第21話 ≪両サイド≫ロスラヴィの戦い 後編
≪ユーリサイド≫
街道脇の茂みの中。
数か月前、俺が野営をしようとしていた所―サーシャと出会った場所―に、俺達は潜んでいた。
ザッザッザッザッザッザッ
遠くから、たくさんの足音が聞こえてくる。
『攻撃力上昇』
『防御力上昇』
『俊敏性上昇』
小声で呪文を唱える。
300人全員の能力が上がる。
「いいか、事前の作戦通り。弓隊の第一斉射が終わったら、一斉に街道を封鎖する。」
「了解」
味方の兵が小声で答える。
俺は、街道を挟んで斜め後ろにいるサーシャの隊に向けて、静かに手を上げて見せ。
振り下ろした。
バシュバシュバシュバシュ!
「うわっ!」
「ぐおっ!」
「て、敵襲!敵襲!」
サーシャのクロスボウと味方の弓が、次々と敵を射抜いていく。
街道は敵で埋め尽くされているので、街道を狙えばどこかしらの敵兵に当たる。
先頭を歩いていた敵の歩兵が折り重なって倒れる。
「よし、街道を封鎖する!続け!」
「オオオ!」
俺達前衛は横一列に盾を構え、街道に立ちふさがる。
イオナも俺の隣で盾を構えている。
「ユーリさん、頑張りましょう!」
「うん。」
【ゴリツィンサイド】
突然どこからともなく弓が飛んできて、多くの兵士が倒れた。
「敵襲です!森の中から弓が!」
「撃ち返せ!」
バシュバシュバシュバシュ!
カンカンカンカン!
「だめです!!木にさえぎられて当たりません!!」
「ぬう・・・」
いつの間にか前には敵の盾が整列している。
よく見れば、ユーリの奴も、それに首領の女までいるではないか。
ユーリの奴め、女と一緒に屋敷で震えていると思っておったが、出てきおったか!
「前方の歩兵を狙え!弓隊などガードさえいなければ裸同然だ!」
「構え!放てえ!」
バシュバシュバシュバシュ!
空を覆うほどの矢が、ユーリの奴めがけて飛んでいく。
ふん、これは勝負ありだろう。
≪ユーリサイド≫
数百、千本以上の矢が飛んで来る。
「イオナ、見てなよ。これが俺の戦い方だ。」
「はいっ!」
「盾を上に向け!」
宝具の盾に力を込める。
―今だ!―
『防御!』
ガガガガガガガガガガ!
薄い幕の様な物が一面に広がり、矢を全て弾き返す。
「す、すごい!これが・・・ユーリさんの力」
イオナが感動している。
「おおっ!」
「敵の矢を弾き返したぞ!」
「なんだかわからねえが、この防具は素晴らしいな!」
他の味方兵士も、喜んでいるようだ。
「喜ぶのは後!第二射が来るぞ!」
敵が矢を構えなおすのが見える。
何度撃って来ようとも同じことだ。
『防御!』
ガガガガガガガガガガ!
『防御!』
ガガガガガガガガガガ!
盾の魔法で、全てを叩き落とすまで!
【ゴリツィンサイド】
「矢が弾き返されただと!?一体どうなってるんだ!」
敵の数自体が、予想よりもはるかに多い。
飛んで来る矢の数からして、数十人ではない。明らかに数百人はいそうだ。
「小癪な!あの弓隊の所まででいい!森の中を強行突破しろ!」
「さっきから試みているのですが、その森の中に別の敵部隊がいるらしく、中々突破できません!」
「更に別の部隊だと?」
「は、はい。突破しようとすると、投げ槍やナイフが次々と飛んできまして・・・」
それを聞いたスコーピンが何か思いついたようだ。
「王様。戦い方から推測すると、森の中の敵部隊には、我らを裏切った女暗殺者がいると思われます。だとすると、奴は相当の使い手。一般兵がかなう相手ではありません。」
「ならどうしろと言うのだ!」
「ここは敵の思うつぼですが・・・街道から正面突破を図るしかありません。」
ふん、もとよりそのつもりだ。
「総員、突撃用意!あのいまいましい前衛を突破する。ユーリを討ち取るか捕えた者には、褒美をやるぞ!」
バシュバシュバシュバシュ!
「ぐわっ!」
「突撃ったって・・・げえっ!」
「どうやって進めば・・・うわっ!」
敵の矢が次々と一方的にこちらの兵士を倒していく。
「ええい、いいから突撃しろ!」
「は、ははー!」
≪ユーリサイド≫
ミーリャさんの隊は、森の中を進もうとする敵を順調に阻んでいるようだ。
そして、街道上にいる敵の矢の勢いが弱くなった。
・・・と、言うことは。
「来るぞ、敵の突撃だ。」
敵が槍に構えなおすのが見える。
「ユーリさん、いよいよですね。」
イオナが待ちきれないかのように俺を見る。
「うん。あれを撃退すれば、俺達の勝利だ。」
「全員、槍・剣の準備。敵が突撃してきたら、盾の隙間から武器を突き出す。」
「了解!」
「サーシャの隊は、後方の敵を狙って!」
「わかりました!」
サーシャが森の中から声を出す。
ウラアアアアアア!
雄たけびをあげ、敵が突撃して来る。
バシュバシュバシュバシュ!
「ぐわっ!」
「があっ!」
突撃する敵兵に向かって矢が放たれ、次々と敵が倒れていく。
「ひるむな!進めえー!うわっ!」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
盾に敵の槍や剣が撃ちつけられる。
その隙間から、こちらも槍や剣を敵に突き刺す。
ザクッ!ザクッ!ザクッ!
「ぐふっ・・・!」
「ぎゃっ・・!」
次々と敵が倒れる。
たまに味方にも倒れる者が出るが、強化魔法の効果でこちらの防御力は敵の数倍だ。
押し寄せる敵を、一列に並んで次々と薙ぎ払っていく。
その間にも、頭上をサーシャ隊の矢が次々と飛んで行き、後方の敵に吸い込まれていく。
一方敵の矢は飛んでこない。
敵の指揮官のいらだつ声がここまで聞こえてくる。
「何をやっている!こちらも矢を撃ち返せ!」
「突撃した味方が邪魔で狙いがつけられません!」
「まだ敵を突破できないのか!?」
「やっていますが、一人一人が異様に強く、突破できません!」
―うん?ちょっと待て、あの聞き覚えのある声は―
よく見れば、明らかに派手な甲冑を着た人物が一人、最前線の少し後ろで指揮を執っている。
「あれは・・・ゴリツィン!」
「王がこんな近くに!」
この手で討ち取りたいが、流石に遠すぎる。
となれば、この戦いに早期に決着をつけるため、取るべき手は一つ。
「サーシャ、あの派手な甲冑を着ている敵を集中攻撃!」
「はい!・・・えい!」
バシュバシュバシュバシュ!
王の周りの兵がバタバタと倒れる。
サーシャの部隊の矢が、王の周辺に降り注いだ。
たとえ倒せなくとも、一発当てるだけでいい。
それだけで、勝負ありだ。
【ゴリツィンサイド】
「ぐっ・・・!」
ワシの左肩に激痛が走る。
肩から血がほとばしる。
銃弾をも跳ね返すはずの特注の鎧が、その部分だけ破壊されている。
ワシの肩をすり抜けたらしい矢が、後ろ側の木に刺さっていた。
「馬鹿な!この鎧をかすっただけで貫く矢だと!?」
スコーピンがその矢を手にして首をかしげる。
「ただのクロスボウの矢?銃でもないのになぜ?」
そしてワシに告げる。
「王様。敵の矢、どういう仕組みかわかりませんが、かすっただけでこの威力。まともに何発も当ったらお命がありませんぞ!」
「なんだと!?」
「ここは一旦・・・お退きください!」
「ワシが退けと言うのか!」
今退いたら。
ワシは。
ワシは、ユーリの奴との戦いに負けたことになるんだぞ!
なのに。
「お、王様がやられたぞー!」
「ど、どうすればいいんだ!?」
「もう駄目だ、逃げろー!」
「こら、逃げるな!戦え!」
軟弱な兵め、勝手に逃げ始めよって。
逃げる奴はぶった切ってやる!
と言いたいところだが、肩に力が入らない。
「駄目です!兵の士気がもう限界です!」
そこへ、伝令が思わぬ事態を次々と告げる。
「お、王様!大変です!敵の後方から、新手の援軍が近づいています!その数、およそ1000!」
「!?」
「森の中の味方部隊が崩れました!敵は森の中から、我々の背後を目指すつもりです!このままでは囲まれます!」
カカカカン!
「ぐわっ!」
「ぐほっ!」
伝令が、森の中から飛んできたナイフで次々と倒れる。
スコーピンが、絞り出すように決定的な一言を告げる。
「王様、残念ですが・・・この戦い、我らの負けにございます!今はひとまずお逃げください!」
「おおおのおおおれええええええ!」
握ろうとしたこぶしに、力が入らない。
敵が突撃して来るのがわかる。
ユーリの奴も、反逆者の首領の女もいる。
良く目を凝らすと、森の中から様子をうかがう、金髪の女を見つけた。
―あれが最初にユーリの仲間になった、サーシャ・ロスラヴィか―
だが、味方はもはや総崩れ。ワシも傷つき、どうしようもない。
奴の大事な人間が、ここまで勢ぞろいしていると言うのに。
今のワシには、最早手も足もでない。
―今に。
「今に見ておれユウゥゥウウリイイイィィィィ!!!!」
≪ユーリサイド≫
王が負傷したことが決め手となり、敵は崩れ始めている。
戦意を無くした敵を追っ払うだけなら、たとえ剣や槍が無くともできる。
そう。たとえば、強化魔法をかけただけの、鋤や鍬を持った農民であっても。
「領主代行殿!お待たせしました!我々ただの農民も戦いに参加します!」
俺は先頭に立ち、杖を剣に持ち変える。
機は熟した。
「今だ!押し返せ!突撃!」
「ユーリさん。私も、行きます!はあああああ!」
「ウラアアアアアアアアアアアア!!!」
俺とともに、イオナも突撃する。
頭上を飛び越えて行くサーシャ隊の矢は、踏みとどまろうとする敵を次々と葬っていく。
俺は余り楽観視はしたくない。
それでも、今の状況を言い表すなら。
敵は総崩れだ。
「ユーリさん!王を討ち取りますか!?」
「いや、深追いはしなくていい。ロスラヴィから叩き出すだけで十分だ。」
「全軍、森を抜けてコスキまで敵を追撃。それ以上はいい。」
逃げる敵を蹴散らしながら、俺達は隣村のコスキまで進んだ。
ロスラヴィの東 コスキ村。
敵は逃げ去ったらしく、もうどこにもいなかった。
「我々は・・・勝ったのか?」
「そうだ。勝ったんだ。王を追い返したんだ!」
「やったー!」
「勝った!勝ったぞ!!」
「領主代行ユーリ様の力で、王の兵を打ち負かしたんだ!」
ワアアアアアアア!
あたりの群衆から、すごい歓声が上がっている。
万歳!万歳!万歳!
「ユーリ様!やりましたね!ユーリ様の勝ちです!」
サーシャは俺に飛びついて抱き着く、
「うおっ!もうサーシャ、危ないじゃないか。」
「きゃはははは!いいじゃないですか!」
サーシャは抱き着きながら、俺を振り回す。
そしてそのまま、俺の隣にいたイオナに目を向けた。
「ほらねイオナさん、この通り。ユーリ様は強いんです!」
「私も一番近くで見てました。ユーリさん、あなたのおかげで、私は、まだまだ頑張れそうです!」
イオナが上目づかいで見上げてくる。
「イオナもよく頑張ったな、」
わしゃわしゃ。
イオナの頭をなでてやる。
「あ・・・ユーリさん、ちょっと恥ずかしいです・・・。」
じとー・・・
あれ?サーシャが微妙な目線で見ているのは気のせいかな?
「ユーリ殿。敵は補給物資を置いて逃げ出したようです。」
「よし!ミーリャさんいい物見つけてくれた!館まで運んでくれ。」
「かしこまりました。」
「ミーリャさんも、お疲れ様。今日の勝利は、ミーリャさんの活躍もあってこそだよ。」
「私はただ、ロスラヴィの門番の務めを果たしただけです。ここまで皆をまとめ上げ、ユーリ殿にしか使えない魔法の力で敵を打ち破ったユーリ殿こそ、今日の勝利を誇るべきです。」
ミーリャさんはそう言いながら、俺に抱き着くサーシャと、頭をなでられてるイオナを見ている。
「・・・ミーリャさんも、こっちで喜びを分かち合う?」
サーシャとイオナを見て。
「いえ、今は結構です。その変わり、この前のように・・・夜、ご一緒してもよろしいですか?」
「なっ!
ミーリャさんの言い方ァ!?
「この前ってユーリ様一体ミーリャさんと何があったんですか!?」
「ミーリャさーん!?」
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