第48話 それぞれとの朝
数日後の早朝、屋敷の俺の部屋にて。
俺がまだ眠りから覚めずにいると、美味しそうな朝食の匂いがほのかに漂ってきた。
―この匂いは・・・なんだろう?
美味しそうではあるけれど、嗅いだことが無い匂いだ。
―ミーリャさんが、新作の料理にでも挑戦しているのだろうか。
今日の朝食に期待を込めて、俺は再びしばしの眠りについた。
「うーーーん。」
どれくらい寝たのだろうか。
手の先に、柔らかい物がふれた。
俺は無意識に、それを握る。
「んっ!」
―んっ?
なぜか間近に聞こえた、少しアレな声。
それは、こういう行動をするとは思えない・・・
「・・・ユーリさん・・・」
「うわっ!イ、イ、イオナぁ!?」
少し顔を赤くしたイオナが、俺の隣で寝転がっていた。
「お、おはようございますユーリさん。」
「いや、おはようって言うか、なんでここにって言うか、なんでベッドの中に!?」
イオナはゆっくりと体を起こす。
「それは・・・私も、これ位はしたほうが良いのかなって。」
―これ位ってどれ位!?
「ごめんなさい、大声を出してしまって。まさか、いきなり胸を揉まれるとは思ってなくて。でも、ユーリさんって結構大胆なんですね。」
「いや、大胆って言うか、イオナがこういうことするのはちょっと意外だったな。」
「私も日々経験を積んでいるのです。」
―なんの!?
「さ、起きたなら朝食にしましょう。今日は私が作りました。」
なるほど、イオナが作ったのか。
嗅いだことない匂いの理由がわかった。
「ユーリ様、おはようございます。」
「おはようございます。」
食堂に行くと、他の二人も声をかけてくる。
「焼いた肉に、発酵した乳から作ったソースをかけました。」
「うん、美味しい。」
「喜んでもらえて、私もうれしいです。」
イオナの顔が明るくなった。
その日は、サーシャとミーリャさんは連れだって村に出かけていた。
思えば、あの2人で出かけたことって今まで無かったな。
レナーテ女王も村の視察に出かけているそうだ。
昼過ぎ。本来の持ち主の一族とメイドがいない屋敷で、俺とイオナは2人だけで食卓を囲む。
「なあイオナ。一体俺の周りで、何が起きているんだ?」
「ユーリさんは何だと思いますか?」
逆に聞き返された。
正直、思いつかない。
サーシャ曰く
「ユーリ様はどっしりと構えていてください!」
・・・だそうなので、その言葉通り心配はしていないが。
「うん、わからん。」
「そのうち、わかる日が来ますよ。」
イオナはほほ笑みながら、そう言った。
多分、女性同士にしかわからないことなのだろうな。
その後も、イオナは1日俺につきっきりだった。
翌朝。俺の部屋にて。
嗅ぎ慣れた匂いがする。
―まだ眠いな。
無意識に手を伸ばす。
「......」
手が何かに当たる。
―誰かいる。今日は誰だ?
まだ思考が追いつかない。
―なんか温かい物に触れているような・・・
無意識にあたりをまさぐる。
「....!…!」
―なんだこの声は、と言うか・・・
「うん!?」
ミーリャさん!?
なんで顔を赤くしているの!?
「私から仕掛けようと思っていたのですが、ユーリ殿が、寝ながら結構動くもので・・・」
動くので何!?
「正直、少し・・・」
少し!?少し何!?
「と、とにかく、朝食の準備が出来ています。」
ミーリャさんはいそいそと部屋を出て行った。
ねえ、なんで俺のベッドにもぐりこんでいた!?
昨日のイオナもそうだけど。
心の中で問うが、当然答えは返ってこない。
今日の朝食は、ミーリャさん作、地元の食材を使った料理のフルコースだ。
「うん。いつもながら美味しい。」
「ユーリ殿はいつも美味しそうに召し上がっていますものね。メイド冥利に尽きるという物です。」
今朝の衝撃が強すぎて、正直いつもより味が頭に入ってこなかったが。
朝食後は、この間のように村に出かけたり、鍛練に付き合ったり。
ミーリャさんはその日、俺につきっきりだった。
その日は、サーシャは書き物をすると言って部屋にこもりっきり、イオナは店があるのか、屋敷に姿を見せなかった。
本当に、一体何なんだろう。
翌日。
今日は枕元に誰もいなかった。
遠くで、音がする。
何かが、熱せられているようなにおいが。
昨日、サーシャは用事があると言っていたので、違うだろう。
と、言うことは。
数日間とどまっている・・・
「もしかして・・・」
「おう、ユーリ公か。」
「おはようございますレナーテ女王。ひょっとして・・・」
レナーテ女王は、何かが煮えている鍋とにらめっこしていた。
何か。
俺には、これは何だかわからない。
だが。
これは・・・正直どう見ても・・・
「うーむ・・・。料理と言う物を作ってみたのだが、なかなか難しいものだな。民はこのような芸術品を、当たり前に仕上げる事が出来るのか。」
調理場は、あらゆるものが散乱し、まるで戦場と化している。
・・・さて、どうやってコメントしようか。
余った原材料を見る限り、おそらくマギリョで食べたキノコのスープを作ろうとしていたようだ。
「無理せずとも良い。正直、出来があまり良くないのはわらわとてわかる。」
「いえ、女王陛下が心をこめて作って下さったもの。ありがたくいただきます。」
少し沈みかけたレナーテ女王を前に、俺はそれをためらいなく口にする。
彼女は大国の女王様。
自ら料理なぞしたことは無いに決まっている。
そんなレナーテ女王が、初めてなりに一生懸命作ってくれたんだ。
味わって食べずになんとする。
―うん、見た目よりは全然行ける。
俺はそのスープ?を一気に飲み干す。
「これなんか、キノコの味が効いてて・・・」
―あれ?
「なんか・・・力が急に抜けて?」
「うん?どうしたユーリ公?大丈夫か?おい!」
柔らかい感触。
頭に触れる。
「・・・目が覚めたか。」
「俺・・・?」
そうだ、レナーテ女王の作ったスープを口にした後、なぜか急に意識が遠のいたんだ。
「・・・すまぬ。色々頑張っては見たが、やはり駄目であったか。」
「いえ。味わっていただきました。」
意識がはっきりとしてきたので、あたりを見回す。
柔らかい感触、よくよく見れば、なんとレナーテ女王自ら膝枕をしてくれていた様だ。
―こんな機会、多分誰も一生ないだろうな。
それを味わえただけで、俺は幸せ者だ。
俺はゆっくりと体を起こす。
その後、俺は一緒に片付けも手伝い、調理場の惨状を原状回復した。
「あの場では喜んだが、よくよく考えて見ると、わらわは家事などしたことも無い。他の3人は卒なくこなしているのだろうが、わらわは・・・。正直情けない。」
レナーテ女王は少し落ち込み気味だ。
「何をおっしゃるんです。貴女は、パルスカと言うわりと大きい上に周囲が敵だらけな国を、たった一人でまとめあげてるじゃないですか。高々料理ができない位で何のことはないです。大体俺だって、肉を刺して焼く位の事しかできませんよ。」
「・・・」
「それより、レナーテ女王自ら、わざわざ俺のために作ってくださったんです。これは末代まで語り継ぎますよ。―女王陛下自ら料理に挑戦され、光栄にも、そこで振る舞われた料理を食べたことがあるって。」
「・・・あんなのでもか?」
「もちろんですとも。」
「・・・・ふふふふ。ふはははは!ふふははははははは!」
レナーテ女王はうつむき気味だった顔を上げ、笑い出す。
「ユーリ公。わらわは、ますます貴様が欲しくなったぞ!」
「ご評価いただき、ありがとうございます。」
レナーテ女王は、屋敷に来た時の豪胆な笑顔に戻っていた。
夕方。
レナーテ女王は、乗って来たペガサスに再びまたがる。
今度こそ、パルスカの王都に帰るらしい。
「ユーリ公。次に相まみえた時は、貴様はさらなる高みに登りつめているのだろう。・・・そうなれば、お互い敵同士だな。」
女王は言いながら、笑顔を向ける。
「ええ。今度こそ、お互い全力でぶつかり合いましょう。」
「ふはははは!わらわも同じことを思っていた。対決、楽しみにしているぞ!!」
そう言い残すと、レナーテ女王は東の空高く去って行った。
―俺も、再び会いまみえる日が楽しみだ。
遠くで懐かしいような、いい匂いがする。
今日の朝食はボルシチか。
もう4日目。
考えるまでも無い。
順番的にサーシャだな。
サーシャは料理に悪戦苦闘はしないだろう。
と、いうことは、先の2人と同じか。
俺は、いることを見越して、あえてベッドをまさぐる。
流石に何日も連続ともなると、俺も少し身構えている。
柔らかい物に触れたら、まさぐらずにそっとしておいてやろう。
さわさわ、さわさわ。
―あれ?サーシャの感触が無いぞ。
ベッドの中には、誰もいなかった。
―なんだ、サーシャはいないのか。
そんな場所にいると思ってしまう俺も、どうかしている。
良い匂いがするし、厨房かな?
正直、まだ眠い。
よし、また一眠りしよう。きっとサーシャが、ちゃんと揺さぶって起こしてくれるだろう。
俺は起こしかけた体を、再びベッドに戻して横になる。
―さて、こうすればだんだん目が閉じて
「すう・・・すう・・・」
俺の顔の目の前に、お目当ての寝顔があった。
―!?
ベッドに入らず、脇でもたれかかっている。
いないと思っていたサーシャがやっぱりいたことに少し驚いた。
「・・・あれ?わたし・・・」
俺の身じろぎに反応したのか、サーシャが目を覚ます。
「ユーリ様!?わたし寝ちゃってたんですか!?」
「うん。それはもう、気持ちよさそうに。」
サーシャは顔をきょろきょろとして、あたりを見回した。
「サーシャはベッドに入ってこないんだな。」
「ベ!ベベベッドの中に!?それは・・・はずかし・・・」
顔色が真っ赤になっていくのがわかる。
「恥ずかしすぎますけど・・・ユーリ様は、そのほうが良かったですか?」
「あっ!い、いや!そういう訳では」
何だこれ、俺も逆に恥ずかしいんだが。
しばらくの間、サーシャと一緒に、二人して顔を赤くしていた。
結局俺達が食堂に行き、朝食を食べたのは、既に太陽が高く上った後だった。
ミーリャさんは既に村に出かけたようで、屋敷には俺とサーシャの二人きりだ。
「ユーリ様と出会ってからしばらくは、この屋敷にわたし達二人きりでしたね。」
「久しぶりだよな、そう考えると。」
なんだか、懐かしい感じがする。
「ユーリ様と出会ってから、もう半年が過ぎたんですね。」
「そうだな。濃すぎてあっという間だったよ。」
「本当に、色々な事がありましたよね。わたし、ユーリ様が来てから、毎日がめまぐるしく回って、とても新鮮で。」
サーシャはその場を回って見せた。
「ユーリ様。また来年も、よろしくお願いしますね。」
「ああ。こちらこそ。」
心地のいい、無言が続く。
「なあサーシャ。この間の話し合いで、サーシャ達4人の間で、何かが決まった。」
「はい。」
「・・・時が来たら、俺にも教えてくれるんだよな。」
「もちろんです。」
うっすらとたけど。
もしかすると。
俺にも、サーシャ達の話が分かったのかもしれない。
まずは。
―来年に向けて、色々と準備を進めないな。
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※次回投稿は7月23日(金)午後から夕方を予定しています。
※別作のファンタジー物連載始めました。中~長編予定です。
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※中編の現代恋愛物連載中です。
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