第16話 【ゴリツィン王サイド】戴冠式の悲劇 前編
戴冠式前日。王宮。
「ワシの目の前に、待望のユーリの首が・・・」
・・・
「無いではないか!!」
「申し訳ありません!!」
モリノフが頭を下げる。
「ユーリ暗殺に失敗した上その暗殺者に逃げられ、更に人質のはずの家族まで取り逃がすとは!!モリノフ!貴様ワシに二心があるのではあるまいな!!」
「いえ、決してそのようなことは!」
何故だ。何故こうもうまく行かない!
明日はワシの華々しい戴冠式だと言うのに、何故こんな水を差すような出来事が続くのか。
「ろ、朗報も3つお持ちしました。」
「なんだ、言ってみろ。」
モリノフは恐る恐る報告を始めた。
「まず、ユーリ・オリョノフの件について、奴をかくまったと疑われる反逆者を、合計1万人ほど逮捕しました。全員が濡れ衣を主張しておりますが、有罪でしょう。直ちに処刑いたします。」
「2つ目ですが、裏切り者ミーリャ・リスキノヴァに同行していた監視役の報告より、そのユーリの居場所を遂に特定しました。どういう経緯かはわかりませんが、何故かロスラヴィ領の領主代行に収まっているようです。」
「なんだと!」
奴がロスラヴィ領主の代行になっているだと!?
「なぜそんなことに?」
タマンスキーもびっくりしている様子だ。
「最後に。2つ目の件とも関係するのですが・・・」
モリノフは一旦間合いを空けて報告を続けた。
「ユーリと行動を共にしていたという、例の金髪の娘の出自が判明いたしました。」
「ほう。どこの誰だ。」
「奴がなぜか収まっているロスラヴィ領主の孫娘、サーシャ・ロスラヴィでほぼ間違いないと思われます。」
「それは確かか?」
「はい。何度か偵察のために小部隊をロスラヴィに送り込みましたが、ユーリと同行してい
る金髪の女は、現地で『サーシャ』と呼ばれていたそうで・・・」
「偵察?ユーリを暗殺しようとして、返り討ちに会っただけじゃないのか?」
「ぐ・・・タマンスキー将軍、貴公は中々痛い所をついてくるな。」
「ロスラヴィ・・・ロスラヴィ・・・ロスラヴィ・・・!!宝具もユーリの奴も、みなロスラヴィで結びつくのか!!」
―今に見ておれ・・・!
「まあまあゴリツィン王、ご即位おめでとうございます。王の即位は、我がシヴェチアにとっても喜ばしい事です。」
そう話しかけてきた長身の男は、この国の北方に位置する大国、シヴェチア王国のガーレ王だ。
「おお!ガーレ王ではありませんか。よくぞ来てくれましたな。」
「我がシヴェチアとリューリク王国は同盟国のよしみ。これからも末永くしていきましょう。」
そう言うと、ガーレ王は他の面々に話しかけに行った。
「王様。ご即位おめでとうございます。」
次にあいさつに来たのは、ひげ面の中年だ。
「大貴族ラマナウ家の当主ではないか。うむ。よろしい。」
その後も、貴族が次々に挨拶に来る。
・・・そうだ、今やワシは王なのだ。
頼もしい味方がいる。
使える僕もいくらでもいる。
ロスラヴィなどいつでも一ひねりだ。
高々ユーリごときに、何を臆しておるのだ。
翌朝。王宮。
ついに、ついにこの日が来た。
今日はワシの戴冠式だ。
この日をどれほど待ち望んだことか。
王宮の前には、たくさんの民がいる。
王都の民を地区単位で呼び寄せたのだ。
その間本来の仕事は放っておかれているらしいが、何も問題は無かろう。
そんなことよりも、ワシの輝かしい戴冠式を、この目で見られると言うのだ。
愚民どもにはあり余る光栄であろう。
ザッザッザッザッザッザッザッザッ!
王宮に呼び寄せた数万の軍が目の前を行進する。
ふん、タマンスキーの奴め、顔がにやついておるではないか。
自分が観閲行進を取り仕切っている嬉しさを隠しきれないと見える。
ワシが命令ひとつで動員した市民が、その後に続いて行進する。
その顔はなぜか強張っているように見える。もう春だと言うのに、この寒がりどもめ。
軍隊と市民によるパレードの後、いよいよ戴冠のための儀式が始まった。
「神よ、王を偉大にしたまえ。神よ、国を護りたまえ・・・」
この国の教会の長、ピレラ総主教が祈祷する。
「・・・では新国王陛下。玉座へ。」
ふんっ。
ワシは、王座に着座した。
前の王が病気になって以後、10年以上座る者がいなかった王座にだ。
うむ。なかなかに座り心地が良い椅子だ。今回のために、わざわざ装飾を豪華にしただけのことはある。
「・・・・・・・」
祈祷の呪文を唱えながら、ピレラ総主教がワシの体に、聖油を注いでいく。
そして、ワシの為に特注で作らせた赤色のマントをまとう。
ここまでは、代々の王も行って来たそのままの儀式だ。
だが。
「では、王冠を。」
総主教は王冠を差し出す。
「・・・うむ。」
数々の宝石で作られた、ワシの為の特注の王冠だ。
国家予算1年分らしいが、そんなことはどうでも良い。
問題は、マントをまとってから、王冠を被るまでの間。
大事な儀式を、一つ省略しなければならなったのだ。
―本来ならば、マントをまとった後、宝具の杖を授けられ、しかる後に王冠を被るのが正しい手順だ。
だが、杖はここには存在しない。
本来王から王子へと受け継がれているはずだが、ユーリの奴が持ち去ってしまったからだ。
―いまいましいユーリめ。
マントの後、すぐに王冠をかぶったワシの姿を見て、群衆が騒ぎ始める。
―愚民どもめ、気付きおったか。
「お、おい、今の見たか・・・?」
「杖を授からずに、すぐに王冠を被ったぞ。」
「宝具の杖が王都に無いという噂は本当だったのか!」
「あれを持つのは王の証。宝具を持たぬ王など初めてだ・・・」
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ。
騒ぎは収まらない。
―ふん。宝具くらいでなんだというのだ。
ワシはバルコニーにたって演説をはじめた。
「リューリクの国民諸君。ワシこそが、このリューリク王国第22代国王、ゴリツィンである!諸君らは、偉大なるワシが王となったことを、さぞかし喜ばしく思うがよい!ワシは・・・」
ワシの演説が続いている時だった。
相変わらず、騒ぎは静まらない。
待てよ。
よくよく耳を凝らすと、宝具についての話はとうに聞こえなくなっている。
そのざわめきは、遠くから聞こえてくる。
―城の外からだ。―
そんなはずは無い。
ワシが動員した群衆は、皆城の「庭」にいるはずだ。
城の「外」に集まれと命令した記憶はない。
なら、奴らは一体・・・?
「どうなっている!大至急外の様子を見て来い!」
タマンスキーが焦りながら指示を出す。
「・・・外が騒がしい様だが、ワシはそんなことに動じはせん。ワシはこの世で一番偉大な王にして・・・」
「王様、大変です!」
見張りの兵士がワシの演説を遮る。
「何事だ?」
ワシの演説を遮るとは、タダではおかんぞ。
その後ろで。
ドーン!
閉じかけていた城の門が、乱暴に開けられた。
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2021年5月7日改稿 リューリク王→ゴリツィン王に修正。