第12話 サーシャの武器探し旅行
ミーリャさんの家族が移住してから何日か後。
俺達は、ロスラヴィの屋敷で何か武器が無いかをあさっていた。
「剣・・・槍・・・弓・・・・あるにはあるけど・・・、錆びていたり壊れていたりで、使えそうな物は無いな。」
「うちは、代々文官だったらしいので、あまり武器の手入れはしていなかったみたいです。
「となると、やっぱり武器は買い出しだな。」
サーシャの武器だけならともかく、村人が使う武器をまとめて買うとなると、ミーリャさんの故郷に行くときと違って、大荷物に何台か馬車を連ねていく事になる。
速度も遅くなるし、そもそも目立ちすぎて、国内じゃ無理だな。
「それなら、パルスカ王国に入って西に200kmのマギリョと言う街に、いい武器屋がたくさんあると聞きます。」
ミーリャさんがそう提案してくれた。
「マギリョか・・・ここからどれ位かかるんだろう?」
「大体片道で4日程かと。」
「4日か・・・。よし、遠いけど行こう。留守はミーリャさんに任せた。」
「全身全霊で、留守をお守りします。」
前なら1週間以上屋敷を空にするのは抵抗があったが、今はミーリャさんがいるのでその心配はない。
俺とサーシャは、数台の荷馬車をお供に連れ、マギリョへと出発した。
盾を引き抜いた森を突っ切り、直接国境を越える。
パルスカ王国は、リューリク王国、そしてロスラヴィ領のすぐ西側にある国だ。
リューリク王国とほぼ同じ1000万の民が暮らしているが、今のリューリク王国よりははるかに上の国力を誇っている。
俺もサーシャも、国を離れるのは初めてだ。
特にサーシャにとっては、見るものすべてが目新しいようだ。
「ユーリ様見てください!角が生えたペガサスが沢山います!」
草原のペガサスに感動するサーシャを横目に、俺は考え込む。
「ユーリ様、どうしたんですか?」
サーシャは、俺が熱心にペガサスを観察している様子が気になるようだ。。
「いやね、強そうなペガサスだけど・・・弱点はどこかなって。」
「弱点?」
「そ、弱点。」
パルスカ王国の軍隊は、この角が生えたペガサスを切り札として使うらしい。
「リューリク王国とパルスカ王国は、ずっと昔からの宿敵だからね。いつかは、戦うことになるよ。」
ましてや、ロスラヴィはそのパルスカ王国と国境を接しているのだ。
今すぐは何も起きなくとも、いずれはこのペガサスがロスラヴィに攻め込んでくることも十分考えられるのだ。
「あー。確かに。やっぱりユーリ様はすごいです。わたしは全然考えつきませんでした。」
その後も、俺達はしばらくの間じっくりとペガサスを眺めた。
4日後。
俺たちを乗せた馬車は、マギリョの街に着いた。
「わぁー!人がたくさんいますね。」
リューリク王国の王都ほどではないが、かなり大きめの街だ。
「見世物小屋があります!せっかくだから見て行きたいです!」
サーシャがせがむので、俺も見世物小屋のテントに入ることにした。
巨大な熊が、太い鎖につながれている。
体長5メートルは越えるだろう。
「ユーリ様見てください!パルスカってあんなに大きい熊がいるんですね!」
見世物小屋の主人がはやし立てる。
「これが森の暴れん坊、人食い熊だ!はるばるリューリク王国の東部地方からやってきたのさ!」
「・・・うちの国の熊だそうだ。」
「そうみたいですね。でも、ロスラヴィには熊はいなかったから、私はやっぱり初めて見ました。」
熊は王都近辺の森にも稀に出現するが、その大きさはせいぜい2~3メートルと言った所で、この大きさの熊を見たのは俺も初めてだ。
よくぞまあここまで運んできたものだ。
俺達は一泊して情報収集することにした。武器探しは明日からだ。
宿屋にて。
「リューリク王国から来たのですか?」
「はい。といっても、かなり辺境の方ですけど。」
「今リューリクは大変らしいですね。なんでも、新しい王が戴冠式をするという名目で、民にかなり重い税をかけているとか。」
主人にリューリクから来たことを告げると、主人は気の毒そうに語り始めた。
「しかも」
宿屋の主人は声を潜めて続けた。
「前の王と王子は、新しい王に殺されたんじゃないかって噂が流れてるそうですね。よその国ながら、ひどいことをする王もいたもんだ。」
うちの国ながら、本当にひどい大臣―今は王になったのか―だと思う。
「それだけじゃないんですよ。」
と言うと?
「・・・どうやら、前の王族に生き残りがいるんじゃないかと言う噂が、リューリクでも、このパスルカでも広まっているんですよ。」
「生き残り?」
まさに俺こそがその生き残りだが、サーシャとミーリャさん以外に話したことは無い。どういうことだ?
「少し前にリューリクから来た人に聞いたのですが、なんでも王の権威を示す宝具が、最近行方不明になっているらしいですね。それで、それを持っているのが、王族の生き残りじゃないかって言うんですよ。」
あー、そっちか。
考えるまでも無い。そのレガリアを持っているのも、この俺だ。
「新しい王はレガリアを国中を探し回っているらしいのですが、未だ見つからないそうですね。」
暗殺者ならこの前来たけどな。今はうちの屋敷で留守番してもらってるよ。
「とにかく、そんなこんなで、民の不満が限界をこえつつあるらしいですね。何かきっかけがあれば、大きな事件が起きるんじゃないかって、ここマギリョでも、戦々恐々ですよ。ここは国境に比較的近いので、リューリク側で何か起きれば一気にきな臭くなりますからね。」
そんな主人に向かって、大量の武器を買い付けに来た・・・なんて、言えないな、こりゃ。
翌日。俺達はミーリャさんに教えてもらった大きな武器屋に来た。
「いらっしゃいませ!ごゆっくり!」
店番だろうか、小さい女の子が声をかけてくれる。
俺達は店の中に入った。
「たくさんの見たことない武器が並んでいます!」
サーシャは感動している。来た甲斐があったというものだ。
「この店、使って試させてくれるみたいだから、いろんな武器試してみなよ。」
「はい!それなら、あの剣とかやってみたいです。」
サーシャの目に留まったのは、長さ1メートルほどの剣だ。
「鞘に入れたまま、振ってみな。」
俺はモンスター役だ。
店にあった着ぐるみに入って、サーシャに襲い掛かる。
「がおー。」
実に間抜けな声。
ただし、動きだけは実戦さながらだ。
「ひゃっ!」
ぺしっ。
俺の手加減てのひらがサーシャの額にとまる。
「サーシャ。攻撃しなきゃやられるよ。」
「うーん・・・わかってはいるんですけど、やっぱりモンスターが迫ってくると、怖いです。」
「接近戦はどうしてもね。」
魔法で防御力を強化をしても、サーシャは元の防御力が低いので、限界がある。
「そうか。・・・なら、別の武器だな。」
長槍。
長さが3m近くある。
「さっきよりはリーチが大分長いよ。」
はい。
「ユ、ユーリさまぁ、お、重いです!」
サーシャがバランスを崩し。
槍があらぬ方向を向いて倒れ込んでくる。
―あ、これ穂先が俺に直撃するコースだ!―
「うわぁぁぁ!『防御!』」
魔法のバリアが槍を防ぐ。
危ない危ない。
「いやあ、まさかのサーシャの強烈な攻撃・・・」
「ごめんなさぁい!」
夜。
「なんか、すみません・・・。」
宿屋に戻ったサーシャは、意気消沈していた。
「・・・まあ、こういうこともあるよ。」
俺はサーシャの髪をなでて慰める。
「ありがとうございます。」
サーシャは少し元気になってくれた。
今日一日でわかったが、どうもサーシャには近接戦闘は難しいかもしれない。
ならば、遠距離だ。
翌日。
「そういえば、ミーリャさんが剣を投げてたな。」
一応試してみる・・・が。
ヒュンヒュンヒュン!
剣は的を外れ、あらぬ方向へ飛んでいく。
と言うか、なぜか一部は俺に当たっている。
昨日の反省から自分に『防御力上昇』をかけているので、無論何も被害はないが。
「ごめんなさい・・・」
サーシャはしゅんとしている。
「大丈夫だよ。あれは職人技だ。俺だってできない。」
弓。
矢をつがえ、ぐいっと引いてみる。
バチッ!
「きゃっ。」
伸びきる前に手が滑ったのか、あらぬ方向に矢が飛び、弦がサーシャに当たった。
魔法はあくまで威力を上げるだけだ。サーシャを怪力にするわけでは無い。
ただし。
―接近戦よりは、見込みがありそうだ。
「方向性はあってると思うんだよなぁ。」
投石で戦えていたのも、元々遠距離から攻撃する武器の素質があったからかもしれない。
そう考えていた矢先、俺はあるものに目がとまった。
「うん?あれなんかどう?」
「これですか?」
サーシャがそれを手に取る。
クロスボウだ。
このあたりでは珍しい武器だが、弓よりは扱いやすいかもしれない。
矢をつがえて引く。
バシュン!
的こそは外れたが、まともな飛び方をした。
練習すれば、当たるようになるかもしれない。
「これ、弓よりは全然力要らなくて使いやすいです。」
「うん。行けるかもしれないな。練習すれば小さな目標にも命中するよ。」
「はい!これにします!」
サーシャは元気いっぱいに答えた。
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