第14話 暴れ熊
ウオオオオオ!!
バチーン!
熊をつなぎ止めていた鎖が、根元からちぎれた。
一瞬、あたりはしんと静まり返り。
次の瞬間、人々は何が起きたか、理解した。
「おい、鎖がちぎれたぞ!」
「きゃー!」
「に、逃げろ―!」
人々が逃げ惑う。
「ぐすっ・・こわいよお・・・」
周囲から人の姿が消えた中で、女の子が一人泣いている。逃げ遅れたようだ。
「ユーリ様、あの子!」
「きのうの女の子だ!」
「マリア!」
騒ぎに気付いて駆けつけた店主も気付いたようだ。
タイミング悪く、熊が動き出す。
自由になったことに気づいてしまったようだ。
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!
唸り声で空気が震える。
こんな時に限って、盾は宿に置いてきている。
―仕方ない、一発食らう覚悟で突っ込むか!―
俺は杖を取り出し、熊と女の子の間に入る。そして、自分と女の子に『防御力向上』をかけようとした、その時。
バシュ!
熊の足に矢が命中した。
「ユーリ様!」
建物の中から、サーシャがクロスボウで矢を放っていた。
熊が向きを変える。自分に矢を当てた犯人を捜しているようだ。
「今のうちに逃げて!」
「お兄ちゃん・・・ありがとう!」
少女が建物の中に逃げ込んだのを確認して、俺は昨日買ったばかりの剣に構えなおす。
「あの熊、倒してしまっても構いませんね!」
建物の中にいる見世物小屋の主人は小さくうなずいた。
『攻撃力上昇!』
『防御力上昇!』
『俊敏性上昇!』
俺自身とサーシャに支援魔法をかける。
「ほら!こっちだ!」
熊にあえて背を向けて走り出す。
サーシャから俺に狙いをかえて突進してくる。
狙い通りだ。
慎重に距離をはかり、
とびかかられる直前でさっと横に飛び、一撃入れる。
ザクッ!
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!
再び熊が吠えた。
「わたしも・・・えいっ!」
バシュ!
サーシャが放った矢も尻に刺さる。
一撃で致命傷には程遠いが、確実にダメージを与えている。
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!
ザクッ!
バシュ!
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!
ザクッ!
ウオオオオオオオオオオオオオオオ!
ザクッ!
バシュ!
すれ違いざまに横にそれ、一撃を加え続ける。
時々サーシャの矢も命中してダメージを加える。
二か所からの攻撃に翻弄され、どちらの目標に集中すべきか迷っているようだ。
そうこうするうちに、次第に熊が弱ってきた。
サーシャの矢も次第に当たるようになってきた。
「サーシャ!頭を狙って!」
「はい!」
俺は熊と正面で対峙する。
「えいっ!」
バシュ!
後ろから飛んできた矢が。頭に刺さる。
ウオオオオオオオ!
熊がもがき、俺から視線がそれる。
―今だ!ー
剣を構え、熊に向かって突進する。
「うおりゃああああああ!」
ザク―――!!
ウオオオオオオオ!
続けざま!
「とどめええええ!」
ザク―――!!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ド――――ン!
ようやく巨体が倒れた。
「わあああ!」
「やったーー!」
「熊が倒れたぞ!助かった!」
あちらこちらで大歓声が上がった。
「やりましたねユーリ様!」
「うん。サーシャもお疲れ。」
店主と娘が駆け寄ってくる。
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」
「ああ、娘が無事でよかった。お二人方には、何とお礼申し上げて良いか。」
「当然のことをしたまでですよ。」
サーシャのクロスボウの実戦経験も積めたしな。
「本当にありがとうございます。貴方様のおかげで、市民は救われました。」
「えーと、あなたは?」
「申し遅れました。私、この街の市長です。」
わお。この後武器の話しに会いに行こうと思っていた市長だ。
「なんでも、領民の為に沢山の武器をご所望とお聞きしました。わが街よりのお礼として、ご所望の武器、市長から直々に進呈いたします。」
「ほんとですか?こちらこそありがとうございます!」
どうやって市長を説得しようと思っていたのに、あっさり武器が手に入ってしまった。
「娘を助けてくださったお礼です。お代も結構でございます。」
武器屋の主人もそう言ってくれた。
「いえ、流石にそれは悪いので、ちゃんと買わせてください。」
「そうですか。では、ご所望よりも多めにお渡しいたします。どうぞお使いくださいませ。」
俺達は馬車に予定の倍以上の武器を満載し、マギリョの街を後にした。
「色々あったけど、楽しかったな。」
「はい。」
「サーシャの武器も、無事手に入ったしな。」
「はい。ユーリ様が選んでくださったクロスボウ、大事にします。」
サーシャはクロスボウの入った袋をなでながら言った。
「ユーリ様。」
「うん?」
「わたし、これからもっともっと、ユーリ様のお役にたつように頑張ります。」
透きとおった眼で俺を見上げながら、サーシャはそう言った。
「うん。これからもよろしく。」
「はいっ!」
サーシャは元気いっぱいにうなずいた。
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