、私も何だかこういうこと、慣れていなくて。」
普段から結構積極的だったのは。
やっぱり照れ隠しだったようだ。
「こんな気持ちになるの、ユーリさんが初めてです。」
「ユーリさん・・・私のこと、よろしくお願いします。」
イオナは改めて、俺に抱き着いた。
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※今回は10月22日(金)投稿予告の分です。
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