第17話 【ゴリツィン王サイド】戴冠式の悲劇 後編
ワシの演説中に、突然城門が乱暴に開かれた。
何か喚き散らしながら、群衆がなだれ込んでくる。
いや。
今やワシにも、奴らが何を言っているのかはっきりとわかる。
「我々にパンをよこせ!」
「税金が高すぎるぞ!」
「ゴリツィンは国を私物化するな!」
「国民を全く顧みない戴冠式を中止しろ!」
どう聞いても、ワシを歓迎する声ではない。
「なっ!」
これは一体!?
「これは一体、どう言うことだ!!!!!」
いや、流石に言わなくとも見ればわかる。
「王様に反対するデモ隊が、城へ押し入ってきました!」
押しとどめようとした見張りの兵士たちが、デモ隊の数の前に押しのけられていく。
数千、いや数万はいるだろうか。
それだけのデモ隊が、あろうことか城に押し入ってきたのだ。
それだけにとどまらない。
ワシの戴冠を祝うために動員した群衆。
その群衆が。
あろうことか、デモ隊に同調を始めた。
「・・・そうだ、こんなのはおかしい!」
「大体、王子だったイワン様を殺したのだって、ユーリとかいう従者じゃ無くて・・・」
「今『王』になろうとしている、ゴリツィンの仕業じゃないのか?」
「いや、そもそも王子様は本当に亡くなられたのか?それだって怪しい。実はまだ生きておられるんじゃあ・・・」
「なるほど!それで杖が無いのか。」
「杖は王子様がまだお持ちなんだ。」
群衆の流れは、止まらない。
「王様!あなたが正しい王なら、前の王様かイワン様から宝具の杖を受け継いでいるはずだ。それをお見せいただきたい!」
「そうだそうだ!正当な王の証を!」
「出せないのなら、あなたは王ではない!われわれ民衆は認めないぞ!」
―おのれ!
―おのれおのれ!!
―おのれおのれおのれ!!!
「貴様ら、ワシを誰だと思っておる。この!!無礼者共がぁぁぁ!!!!!」
はらわたが煮えくり返る。
「弓隊、前へ!放て!」
タマンスキーがデモ隊を弓矢で牽制する。
弓がデモ隊の先頭の列に命中し、何人かが倒れた。
それを合図に、デモ隊が投石を始めた。
ワシの目の前まで石が飛んで来る。
「王様!中へ避難を!」
そばに控えていたモリノフがワシを部屋の中へいざなう。
今日の為に。
今日の為に、ワシがどれほどの苦労をしてきたことか。
10年前、疫病が流行した時は、ワシのみが極秘に治療薬を入手し、薬が手に入らぬ政敵共は次々と疫病に倒れた。
前の王は倒れ、当時のロスラヴィ次期領主もその時に死んだはずだ。
用意周到な工作の末、宮廷内をタマンスキーやモリノフ、プガチョフといったワシの派閥に染め上げた。
王が危篤になるや、ワシが王になるために唯一邪魔だった王子イワンを片付けた。
それなのに。
一体この有様は何なのだ。
もう戴冠式は滅茶苦茶だ。
―愚民どもめ。絶対に許さんぞ!
王宮内では早速作戦会議が開かれた。
「現在、デモ隊は南側の門から侵入し、王宮の庭を占拠しております。しかしながら、北側の裏口はふさがれてはおりません。王様が脱出されるのならば、北側の裏口から・・・」
「ワシは逃げも隠れもせん。」
モリノフの提案を、ワシは拒絶する。
「王様!軍は王様の味方にございます!生意気な愚民どもを黙らせる許可を下さい!」
タマンスキーがワシに進言した。
「・・・いいだろう。あらゆる武器の使用を許可する。兵の半分は奴らの前に。もう半分は背後に回り込ませろ。」
「背後に?前に立ちふさがって蹴散らすのではないのですか?」
疑問を呈したタマンスキーに、ワシは命令を告げる。
「いいや違う。前後から挟み撃ちにして・・・」
ワシに恥を書かせた奴等を。
「奴等を・・・皆殺しにしてしまえ!!!」
「は、ははっ!」
武装した兵に護衛され、ワシも改めて外にでる。
「現在、デモ隊の更に南側、ヤクマン地区より、迂回して兵を回り込ませております。」
「よし。前方の兵は奴らを引き付けろ。ワシ自ら指揮を執る。」
タマンスキー率いる南のヤクマン地区からの兵が、デモ隊の背後をついて挟み撃ちにする。デモ隊が動揺し始めた。
「新手の兵が来たぞ!」
「なぜ後ろから!?」
「囲まれた!」
「駄目だ逃げろ!」
―今更逃げようとも、もう遅い!―
タマンスキーが号令を出す。
「王様のご命令だ!反逆者を皆殺しにしろ!突撃!」
ウラアアアアア!
逃げ場を失った奴らは、前方、ワシの方に押し出てくる。
「逃がすな!奴らを殲滅しろ!」
ワシ自らも剣をふるう。
暴徒共を取り囲んだ兵が、次々と暴徒を血祭りに上げて行く。
やがて、ワシに刃向った暴徒は、一匹残らず完全に殲滅された。
「ワシに刃向うからこうなるのだ。ワシの偉大さを思い知ったか。」
いや、まだ終わってはいない。
「・・・今回戴冠式に動員した奴等は、どこから来たのだ。」
タマンスキーに問う。
ワシの輝かしい姿を見せてやろうと言う寛大な心を、愚かにも踏みにじった奴等だ。
「ハモウ・ダニラ・ザモの各地区から集めた者どもにございます。」
「よし、その地区を兵で包囲し、奴らを皆殺しにしろ。」
「は・・・?」
「ワシに刃向いおったのだ!老人子供とて容赦するな!」
「ははっ!」
参加した奴も、参加していない奴も同罪だ。
ワシの命により、各地区に兵が差し向けられる。
よりにもよって王であるこのワシに刃向ったのだ。
この国に隠れられるところなど存在しはしない。
兵たちは家の中まで突入して奴らを探し出し、暴徒共を討ち取っていった。
文字通り、地区ごと根絶やしだ。
数日後。王宮。
「これでようやく反逆者は全て片付いた。」
せいせいした。
戴冠式はあんなことになってしまったが、ワシに刃向うものの運命を、多くの者が思い知ったであろう。
もう刃向う者はいないだろう。
そんな時。
折角いくらか機嫌が直ったと言う所に、召使いが慌てて駆け寄ってきた。
「王様!一大事です!」
「・・・何事だ。」
「南部のトゥリアで、市民が反乱を起こしました!」
お読みいただき、ありがとうございます。
「面白かった!」
「ここが気になる!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の評価お願いいたしします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直な感想でもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何とぞよろしくお願いいたします!