第42話 【ゴリツィン王サイド】王の逆襲と誤算
深夜、王都。
夜の帳がおりきった頃、モリノフ率いる秘密警察の部隊が民衆に化け、王都へと侵入した。―護衛の兵は皆城に籠っているようだな。
城内に居れば安心だとでも思っているのだろうか。
秘密警察ふんする『民衆』のデモ隊が、王宮へと進む。
「偽物は失せろ!」
「ゴリツィン様こそが正当な王だ!」
「そうだ!逆らう奴は死すべき!」
・・うむ。そうだ、全くその通りだ。
あの偽物共も、教会の坊主も、ユーリの奴等も。
ワシに逆らう奴は、皆死ぬべきなのだ。
モリノフの扇動による『偽物』の民衆とはいえ、そこまで悪い気分ではない。
時々『本物』の民衆が、この夜中に何事かと表に出てくるが、そんな奴らは秘密警察によって排除される。
やがて、王宮が見えてきた。
城壁越しに中の兵士の声が聞こえてくる。大混乱の様子だ。
「とにかく城壁を守れ!誰だか知らぬが、城内に入れるな!」
「『王子様』はどうされている!」
「それが、とっくにお休みになられて・・・」
「早く起こして来い!」
パルスカの兵だな。だが今回はワシの方が一枚上手だ。
「王様、隠し通路はこちらにございます。ささ、中へ。」
「うむ。」
―王たるワシが、なぜこんな所からこそこそ城に入らなければならないのか。
これもかなりの屈辱ではあるが、今回限りならば仕方がない、受け入れるとしよう。
こうしてワシは隠し通路から王宮に侵入した。
王宮の中に出ると、すでに護衛のパルスカ兵と『民衆』との小競り合いが始まっているようだ。
良く聞くと、奴らの声も聞こえた。
「何事だ!一体何が起きているんだ!」
「偽物の王に反対する民衆とのことです!」
「昼間までそんな気配はなかったぞ!そもそも余はまだ何も政をしていない!民に恨まれるようなことはしていないぞ!訳が分からない!」
―あれが偽物か。流石は聞きしに勝る阿呆だな。
「追い払いましょう!あれはどう見ても、ただの民衆ではありません!おそらくゴリツィンの兵が民に化けているのです!」
パルスカの兵はワシらの企みに気付いたようだ。
だが。
「そんなわけが無い!あの服装を見ろ!どう見ても民ではないか!武器を向けられるわけなかろう!」
「しかし!動きが民とは明らかに違います!手練れの兵以外の何物でもありません!」
―この期に及んで、未だに事態を把握できていないとはな!
「では、行くとしよう。ワシの栄光を取り戻すのだ!」
ワシ達は偽物の前に躍り出た。
「そこまでだな偽物よ!」
偽物は驚愕する。
「なっ!お前はゴリツィン!一体どこから!城の防備は完璧なはずだ!」
「馬鹿め。ワシは数十年この城に出入りしておるのだ。貴様のような偽物と違って、城の抜け道など熟知しているに決まっておろう!」
「何い!?」
「ふん、現状を全く呑み込めないようだな。やはり、偽物の王には、偽物の民によるあざけりで十分だ!」
それを聞いた偽物の顔色が変わる。
「まさか・・・こやつらは民ではないのか!?」
ワシは自らの剣を振りかぶる。
「ワハハハハハハハ!当たり前だろう!これは皆我が秘密警察の部隊だ!だが今更気づいてももう遅い!死ぬがよい!」
「そんな、そんな、馬鹿なぁーーーー!」
ザクッーーーーーー!
「うわああああああああああ!」
こうして、グリゴ・ハタルピなる偽物は、ワシの華麗な剣の前に一刀両断され、露と消えた。
後に残ったのは、偽物の一味が逃げ回る声だけだ。
この後は、残党を全て始末すればよし。
うむ。完璧だ。
「ワハハハハハ!まさか『王子』なる奴を、真偽含めて2人もあの世へ送るとはな!ワシもなかなか面白い運命にあるではないか!」
そんな上機嫌のワシの元に。
モリノフが血相を変えて駆け寄って来た。
―空気の読めぬ奴め。
「王様。ユーリ一味が見当たりません!」
「何!?」
「奴だけでなく、取り巻きの女も、誰一人として姿を見たものがいません。逃げられたと言うより、まるで最初からいなかったかのようで。」
「・・・どういう事だ!?」
「襲撃前より、王宮は我が部隊が蟻の這い出る隙間も無いほどに包囲しています。もし城内にいないとなれば、あらかじめ王宮を退去していたとしか考えられません。」
「・・・!?」
―我らの策を読まれていただと!?
「探せ!何としてもユーリ一味を見つけ出せ!」
だが、いくら探せど、王宮内にユーリの奴の姿は見当たらなかった。
「逃げ散るパルスカの兵を追跡させたところ、大聖堂の方向に向かったようです。」
―おのれ!あの忌々しい大聖堂か!
「ユーリの奴らも、そこにいると言うことか。」
「はい。奴らは大聖堂にいるようですので、坊主共もろとも皆殺しにしましょう。それこそまさに、王都を離れる前の王様のご命令どおりです。」
「ふん。どこに行ったかと思えば、小癪な奴め。よし、追撃してユーリの奴の首を持ってまいれ!」
「ははっ!」
モリノフが秘密警察の兵とともに消えて行く。
大聖堂はモリノフに任せよう。
ワシが出るまでも無い。
とにかく、偽物は倒した。
後は、ユーリ一味を討ち取れば戦は終わるであろう。
・・・いや、尾を引いていたであろう、パルスカの女狐めを亡き者にするのもよいかもしれぬ。
―ユーリの奴もここにおればよかったものを。
やはり、奴には別に死に場所が必要と見える。
だが、最早ワシの大勝利は確定した。
ワシを邪魔しようなどと企み、その力がある物は誰にもいない。
全てがワシの手のひらの中なのだ。
これからも、永遠に。
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※次回投稿は7月2日(金)午後から夕方を予定しています。