第15話 部隊編成
マギリョを出てから4日。
俺達は、武器を満載した馬車に乗ってロスラヴィに帰ってきた。
「ユーリ殿、サーシャ嬢、おかえりなさいませ。」
「ただいま。」
「かえりました。」
屋敷に着くと、ミーリャさんが出迎えてくれた。
「留守中何かあった?」
「王都からの襲撃を、2回ほど撃退しました。他には特に何も起きていません。」
「やっぱりちょくちょく王都から兵が来るのか。」
「ミーリャさん、ありがとうございます。」
村人たちには、モンスター退治だけでなく、王都からの兵がロスラヴィに侵入するのを防いでもらわないといけないな。
つまり、単なるモンスター狩りではなく、『兵隊』を募集することになりそうだ。
なんだか王都はきな臭いみたいだし。
その日、俺は村の酒場に住民の代表を集めて宣言した。
「モンスターだけでなく、王都の攻撃からこのロスラヴィを守るためにも、武器を持って戦ってくれる人を募集します。」
「今大臣・・・新王の軍は戴冠式のため王都に集結しているらしいので、今日明日にも危ないと言うわけでは無いですが・・・」
「遅かれ早かれ、このロスラヴィに攻め寄せてくると言うことですな。」
「そうです。そこで、手始めに、50人ほど募集しようと思います。希望者は1週間後にこの村の広場に集まってください。」
さて、どれだけ集まるかな。
その夜。俺が庭の長椅子に腰かけて空を眺めていると、ミーリャさんと出くわした。
「横、座ってもいいですか?」
「うん。」
二人で、空の星を眺める。
そういえば、ミーリャさんも酒場で募集したんだったな。
事情があって俺を探していたとはいえ、あの時はまさか3日で戦えるメイドさんが来るとは思ってもいなかったな。
「悪いね、来て早々一人にさせちゃって。」
「いいのです。主の留守を預かるのは、メイドの使命ですから。これからも、何なりとお申し付けください。」
「うん。頼りにしてる。」
ミーリャさんは本当に頼りになる。メイドとしても、門番としても。
そんなミーリャさんだったが、少し声量を落として言う。
「でも・・・少し、寂しかったです。」
寂しい、か。
これまでミーリャさんは姉としてずっと気を張ってきた。
誰にも甘えることなく。
そんなミーリャさんだからこそ、寂しい時もあるのだろう。
「だから・・・ユーリ殿が遠くから帰られた時は、少しの間でいいので、こうさせてください。」
そう言うと、ミーリャさんは俺に近寄り、腕を絡めて抱き着いてきた。
「うぉっ。いきなりだな。」
「いけませんでしたか?」
「いや、いいよ。」
いいんだけど。
ミーリャさんの、色々な所が・・・その・・・
「当たってるんだけど・・・」
「ふふっ。あててるんですよ。」
なっ!
「・・・なんて言ったら、どうします?」
ミーリャさんはそう言いつつ、微妙に体をくねらす。
ふにっふにっふにっ
や、柔らかい感触が、つたわってくるんだけど・・・!
張りのある、ふくよかな胸。
やわらかい二の腕。
そのあたりの感触が、心地よい。
「あのー。ミーリャさん?」
ふにっふにっふにっふにっ
「ミーリャさーん?」
ふにっふにっふにっふにっ
「いいじゃないですか。もう少し、こうさせてください。・・・サーシャ嬢もいないことだし。」
―いやサーシャ関係ある!?―
心臓がどきどき言っている。
何というか・・・これはこれで・・・そそるものが・・・。
そんなやましい事を考えながら、俺はしばらくの間ミーリャさんに密着されていた。
1週間後、村の広場。
兵士募集に応じた村人が集まっている。
集めるのは50人ほどの予定だったんだけど・・・
「うーん、実に腕が鳴る!」
「戦か!わしゃこう見えても昔傭兵やっとったんじゃよ。」
「僕、武器なんて初めてだけど、頑張ろう。」
「わたしも。」
「大丈夫、領主代行様もサーシャ様も強いお方。噂だとミーリャ様も元軍人らしい。」
・・・
黒山の人だかりだ。
どう見ても、それ以上の数が集まっている。
「たくさんいますね。何人くらいいるんでしょうか?」
サーシャもびっくりしている。
「数えてみよう。えーと、10・20・30・・・」
・・・。
どうしよう、多すぎるぞ。
300人もいる。
ロスラヴィの人口が1800人だから、6人に1人が志願した計算だ。
「何人採用するか、一回戻って考えさせてください。」
その日はお開き、明日また集まってもらうことになった。
その夜。俺はサーシャ・ミーリャさんと食事をしながら、今日の件について考えていた。
「さて、どうしようかな。」
予感だが、この先、多くの兵士が必要になることがあるかもしれない。
そう考えると、兵力は多い方が良い。
「皆さんになってもらったら、ダメなんですか?」
「サーシャの言うように、全員なってもらえれば一番いいんだけど、それだけたくさんの人を兵士にしたら、農地を耕してくれる人がいなくなるからね。」
「あーそうですよねー。」
一番は、両立してもらえるのが良いだろう。
何しろ、身近にそれをこなせている人がいる。
「そう言えば、ミーリャさんは家事を完璧にこなしながら、鉄壁の門番を務めてるけど、どうやってるんだ?」
「私ですか。そうですね・・・」
ミーリャさんは少し考え込んで答える。
さては、当たり前にこなしていて、気付いていなかったんだな。
「私の場合、常に服の中にナイフを隠し持っています。」
あの投げナイフか。
「ただ、私の場合、昔からの慣れで、攻撃に特化した戦い方をしています。だから、鎧や盾などの防具は一切身に着けていません。」
「防具は重いですもんね。」
サーシャも防具をつけていないが、これは後衛だからこそだ。
前衛で剣や槍を持つ人はそういう訳にはいかない。
俺は考え・・・
「そうだ。いい方法があるじゃないか。」
翌日。俺は広場に志願者全員を集めて宣言した。
サーシャとミーリャさんも横で俺の話を聞いている。
「集まってくれた皆さん。全員を採用します。・・・ただし、兵隊しながら、農作業もしてもらいます。」
「両方か・・・ずいぶんと忙しそうですが。」
「それはどうやってやるのですか?」
「普段は交代で警備にあたり、非番の時は農作業してください。
有事の時だけは出動してもらうかわりに、税を半分にします。」
「皆さんには、剣・弓・槍の内希望する武器を持ってもらいます。」
「警備している時は、この盾を支給しますが、数に限りがあるので、非番の時は返してください。」
盾もあるにはあるが、数が少ない。
そして、これからが本題だ。
「普段の防具は、これを支給しようと思います。」
俺は、自分が着ている少し厚めの服を示した。
「領主代行様。・・・軽そうですが、防御力は大丈夫なのですか?」
志願者が心配そうに聞いてくる。
「今俺も、この服を着ています。この通り、種も仕掛けもありません。」
俺はそういうと、服をめくって、肌を見せる。
「サーシャ。ちょっとクロスボウで俺を撃ってみて。」
「ええっ!?」
「いいからいいから。」
「わ、わかりました。では・・・」
バシュ!
胴に矢が刺さる。
それを、
ぷすっ。
いとも簡単に引き抜いた。
「おおっ!」
「太そうな矢が、あまりダメージを与えていない!?」
どよめきがおこる。
「領主代行様。その・・・平気なのですか?」
「ちょっと衝撃はあるけど、全然大丈夫です。」
サーシャもおろおろしている。
「農作業する時は、その服を着て、常に武器を傍らに置いておいてください。」
「なるほど、そうすれば、いざと言う時、すぐに出陣できる。」
「さすがは領主代行様だ。素晴らしい防具をお持ちだ。」
浮かれる人々に、俺は少しだけ釘を刺しておく。
「ただし、その服は特別な物で、俺がちょっと細工をして効果を発揮するようになっています。なので、俺がいないところでは、普通の服と変わらないと思ってください。」
「あと、その服にも限度があるので、無理な戦いはしないように。」
その夜。俺達三人は、屋敷で今日のことを振り返る。
「なんか、領民の皆を騙すみたいな感じになってしまったな。」
「ユーリ様も同じ条件なんですから、だましたわけでは無いと思いますよ。」
領民に支給した服。
パルスカ製の多少強い繊維らしいが、基本的にはただの厚手の服だ。
「ユーリ殿と共に戦われるときには、確かにあの服でも効果はあるのですから、これは必要なことです。」
あの服は、ただの気休めだ。
矢を防ぐ効果は、ないと言っていいだろう。
「普段着のままよりも、『何か防具がある』という事で、心理的効果は計り知れないものがあります。たとえそれがユーリ殿の魔法によるものだとしても。」
「結局それだよな。」
魔法。
今日は俺自身に『防御力強化』の魔法をかけていた。
それが、サーシャが放ったボウガンの矢を俺が防げた理由だ。
「魔法の存在、外には悟られたくないからな。」
これは、王族の末裔に伝えられた秘儀。
親しい人以外に存在を伝える訳にはいかない。
「いつか、魔法の存在を大っぴらにできる日が来ればいい。・・・いや、俺がそんな世の中を作ってやるんだ。」
俺は新たな決意を固めた。
翌日から、早速訓練が始まった。
訓練は経験のあるミーリャさんが主に指導し、村人には傭兵出身者もいたので、その人たちにもまかせる。
「それで、割り振りの話なんだけど、俺の部隊が100人、ミーリャさんの部隊が100、そして残り100人は・・・」
俺は少し間をおいて。
「サーシャの弓隊な。」
「わ、わたしですか!?」
「うん。」
サーシャはびっくりしている。
「わたし、指揮なんてできるかなあ?皆さん、私よりも年上ですよ?」
「大丈夫だよ。そもそも、ここはサーシャの家の領地なんだから、みんな言うことを聞いてくれるよ。ミーリャさんはいいよね?」
「はい、ユーリ殿。」
二つ返事だ。
「ううーっ。・・・わたしも、がんばります!」
そんなミーリャさんを見てか、サーシャもやる気になってくれたようだ。
こうして、ロスラヴィに計300人の部隊が誕生した。
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