第50話 遺跡再訪
ロスラヴィが本格的に肌寒くなってきた頃。
建設中だった聖堂が完成した。
俺達はその完成式に招かれている。
「おかげ様で、無事完成の日を迎えることが出来ました。心より、お礼申し上げます。」
「こちらこそ。」
「杖、盾、今や宝珠までもをそろえられ、更にはそれを自在に使いこなす。ユーリ殿は、まさに聖者様と言って過言ではありません。」
「いえいえ。俺はただの人間ですよ。そんな聖なるものではありません。」
そもそも、俺が目指すのは神様でも、聖者様でもない。
ただの人間が目指せる一番の高み、つまり王様だ。
俺は、今日総主教に一番聞きたかったことを質問した。
「残りのレガリアはあと1つなんですよね。」
例の王子様の残像曰く、残りは剣だけのはずだ。
「どんな力があるのですか?」
「詳しくは、私共も全くわかりません。ただ、とてつもない力であることは確かです。かつて現れた聖者様―初代リューリク王―は、その力を使って世界を御救いになられたのです。」
とてつもない力、か。
「・・・ただ、私としては、見つからないのが一番だとは思っています。」
「なぜです?」
視線を少し下に落とした総主教に、俺は問う。
「昔からの教会の言い伝えには、宝具について直接記されたものもあります。・・・宝具が揃う時。それすなわち、世が宝具を必要とする時である、と。」
再び総主教は顔を上げた。
「宝具を必要とする・・・時?」
「はい。」
「それは、ゴリツィンとの戦をしている、と言う意味では無くてですか?」
他の皆も興味津々だ。
「確かに、リューリク王の系統が危うくなっている今の世は、それだけで十分危機に当たると思います。しかしながら、ユーリ殿が再び王都を手に入れて、それで終わりだとは、私にはどうしても思えないのです。」
奇遇だ。
近頃は、俺にもそうは思えなくなってきた。
おそらく、王都が危うくなればゴリツィンは躊躇なく逃亡するだろう。
この世界はとても広い。
倒されさえしなければ、いくらでも再起を図れるだろう。
「ですが今回、おそらく宝具は揃ってしまうのでしょう。ユーリ殿。この先何が起こったとしても、教会はユーリ殿にすべてを託します。全ての宝具を手にし、世界をお救いくだされ。」
世界、か。
正直、そこまでは考えたこともなかった。
その後、俺達は盾が埋められていた遺跡に出向いた。
折角なので、今一度遺跡を見ておきたかったからだ。
それももう一つ。
今回は、総主教にも遺跡を見てもらう目的があった。
教会ならば、ここの事もいろいろ知っているかもしれない。
春先と変わらない崖に掘られた痕を、皆で眺める。
「春先にユーリ様と二人で来て以来、久しぶりですね。」
「ここが、ユーリ殿と王族の秘密の場所・・・。」
「私も、初めて来ました。なんか、神々しい場所ですね。」
サーシャが岩をなでる横でミーリャさんとイオナが感銘にふけっている。
「この場所はすごいんだぞ。なんたって、岩や絵が勝手に動くんだからな!」
「あー。ありましたね、そんなこと。わたしびっくりしちゃいました。」
「そのようなことが!」
「何それ!すごいですね!」
左下の、再び風化しかかっているのが、杖なんだよな。
俺は他の部分のコケを払ってみる。
右下にも、似たような模様を見つけた。
「ユーリ様、右側のってもしかして・・・」
サーシャが右下の部分を指す。
左の杖と同じく、何か手の様な物が、それを握りしめている。
「今ならわかる。右は宝珠だろうな。」
「この手みたいのって何なのですか?」
何だろうな。
前回は王子様の遺言で頭がいっぱいで、この彫刻らしきものの細部まで気を回す余裕はなかった。
左に杖、右に宝珠を握りしめた、何かの手。
「人間・・・ですか?」
「少し違う気がする。」
しかも、真ん中にも何かが書いてあった痕跡がある。
上半分は相変わらず判別が出来ないが。
「おお!これがレガリアの遺跡!!」
後から合流した総主教も、遺跡を眺めて感動している。
俺は聞いて見たかった質問をぶつける。
「聖下、この手のような物は一体何なのですか?」
ピレラ総主教はそれに触れ、少し考え込む仕草を見せた。
「はっきりとは解りかねます。しかしながら、人間とは、また別の何かかもしれません。」
―人間とまた別の、何か。
何だろう。
珍しいモンスターの類か何かだろうか。
「時間はかかるかもしれませぬが、必ず突き止めてご覧にいれます。」
「お願いします。」
俺は再び考える。
宝具が4つ揃った時は、何か大変な事が起きている時、か。
―これも、王子様の言う覚悟の内なのだろうな。
考え込む俺を、サーシャ達が横から覗き込む。
「ユーリ様。何が起きたとしても、例え地の果てまでだって、わたしはユーリ様について行きます。」
「私も同じです。ユーリ殿の行く所、どこまででもお供します。」
「もちろん、私もです。どこまでも一緒ですよ、ユーリさん!」
「みんなありがとな。」
もちろん、全てを背負う覚悟は、あの時から出来ている。
俺は改めて、その覚悟の重みを噛み締めた。
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※次回投稿は7月31日(土)午後から夕方を予定しています。




