第71話 説得
混乱の末、会議はうやむやに幕を閉じた。
味方貴族達は皆、目標を見失い。
誰もが呆然としていた。
そんな中。
俺は明確な目的をもって動いていた。
マリナのうしろだて、つまりラマナウ公を説得するのだ。
会議の後。マリナの部屋。
「どう言うことだマリナ!」
「聞いてのとおりや!うちはもう降りる!」
マリナの部屋に入ると、案の定ラマナウ公の声も聞こえてきた。
俺達4人は、偶然を装って中に入る。
「ユーリ公!どうされた?」
「外から騒がしい声が聞こえたので、何事かと思って。」
「ちょうどいい所に!ユーリ公達からも言ってやってくださいな!」
「叔父様!!うちは誰が何と言おうと、もう偽物の替え玉なんて嫌やからな!!元はと言えば、叔父様が半ば無理やりうちを担ぎ上げたんやないか!」
「それは・・・!マリナとて、今よりも更に上の最上の位、王になれるのだぞ!」
「そんなこと、うちは望んだことない!」
「・・・」
俺は無言のままだ。
「・・・ユーリ公?」
ラマナウ公は、そんな俺をいぶかしげに見る。
マリナも俺の存在に気付き、話を止めた。
一時の沈黙が、流れた。
「ラマナウ公。俺、この会議の前にも、他の貴族から話を聞きました。・・・正直な所、マリナへの支持は決して多くはありません。」
「なっ・・・!」
「しかも本人がこれだけ嫌がっている。」
「・・・!」
「・・・おまけに、パルスカでは名君と名高いレナーテ女王が、リューリク王を名乗ると言い出し、一部の貴族の指示まで得たことで、ただの偽物を担いでいるに過ぎない我々に、それに対抗するような大義名分も無くなってしまいました。」
「うーむ・・・」
「もし、このまま無理矢理擁立したとしても。貴族達からの支持は得られず、レナーテ女王を超えられるだけの正当性も大義名分もなく、おまけに本人もこれだけ嫌がっている状況では・・・本人の気持ち的にも、情勢的にも、長くは続かないでしょう。」
「・・・」
「このままでは、誰も幸せになりません!」
「ぐぬぬ・・・」
「ラマナウ公、・・・賢明なご決断を!」
俺は、唸り続けるラマナウ公に迫った。
長いうなり声の、末に。
「・・・わかった。貴公の言うとおりにしよう。マリナを担ぐのは止めにする。」
「「「「「・・・!」」」」」
「賢明なご決断に、敬意を表します。」
「叔父様、ありがとうございます!」
「担ぐのをやめた途端、当の本人にまで感謝されるとは・・・」
ラマナウ公はがっくりとうなだれた。
「これで、マリナの後ろ盾としてこの国の実権を握ろうとした、私の野望は潰えたか・・・」
一人の男の野望と、その挫折の時。
俺は少しだけ、ラマナウ公の心情を思い図った。
ラマナウ公が挫折し、ひとまずこの問題が解決した、今。
聞いてみたかったことがある。
「・・・そもそも、何故ラマナウ公は王都から離反を?」
すると、ラマナウ公は饒舌に語り出した。
「我がラマナウ家は、長きにわたりこのリューリク王国の地で一番大きな領地をもつ家柄として、繁栄を謳歌してきた。我が一族は、王座以外の全ての物を欲しいがままにすることが出来たのだ。」
「・・・。」
「このリューリクの数多の貴族は、代々王都を・・・王を支えることで、見返りとして領地の支配を認められてきた。王と貴族とは、互いに支え合ってきたのだ。」
「・・・つまり、その経緯がどうあれ、万が一王の血筋が途絶えたならば、貴族の出番・・・つまり本来なら、王様が無くなられた時、国中の貴族を集め次の王を決める会議を開くのが筋だったのだ。・・・そして、そうなれば必然。貴族達の中で最も領地が広く、最も格式が高い家の当主。すなわち、私が王になるのが筋ではでないか!!」
「・・・」
「それをゴリツィンの奴め、取り巻きだけ集めて勝手に王を名乗りおって!!あげくの果てに、やむなくあいさつに出向いてみれば、何だあの様は。政も滅茶苦茶ではないか!!」
どんどん激高して行くラマナウ公。
その心中、察するところあまりある。
「そもそも、ゴリツィンなどと言う貴族を私は知らんぞ!!どこの馬の骨とも知らん奴が、この国一の大貴族であるこの私を差し置いて、偉そうにふんぞり返りおってからに!!」
―なるほど、つまりは私怨か。
ラマナウ公の息は肩でするほどに荒く、怒りで顔が真っ赤になっている。
余りの激昂ぶりに、周りが皆引いている中。
言いたいことを洗いざらいぶちまけて気が楽になったのか、ラマナウ公は落ち着きを取り戻した。
「・・・すまぬな、少し取り乱した。・・・とにかく、マリナが『王子』の座を降りることは良しとしよう。」
「重ね重ね、ありがとうございます。」
「だが、この先どうするのだ?貴族達は、他に候補を考えているようではあるが。」
「その候補次第です。それなりの正統性があり、なおかつ本人が王になりたがっていればよし。さもなければ、また同じことの繰り返しでしょう。」
「・・・ユーリ公としては、3人目の『王子』・・・次の王の座に誰を推すのだ?」
俺は沈黙する。
「・・・ユーリ公、そなたもしや!?」
「・・・。」
長い沈黙の末、俺の意図を理解したラマナウ公が口を開いた。
「・・・確かに、貴公の武勲は充分過ぎるほど余りある。・・・だが、それだけではなく、何か決定的な正統性が無いと、最早貴族は納得せんぞ。・・・それとも、それを満たす何かがあるというのか?」
「・・・。」
沈黙の末。
「ならば、時が来れば、それを見せてもらおうか。・・・場合によっては、貴公の行動を支持しても良い。」
「ありがとうございます。」
俺は改めて、ラマナウ公に一礼した。
マリナとは改めて話をすることにして、俺達も一旦その場を後にした。
「なんか、すごい欲望の塊みたいな人でしたね。貴族たちもそうでしたけど、どうしてみんな欲望しかないのでしょう。」
これまでの経緯に、サーシャはそう言って辟易している。
「サーシャ。言っておくが、俺にだって欲はあるぞ。王になりたいってのだって、立派な欲の一つだ。」
「あ、ユーリ様の欲はきれいな欲ですから!!」
「・・・お、おう。」
はっきりとすごいことを言ってくれるサーシャに、俺は少しだけ引きつつ。
「今回、一つはっきりしたことがある。」
「なんですか?」
「例えこの先何があっても、ラマナウ公がゴリツィンの敵、つまり、俺達の味方であることがはっきりした。」
「そうなんですか?」
「ああ。あれだけの私怨があれば、少なくとも、ゴリツィンに寝返るなんてことは絶対に無い。」
「なるほど!さすがユーリ様です!」
「それなら、安心して次の策を練れますね。」
そう、次の策だ。
貴族達は目標を見失って呆然としているようだが。
当然、俺達にとっては次に仕掛けるまでのわずかな休息時間に過ぎないのだ。
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※次回投稿は10月17日(日)午後から夕方を予定しています。




