第13話 マギリョにて
正直、すんなりいくとは思っていなかったが。
「剣・槍・弓を50ずつですか。・・・私個人的には売って差し上げたいのですが、それだけの量となると、この街の市長にとがめられるかもしれないので、ちょっと・・・。」
俺はねばり強く交渉を続けたが、結局5つずつなら・・・という所で、話が平行線になってしまった。
日も暮れてきたので、その日はいったん宿屋に引き上げることにした。
明日、再交渉だ。
「武器屋の人、どうしてしぶったんでしょうか?」
「俺達は外国人、ましてや、パルスカの『敵国』の人間だからね。無理もないよ。」
「どうするんですか?」
「いくつかの店で買えるだけ買うか、さもなくば・・・大目に金を積んで、無理にでも売ってもらうかだな。」
もちろん、こうなることは想定していた。
そのため、金も多めに用意してある。
「ま、とりあえず夕食でも食べよう。」
「そうですね、わたしもお腹へっちゃいました。」
この宿屋は、1階に飯屋が入っている。
せっかくなのでパルスカの郷土料理を注文した。
「このキノコのスープ、おいしいです!」
「確かに。俺も初めて食べたな。」
サーシャは見たことない食事に感動していた。
「ユーリ様のおかげで、わたしとうとう、外国まで来れちゃったんですね。」
「来ちゃったね。」
外国って言っても、王都よりもずっと近いけど。
「ちょっと前まで、館から出たこともなかったのが、もうよその国まで。なんかまだちょっと夢の中にいるみたいです。ありがとうございます、ユーリ様。」
サーシャは笑顔ではにかんだ。
そんなサーシャを見ながら、俺は考えていた。
武器屋との交渉が終わったら、少しパルスカでゆっくりしてもいいかもしれない。
サーシャは、首都の病院にいるロスラヴィ卿―サーシャの祖父―にも会いたいだろう。
ただ・・・パルスカの首都ヴァルソヴァまでは西に750km。ここから馬車で更に十日はかかる。
ミーリャさんがいるとはいえ、流石にロスラヴィを一月近く留守にしたくはない。
「ユーリ様、どうしたんですか?なんだか難しいお顔をされていますが。」
「うん?俺そんな顔してた?」
「はい。」
気付かなかった。
「・・・せっかくパルスカに来たけど、お祖父さんに会っていく?」
俺は遠慮がちに切り出す。
時間は・・・まあ何とかなるだろう。
「また、今度でいいです。村人の皆さんの武器を買ったら、そのままロスラヴィに帰りましょう。」
ところが、サーシャはあっさり帰ると言いだした。
「いいの?」
「はい。ユーリ様は帰りたいのでしょう?」
「正直・・・ね。」
「なら、わたしもそれでいいです。ユーリ様について行きます!」
「ありがと。」
他の客の話が聞こえてくる。
「聞きました?リューリクの新しい王。近く戴冠式を開くんですってね。」
「はい聞きましたとも。なんでも結構豪華な式らしいですね。」
「リューリクって今あまり経済が良くないのに、そんな派手な式やって大丈夫なんですかね。」
「国民はたまったもんじゃないですな。自分なら絶対住みたくない。」
「全くだ、パルスカの国民でよかったよかった。」
あの大臣の戴冠式は近いのか。
何か起きるのかもしれない。
考えたくはないが、胸騒ぎがする。
やはり、パルスカに長居するわけにはいかないな。
俺達はその後、二階の寝室に引き上げた。
・・・サーシャと同室だが、ベッドは2つだから別にいいだろう。
下の食堂から、軽いワインとデザートを貰ってきてある。
サーシャも何か飲み物を持ってきたようだ。
サーシャは「よし。」と何かの覚悟を決めて、目の前にあった飲み物をグイッと飲み干した。
ぐいっと、飲み干した?
・・・何を?
「サーシャ、なに、飲んだの?」
「お酒ですよ~」
―ですよねー。―
しかも匂いからすると、結構強い奴じゃないかそれ!?
サーシャの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。
なぜ、こうなることわかって飲んだ?しかも勢いよく。
「わたし、いきます!」
「いや、行くってどこに!?」
サーシャは勢いをつけてとびかかってきた。
「うわっ!」
ベッドに押し倒された。
「・・・りゅうりしゃま、わあし、まへまへん(ユーリ様、わたし、まけません)!」
負けない?何に?誰に?
混乱する俺を尻目に、サーシャは俺に密着したままだ。
甘ったるい、いい匂いがする。
「すんすん・・・りゅうりひゃま(ユーリさま)・・・いい匂いがします・・・。」
―サーシャが言うのそれ!?―
「りゅうりひゃま・・りゅうりひゃまいはら・・・・あーし(ゆーりさまになら、わたし)・・・」
どう聞いても際どいことを口走ったかと思えば、そのまま服を脱ぎだした。
俺を押し倒したままだ。
「サ、サーシャ!とりあえず落ち着け。」
のけようとするが、サーシャが抵抗し、足を絡めてくる。
―い、意外と力が強い!―
「おりふひへあふひょう(おちついてますよー)。」
俺の目の前でそんなことを言う。
駄目だ、完璧に酔っぱらっている。今自分が何をしているのか、わかっているのだろうか。
「ひまあらあれもひまへふ(今ならだれもいません)!」
―いや誰か来てくれ、ほんとに。―
もちろん誰も来ない。
サーシャの色々な部分が密着し、その柔らかい感触が俺の理性を奪っていく。
極め付けに。
「わはしを・・・らいてくらはい(だいてください)・・・」
―どこでそんな言葉を覚えた!?―
あまりそういう事ばかりしていると、俺自身も色々とまずい。
だからといって、欲望のまま流されるのはもっとまずい。
俺が、最後の理性をふりしぼってサーシャを押しのけにかかったときだった。
「ゆうりさまぁ・・・・すぅ・・・すぅ・・・」
「あれ?サーシャ?」
サーシャをゆするが何も起きない。
抱き着きながら寝てしまったか。
酔いが回りきったみたいだな。
ふう。
―色々際どかったが、何とか一線は守った。―
「すぅ・・・すぅ・・・ユーィさまぁー・・・すぅ・・・」
―うん、寝るか。―
翌朝、サーシャの顔は真っ赤になっていた。
「おはよう。昨日の記憶・・・ある?」
「と、途中まで・・・。わたし、なんかすごいことしちゃったような気が・・・。」
最初からすごかった気もするけどな。
「てかサーシャ、自分から普通に酒飲んでなかった?」
「の・・・飲んでません。そういう事にしてください・・・。」
そういう事に、ねえ。
―大丈夫。傷物にはなってない。―
「サーシャ。もっと、自分を大切にしな。」
「ごめんなさい。わたし、いろいろすっ飛ばしちゃってました。」
すっ飛ばす、ねえ。
サーシャも色々たまっていたんだろうな。ここの所、激動の毎日だし。
「でも、ユーリ様がわたしを大切にしてくださっているのが、あらためてわかりました。」
うん。そりゃサーシャのことは大切だ。昨日は、何か思うところあっての行動だったのだろうし、これ以上は触れない方が良いだろう。
甘い匂い。
柔らかな感触。
思い出すと、色々まずいものが思い浮かぶし、な。
朝食を食べた後、俺達は昨日の武器屋を再度訪れた。
「交渉ですか・・・。」
「そういう事です。俺達としては、どうしてもまとまった数の武器は欲しいわけで。」
「そうですか・・・わかりました。お話しいたしましょう。」
俺達は粘り強く交渉を続ける。
どうやら交渉の余地はありそうで、話し合いは長時間に及んだ。
いつの間にか日差しの向きが変わっている。
「もうお昼近くですね。・・・マリア、お客様方にお茶をお出しして。」
返事が無い。
「マリアー?あれ?あの子どこに行ったんだ。」
「昨日俺たちに声をかけてくれた女の子ですか?」
「ええ。さっきまでそこら辺にいたのですが。」
店主が困惑している。
「ユーリ様、ひょっとすると、見世物の熊を見に行ったんじゃないですか?」
「そういえば、今日までって言ってたな。俺達ちょっと探しに行ってきます。」
「ええ、助かります。ありがとうございます。」
「さあさあリューリクの暴れ熊、見られるのは今日までだよー。」
小屋の店主の声が響き渡っている。
熊を一目見ようと、あたりには黒山の人だかりができている。
「今日は終いだから、特別にみなさんの前で熊の姿を大公開!良かったら投げ銭よろしく!」
小屋の主は、テントから熊を引っ張り出してきた。
よく見ると、下が台車になっているようだ。
「おお、すごい大きさだ!」
「リューリクにはこんな大きい熊がいるのか!」
「すばらしい!」
群衆が感動のあまり大声を上げる。
ウオオオオオ!!
驚いたのか、熊が吠え、巨体を揺らす。
ガチャガチャガチャガチャ!
「鎖を引きちぎろうとしているな。」
「すごい迫力ですね。」
女の子探しに戻ろうとして、気付いた。
「まて、あの鎖、根元が切れかかってるぞ。」
俺が指差す。サーシャも気付いたようだ。
「本当だ。危ないですね。」
小屋主に伝えようとした矢先のこと。
ウオオオオオ!!
バチーン!
鎖が、根元からちぎれた。
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